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環境省「長期低炭素ビジョン」解題(3)


国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)


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再びカーボンプライス論

 カーボンプライスについては1月19日の第11回小委員会でも議論され、既に本項でも紹介した通り、世界全体で共通にかけないと意味(効果)がないこと、炭素税や排出権取引のような明示的炭素価格以外にも、燃料課税のような間接的・暗示的な炭素価格もある点などについて筆者から指摘をさせていただいたのだが、今回事務局から示された素案でも依然として随所に(明示的な)カーボンプライス導入の意義や必要性が記載されていたため、あらためて発言をさせていただいた。

「次に、カーボンプライスです。こちらもかなりの紙面を取って議論されていますけれども、まず第1に、素案では「(カーボンプライシングの)重要性は、COP21決定やG7伊勢志摩サミットなど、国際的合意の場でも繰り返し指摘されており、世界各国の共通認識になっている。」とありますが、カーボンプライスが温暖化対策の手法の一つとして言及されているのは事実ですけれども、これはあくまで手法の一つということで引用されているものと考えています。まして、その一形態である炭素税、あるいは排出権取引といったものを各国に推奨するという事実は、少なくともこういう国際会議のコミュニケの中には書かれておりません。カーボンプライスの経済影響につきましては、さまざまな議論があるかと思いますけれども、例えば「実効炭素価格が高い国では、高い炭素生産性が観察されている」というような引用がデータ等で示されていますけれども、炭素生産性の高いスイス、ノルウエー、スウェーデンといった国は、基本的に水力で安価な低炭素電力を賄えるという国でございまして、そうした特殊事情の国を除くと実効炭素価格と炭素生産性の相関はあまりないのではないかと考えられます。一方で、ドイツや英国は日本よりも高い実効炭素価格を持ちながら、GDP当たりの炭素生産性は日本とさほど変わらないという事実もございます。こういったことを踏まえて、各国がどのような炭素価格をかけて、炭素価格がどのような効果をもたらしているかということもきめ細かに分析していく必要があろうかと思います。

(出典:環境省「長期低炭素ビジョン」参考資料集P149)

(出典:環境省「長期低炭素ビジョン」参考資料集P149)

 また、いただいた資料の国際比較では、主に、欧州と日本を比較されていますけれども、カーボンプライスという、経済活動にコストをかける政策に対する産業界の懸念の本質は、国際的に共通なカーボンプライスが存在していない中で、各国で課されるカーボンプライスが国際競争にどういう格差をもたらすかということです。日本の場合は、欧州との貿易の比率がそんなに大きくなくて、基本的にアジア・太平洋地域での貿易が非常に活発でございます。そうしますと、このアジア・太平洋地域における国際競争力等を勘案したカーボンプライスの比較ということが必要になってくるのではないかと思います。
 また、炭素価格にはさまざまなタイプがあって、暗示的な炭素価格もあるということが記載されていて(素案p68)、これは評価いたしますけれども、その後の記述の中で、この暗示的炭素価格がどういう効果をもたらしているかといったような記述は一切落ちております。日本エネルギー経済研究所の分析によりますと、日本の産業に課されている暗示的炭素価格を含めた合計の炭素価格は、メガワット当たり150ドルを超えているという試算になっております注3)
 ドイツ・英国よりもかなり高く、アメリカ・韓国の2倍になっていますので、実は、日本の産業は、アメリカや韓国といった貿易競争相手の倍の炭素価格を負った中で国際競争を行っているわけです。その結果として、典型的な電力多消費事業であるアルミ精錬は日本から撤退しております。また最近のFIT賦課金の上乗せや震災後の電力コストの上昇に伴いまして、中小の電気炉事業者4社が廃業しておりますし、鋳造事業者、これも電力多消費産業ですけれども、既に40社が廃業・撤退に追い込まれているという事実もございます。

産業用電力にかかるエネルギーあたりカーボンプライス比較(出典:経済産業省長期温暖化対策プラットフォーム「国内投資拡大タスクフォース」第7回資料)

産業用電力にかかるエネルギーあたりカーボンプライス比較
(出典:経済産業省長期温暖化対策プラットフォーム「国内投資拡大タスクフォース」第7回資料)

 これだけの足かせを負いながら国際競争力を何とか維持している日本の産業セクターは、恐らく生産性や付加価値創造といった部分で、国際競争力を取り戻すためにたゆまぬ努力をしているのだろうと思われます。仮に現状日本で課されている炭素価格が米国並みに下がれば、その分収益が大きくなるわけですから、我が国の炭素生産性、あるいは付加価値生産性が低いという、指摘されているような懸念も解消できる可能性もあるのではなかと思います。
 まずは日本社会が既に負っている暗示的な炭素価格を明らかにして、世界との比較のもとに、現状をきちんと分析する必要があるのではないか思います。また、70年代から世界に先駆けて導入されています上流化石燃料税である石油石炭税等の価格効果、財源効果についても、きちんと評価分析した上で、今後、他国との比較の中で、追加的なカーボンプライス賦課が、どのような効果をもたらすかということを、きちんと産業競争力的な観点を含めてまとめていただき、その導入の是非を検討する必要があるのではないかと思います。そういう意味で、「できるだけ早期に、効果のあるカーボンプライスを導入するということが効果を発揮させる」(素案p49)というのは、結論ありきの話になってしまっています。まずは現状認識を深めることが先ではないかというふうに思う次第でございます。」

注3)
経済産業省長期温暖化対策プラットフォーム「国内投資拡大タスクフォース」第7回資料4P22
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/ondanka_platform/kokunaitoushi/pdf/007_04_00.pdf