【提言】「日米首脳会談から見える我が国のエネルギー安保の死角」
印刷用ページ(「エネルギー問題に発言する会」ホームページよリ転載:2026年4月4日)
【要旨】
政府関係者が固唾をのんで見守っていた日米首脳会談は無難に通過することが出来た。高市総理ならびに政権関係者の周到な準備と対応が奏功した。しかし、トランプ氏はホルムズ海峡封鎖解除の各国の取り組に関して「STEP UP(本気になれ!)」を繰り返した。茂木外相は会談後の記者会見で「日本側の宿題はない」とコメント。表向きはそれでいいが、今般の首脳会談とその背景的状況に照らし先行き不透明でますます予見が困難な国際情勢/経済動向の中にあって、アジア・太平洋地区の地政学的環境を勘案すると、エネルギー安全保障に関する我が国が抱える死角、即ち、欠陥や盲点や国家としての潜在課題が見えてくる。以下、我が国のエネルギー安全保障の死角について論点整理と課題指摘を試みる。
1.日米首脳会談の重い宿題(現地時間2026年3月19日に開催)
日米首脳会談では「法的にできることとできないこと」を的確に説明、事前の日本側懸念事項を回避する結果となり内外から一定のポジティブな評価を獲得し成功であった。一部のメデイアには「愛嬌外交」と言った揶揄もあるが、少なくとも「土下座外交」ではなく、強固な同盟の絆を演出できた点と孤立する米国に対する同盟国としてのメッセージを贈った点は評価出来る。今回は、艦隊派遣などは出来ないことの説得は出来たが何時までも同じような弁明が同盟国や有志国に通じると思うのは安易といえる。
高市総理には、資源貧国であり且つエネルギー大量消費国である我が国が将来も安定的・持続的に発展する為の「エネ安保の一層の強靱化」を実現し、国際社会で責任を全うできる「国家ガバナンス・制度の在り方」が先送りできない宿題になったとの認識を持って欲しい。特に同盟国を巻き込むような有事の際の政治的・外交的役割に関し日本が規範的価値の共有を前提とした主体的判断と決断を下せるようにする為の法制度基盤の在り方が喫緊課題である事を胸に刻んで欲しい。日本の危機管理・エネ安保の要諦の見直し強化をSTEP UP(本気になれ)することが本当の宿題であり、今、不退転の取組みが求められている。
2.米国・イスラエルの攻撃・イラン反撃と海峡閉鎖によるエネルギー危機
中東情勢の緊迫化・長期化懸念が世界の経済危機発生を示唆している。戦争の数だけ大義があり,戦禍の数だけ復讐の連鎖と破壊/殺戮がある。出口戦略がみえない米国の戦術的悪手の中で「エネルギーの武器化」が定着した。資源や生活インフラを紛争の人質とする中で、ホルムズ海峡封鎖が続き世界はエネルギー危機に直面している。原油の逼迫と価格高騰で石油製品価格が高騰し前例のない経済的危機が発生し、あらゆる経済圏に打撃を与える恐れがある。特に中東依存度の高い日・韓・フィリピンや外貨準備の乏しい国や備蓄がないアジア諸国が瀬戸際に立たされている。エネルギー価格の高騰が家計や企業経営を圧迫し、世界的な景気後退が懸念される。日・韓・フィリピンなどは物価高の加速・通貨安・株安の連鎖で経済運営が容易でない状況であり、更にイラン攻撃には一定の距離を置く中国の動向も鑑みると日本のエネルギー安全保障の強靱化は待ったなしである。(下図参照)
3.検証:日本のエネルギー安全保障政策の基盤に死角はないか?
『わが国は、エネルギー資源の輸入を海上輸送に依存していることから、海上交通の安全確保は国家存立のために死活的に重要な課題である。(中略)一方、海洋においては、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づいて自国の権利を一方的に主張し、又は行動する事例がみられ、「公海自由の原則」が不当に侵害される状況が生じている。又、中東地域における船舶を対象とした攻撃事案などや、各地で発生している海賊行為は、海上交通に対する脅威となっている。』(防衛白書 令和7年度版より抜粋)上記の観点から日本が持続的に繁栄を続ける為の基盤である「エネルギー安全保障」の重要ポイントは「シーレーンの航行安全確保」と「力による現状変更の抑止」である。この観点から死角がないかを俯瞰し検証と課題抽出を試みる。
❐ 足下のエネルギー危機への対処と原子力最大限活用政策の鋭意緊急具体化を!
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- 備蓄石油(国家・民間)を放出し、ガソリン価格を170円/Lに抑える緊急措置の発動、石炭火力発電のフル稼働容認は機敏な処置であると評価する。尚、省エネ対策(家庭・運輸部門・産業部門他)の喚起を「緊急アピール」として追加すべきと考える。
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- エネルギー資源調達先の一層の多様化によるリスク低減の為の品目毎のきめ細かい体系的検討と具体的な取り決めに官民あげて注力する事が肝要である。
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- 原発新設に向けた原子力事業環境整備施策(公的建設資金支援、電力自由化政策の見直し、規制改革の断行、原子力損害賠償制度の見直し等)の官民総力を挙げた取組みは待ったなしの喫緊課題である。
❐ 「自由で開かれたインド・太平洋(FOIP)」の理念の実効化で有事抑止を!
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- 2016年8月、第6回アフリカ開発会議にて、安倍総理(当時)が基調演説の中で、「日本は、太平洋とインド洋、アジアとアフリカの合流点を、武力や強制によらない自由と法の支配、市場経済を重んじる場所に育て、繁栄させる責任を負っている」と述べた。
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- 今回の日米首脳会談で、高市総理は、「自由で開かれたインド太平洋」を日本外交の柱として、力強く推進し、戦略的に進化させていく決意を改めて示し、FOIPの下で今後も力強く日米協力を推進していくことを確認。両首脳は、日米韓、日米比、日米豪印といった地域の同志国ネットワークを強化していく重要性を確認した。今後は、この理念を有事抑止に対する実効性を具備すべく多国間協定等を締結するなどの取組みに期待したい。
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- ASEAN諸国と中国との間では、「南シナ海に関する行動規範(COC:Code of the Conduct of Parties in the South China Sea)」の策定に向けた公式協議が継続している。協議は難航しているが、こうした、海洋や空における不測の事態を回避・防止するための取組が、既存の国際秩序を補完し、今後中国を含む関係各国は緊張を高める一方的な行動を慎み法の支配の原則に基づき行動することに日本政府の強力な側面支援を期待したい。
❐ 秩序ある円安抑止策が必要!
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- イラン・中東紛争の長期化と原油の一層の高騰懸念から円安(対米ドル、対ユーロ)・株安が止まらない。現下の日本は地政学的有事に無力であり資源高への経済的耐性が無いことから日本が売られている。今回の紛争で「安い円で貿易収支を稼ぐ一方、エネルギー資源の約85%を海外に依存する我が国は、海峡封鎖による資源高騰ではダブルパンチを食らう」事を再認識したと言える。
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- 今後の課題としては、「強い日本」「強い経済」には「強い円」も必要であり、円への信任を高める事が肝要だ。円安抑止は日米で利害が一致する公算大であり、秩序ある為替政策について日米協調連携が必要である。
❐ 重層的な多国間の互恵的経済協調合意に向けての取組みの拡充を!
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- エネルギーの世界は資源国と消費国との持ちつ持たれつの関係が基本である。日本の多国間経済連携協定(EPA/FTA)は、アジア太平洋地域を中心とした「巨大経済圏」の構築と、ルールに基づく自由で公正な貿易秩序の維持・強化を軸に展開すべきでエネルギー安全保障の強靱化のための必須案件である。今後はサプライチェーンの強靭化に向けた信頼できるパートナー間での経済連携を強化することが肝要。
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- インド太平洋地域での連携:CPTPP(*)やRCEP(**)を通じて、米国に依存しない東アジア諸国を中心とした一体的なサプライチェーン網を強化することが極めて重要であり、エネルギーに関わる一層充実した協定の折り込みが期待される。
- (*):
- CPTTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定): 日本が主導したアジア太平洋の高品質な貿易ルール。高いレベルの市場アクセスと、投資、知的財産、電子商取引などの分野で包括的な規律を定めている。
- (**):
- RCEP(日本、ASEAN諸国、中国、韓国、豪州、NZの計15カ国が参加し、2022年1月に発効した巨大な自由貿易協定(FTA)。
4.結語
今般のイラン・中東紛争と海峡封鎖から、エネルギー資源輸送路の安全確保が「真の生命線」 である事を政府・全国民が再認識した。ホルムズ海峡リスクが潜在することは予てより指摘されていたが、実際に発生した事実上の海峡封鎖は予想を上回る影響を与えつつある。我が国の「エネルギー安全保障」の視点からはホルムズ海峡封鎖には多くのレッスンがあり、資源貧国としての教訓は多い。その最大の示唆は、日本の「エネルギー安全保障」には未だに国際情勢に支配される多くの潜在的死角があると言うことを痛感した点である。今般の日米首脳会談では日本は実質重い宿題を持ち帰ったとの認識が必要だ。これからは有事の際に頼りにされる日本となる為の諸施策の検討と具体的な準備が問われる。本提言はエネルギー安全保障の視点からの憂国の叫びであり、高市総理や政府関係者への激励と期待の檄である。















