欧州も米国もAffordabilityを目指す


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「月刊エネルギーレビュー」vol.544 2026年5月号(2026.4.20発刊) より転載)

企業時代に米国で働いていた事務所は、ピッツバーグのUSスティールビルの28階にあったが、ビルの中の事務室には電灯のスイッチがなかった。

事務所を出るのが最後になる時に、いつも電気代がもったいないと思っていたが、ビルの管理会社も無駄に気が付いたのか、夜10時に一旦ビルの全フロアの照明を落とすことを決めた。10時以降も残業している時は管理事務所に電話をして点灯してもらうのだが、連絡するとフロアの照明が全て点灯される。フロアの一部だけを点灯するスイッチは用意されていなかったようだ。

なぜ、米国企業が電気代にあまり注意を払わないかといえば、電気料金が安いこともある。昨年12月の全米平均の商業用電気料金は1キロワット時当たり13.41セント。家庭用は17.30セントだ。それでも最近、電気料金は上昇している。停滞していた電力需要が増加に転じ、設備投資が必要になってきたことも背景にあるのだろう。家庭用電気料金は25年の1年間で5%上昇した。

米国のアル・ゴア元副大統領が主演し2006年に公開された映画『不都合な真実』は温暖化対策を訴え、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したが、2006年のアル・ゴアの自宅の電力消費量が22万キロワット時を超えていたことが暴露され、アル・ゴアの不都合な真実と話題になった。ゴアほどではないが、米国の標準家庭の1年間の平均電力消費量は、1万キロワット時を超えている。日本や欧州の標準家庭の3倍を超える消費量だ。電気料金が安くても支払う総額は大きい。

このエネルギー価格の上昇は今年11月の中間選挙にも影響を与えるとして、米国のメディアが、選挙の大きな争点はAffordability(手頃な価格)になると伝え始めた。トランプ大統領も2024年の選挙期間中の公約、ガソリン価格と電気料金を就任後一年で半額にする公約実現に頭を捻っているのだろうが、イランへの攻撃がホルムズ海峡封鎖を引き起こした。米国内の平均ガソリン価格が上昇し、Affordability実現は一層難しくなってきている。

Affordabilityが大きな話題になっているのは、欧州も同じだ。1月にオンラインで話をしたドイツの研究機関の所員は、国民の関心はClimate(気候)からAffordabilityに移っていると述べていた。エネルギー危機以降、ドイツ経済は不調だ。エネルギー価格、電気料金は大きく上昇し今は下がったが、エネルギー危機前の水準より上昇したままだ。家庭用の電気料金は約40ユーロセントで、日本の料金の2倍を超える。国民と産業が安価なエネルギー価格を望むのは当然にも思える。安価なエネルギーは、2050年(ドイツは45年)ネットゼロ目標よりも優先すると考える国民が増えるのも理解できる。

欧州委員会も、Affordabilityが重要と主張し始めた。もっともClimateを無下にするわけにはいかないので、原子力発電推進を前面に打ち出しAffordabilityとClimateを同時に達成しようとしている。3月10日に開催された原子力サミット会場で欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長がスピーチをしたが、次の通りAffordabilityに触れ原子力発電の推進を訴えた。「ロボットとAIが産業を牽引するが、ともに手頃な価格の電力を必要とする。原子力発電の割合を削減したのはひとつの選択だったが、信頼性が高く、手頃な価格の低排出電源に背を向けたのは、戦略的な誤りだった」。

日本の高市早苗総理も安価で安定的なエネルギー供給を目標としており、やはりAffordabilityだ。しかし、どう達成するのか実現の方策を考えると、短中期の具体策はあまりない。競争力のある電力価格の短中期の実現には、競争力のある石炭火力の維持も必要になるのではないだろうか。電力需要増が予想される中で、短中期の対策は限られている。