レアアースはなぜ重要?


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「環境市場新聞 2026年(令和8年)春季第84号」より転載)

高市首相の台湾有事を巡る国会答弁以降、来日する中国人観光客が減っていますが、もうーつ減っているものがあります。レアアースです。関係悪化を受け、中国政府が強化する軍民両用の輸出規制品の筆頭がレアアースです。2010年に尖閣諸島近海で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件がありました。事件直後から日本向けレアアース輸出が停止し、産業界は悲鳴を上げました。当時から中国依存度の高い製品です。

世界のレアアース製品供給の9割以上のシェアを持つ中国は、レアアースを経済上の武器に利用することがあります。なぜ武器になるのか。それがなければ、蓄電池も、風力発電設備も、電気自動車も製造できないからです。磁石、触媒、研磨剤などに使うので、脱炭素に必要な製品に限らず、戦闘機、レーダ、ミサイル誘導システムなどの防衛装備品にも欠かせません。レア(まれ)と呼ばれるほど珍しいかといえば、そんなことはなく地中に多く存在します。ただ集中して存在する場所は限定されます。

レアアースは、原子番号57 のランタンから71のルテチウムまで15の元素にスカンジウムとイットリウムを加えた17の元素の呼び方です。生産地が限られるのに加え、鉱石から元素を分離し製品に加工する際に放射性廃棄物が排出されることもあるほど環境負荷の高い工程が必要です。現在は圧倒的な世界シェアを持つ中国ですが、生産を本格化したのは1980年代。それまでは米国が世界シュア1位でした。

中国が1位になったのは環境負荷の高い分離加工作業が先進国で困難になるのと並行し、中国がこの工程を安値で請け負ったためといわれます。今は中国のレアアース鉱石生産の世界シェアは69%ですが、中国が他国の鉱石を加工するので製品のシェアは91%です。中国は、レアアースが脱炭素のみならず防衛産業にも必須の鉱物になり需要が大きく膨らむと見込み、世界シュアを拡大しました。

地政学リスクの高まりを受け、日米欧は重要鉱物の脱中国を共同で検討していますが、環境負荷が高く生産が難しくなった製品を再び自国に戻すのは簡単ではないでしょう。欧州では、すでに反対連動も報じられています。日本も探査船「ちきゅう」を使い南鳥島沖の約6000メートルの海底からレアアースを含む泥の採収に成功しましたが、環境負荷が高い精製工程を担う場所を見つける課題は残ります。

今後、日米欧で採掘、生産が始まれば中国のシェアは下がり経済的な武器に利用されなくなる期待はありますが、まだ時問はかかるでしょう。米国が領有を望むレアアース埋蔵量が多いグリーンランドでの加工は可能かもしれませんがインフラ整備に時問を要します。重要な資源を同盟国内で生産するのは安全保障上極めて重要ですが、実現は簡単ではありません。