再エネ促進は環境とエネルギー安全保障で一挙両得なのか?


国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)

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米イラン紛争によりホルムズ海峡が封鎖され、世界は深刻なエネルギー危機に直面している。そうした中で、中東地域に供給が偏る石油や天然ガス等の化石燃料に依存したエネルギーシステムの脆弱性があらためて認識され、各国はエネルギー調達の構造的な変革を迫られている。エネルギー安全保障を確保するためには、特定地域への依存度が高く、チョークポイントを経由して流通する石油やガスといった化石燃料への依存から「脱却」し、自然の恵みとして供給不安がなく「国産化」できる太陽光や風力といった再生可能エネルギーへの転換を今こそ加速すべきだという言説が目に付くようになったi。太陽光も風力も、もとをただせば太陽がもたらす自然エネルギーを活用するものであり、特定地域への依存や輸送ルートのリスクを受けることがなく各国のエネルギー安全保障の向上につながる、というわけである。

こうした主張は、世界の発電電力量構成に占める再生可能エネルギーのシェアが、25年上期に初めて石炭や天然ガスを超えてトップになったという「再エネ主流の時代が来た!」的なニュースiiの印象よって補強されて、一見もっともらしく聞こえる。世界の発電において従来最大の供給シェアを持っていたエネルギー源は石炭であったのだが、2025年上期には初めて、再エネが石炭火力のシェア33.1%を超えて34.3%になった(ここで再エネには太陽光・風力に水力・バイオマス含む)というのは事実だ(ただし太陽光・風力に限ると合わせて18%にとどまる)。しかしエネルギー供給を電力供給に限ってみたとしても、天然ガス・石油を加えた化石燃料発電の世界の発電電力量に占める比率は、依然として56.6%と過半を占めており、原子力9.1%と合わせて65.7%、つまり三分の二の電力が依然として「非再エネ」によって供給されている。世界が現状で電化を加速しても、その電力の半分以上は化石燃料から供給されているというのが実態であることを忘れてはならない。

しかもこれはエネルギー供給全体の中で、電力という二次エネルギー供給にだけ注目した話であり、家庭の暖房や給湯、工業生産で加熱や燃焼に使用される燃料、自動車・船舶・航空を含む輸送用燃料等を含めた世界の一次エネルギー供給全体の8割が、依然として石油・石炭・天然ガスといった化石エネルギーによって賄われているというのが現実である。さらにホルムズ海峡封鎖で供給途絶が問題になっているナフサ(樹脂や繊維の原料になる)や肥料など、石油や天然ガスを「燃料」ではなく「原料」として利用した、我々の生活に欠かせない様々な工業製品もこうした化石資源を使って作られており、それらを再エネだけから代替生産することはできないというのが現実である。世界は事実上化石資源に依存して営まれているのである。ホルムズ危機に触発されて再エネへのエネルギー転換を進めたとしても、化石資源からの完全な脱却は容易でない・・・というか、現下の技術・経済制約の下でそれはほぼ不可能なミッションであることは「厳然とした事実」でありiii、我々が「再エネの時代が来た」的なニュースや論説を見るときに常にその背景として押さえておくべきポイントである。

その点をより明白に示すため、ここから本稿の本題に入っていく。上記のように「脱化石エネルギー依存・脱炭素」の救世主として希望的な観測や主張が散見され、期待を集める再生可能エネルギーであるが、はたして再エネへのエネルギーへの転換は本当に「脱化石エネルギー・脱炭素」を加速できるのだろうか?この疑問について最近答えてくれる論考を、筆者の古くからの知己であり、元コロラド大学教授、現AEI(American Enterprise Institute)シニアフェローのRoger Pielke JR.が発表している。彼は太陽光・風力と、蓄電池(太陽光・風力の持つ自然変動性を緩和するために必要となる)に関して、「再生可能エネルギーは再生可能か?」という問題として、定量的に検討した論考「”Renewables” are not Renewable」ivを3月末に発表している。そこでのPielke教授の論旨は、タイトルの通りで、「風力発電タービンと太陽光パネルは、風力と太陽光のエネルギーによって賄われたサプライチェーンで生産できるだろうか?その答えはNOである。風力発電タービンと太陽光パネルの生産プロセスは、化石エネルギー集約型のサプライチェーンによって支えられており、その化石エネルギーを代替する技術はいまだ存在せず、将来も存在しえないだろう」というものである。そこでは再生可能エネルギー「だけ」を使って太陽光・風力といった再エネ発電設備を拡大再生産していくことはできないという、「不都合な真実」が指摘されている。以下その論点を紹介しよう。

先ずPielke教授は米Breakthrough Instituteの論文vをもとに、様々な発電設備がそのライフサイクルを通して1GWhの電力を生み出すのに必要となる素材や原燃料の「物量」について紹介している。発電設備の中で最大の物量を要するのが洋上風力発電設備であり、1GWhの電力を得るのにおよそ7トンもの素材を必要とし、そのうち5トンが基礎となるセメント、1.7トンが支柱となる鋼材、その他アルミや銅などの金属類を大量に使うとしている。風力発電は建設から25年間のライフサイクルにわたって発電をするが、その際に石油・ガスなどの「燃料」は必要とはしないものの、そもそもその設備を作るためには、1GWhの発電量当たり7トンもの資材を必要とするということであるvi。より基礎構造がシンプルな陸上風力の場合でも1GWhの電力を得るのに約2トンの素材が必要で、そのうち1.8トンが鋼材だという。太陽光の場合1.8トンの必要素材のうち0.8トンが躯体としての鋼材で、それに加えて0.3トン超のガラスと0.2トン弱のアルミ・シリコンなどを要するvii。これらの発電設備に加えて、発電量が自然条件で変動する太陽光・風力等の「変動性再エネ」の場合、蓄電池による系統給電調整機能を併用することが必要であり、そのための蓄電池にはアルミ・ニッケル・リチウム・ボロンなどの希少金属を含めて蓄電1GWhあたり約0.43トンの金属素材が必要となるとしている。通常蓄電池の寿命は10~13年程度なので、耐用年数25~30年とされる太陽光・風力の各設備にはその耐用期間を通して2~2.5サイクルの蓄電池交換が必要になり、物量的には1GWhあたり0.8~1.2トンにもの金属素材が必要となる。Pielke教授は原子力発電設備が必要とする物量も紹介しているのだが、原発は設備耐用年数が60年超と長く、かつ利用率が高く莫大な電力を生み出すため、建設当初に必要な素材の絶対量は多いものの、発電ライフサイクル全体で見たとき、1GWhの発電に要する資材はコンクリート・鋼材を中心に0.6~1.4トンに留まるという。設備のライフサイクルにわたる発電電力量で比較したとき、1GWhを得るのに必要な資材の物量は、太陽光・風力+蓄電池の組み合わせは、原子力発電の2倍から6倍もの基礎素材や金属類が必要となり、そうした基礎素材を鉱石などの天然資源から精錬・加工して得るのには莫大な化石燃料由来のエネルギーが使われている。

こうした再エネ発電システムに使われるコンクリート・鉄鋼・アルミニウム・ガラス・銅・シリコンなどの構造材や希少金属は、いずれも極めてエネルギー多消費(energy intensive)の製品であり、かつ製造時のCO2排出削減が困難(hard to abate)な工業製品の代表として、大量の化石燃料を使って生産されているということは広く知られている。再エネ発電は、それ自体は化石燃料を使わずに発電するので、発電時の排出はゼロなのだが、発電設備そのものの生産プロセスは炭素集約度が高く、製造時のカーボンフットプリントが高いため、設備生産時に大量の化石燃料を消費し、必然的にCO2大量排出を伴うことになる。つまり再エネ発電システムの大量導入は、それを支える素材の生産を賄うために大量の化石資源を使い、CO2を排出することから、必ずしも脱化石燃料や脱炭素に直結しないというわけである。

実はそうした見方があることについてPielke教授は、既に他所でも同様の試算がなされているとして、気候変動政策を提唱する国際環境イニシアチブとして有名な「エネルギー移行委員会(Energy Transition Commission)」の報告書を引用してviii紹介している。同報告書では、ネット排出ゼロにむけたエネルギー転換を実現するには、2022年から2050年にかけて65億トンもの基礎素材が必要となり、その95%は鉄鋼・銅・アルミといった、いわゆる大量排出素材である(世界の年間粗鋼生産量19億トンの3.5年分にものぼる!)と試算されているという。先ずは素材の脱炭素化を先行させないと、結局2050年脱炭素は絵にかいた餅だというわけである。

ここからPielke教授は、世界的な再エネ大量導入シナリオについて、設備製造時の環境影響の定量評価を試みている。先ず同教授は2000年から2024年まで加速した世界的な再エネ大量導入の背後で、それらの発電設備の生産サプライチェーンから排出されたCO2について、各素材の生産過程おけるScope1、Scope2排出原単位を仮定して試算している。この間の再エネ普及実績量に基づくと、2000年に400万トンだった再エネ設備の製造・設置に伴う年間CO2排出が、2023年には年間4.7億トン(=韓国やカナダの年間排出量に相当)に拡大し、2024年には5億トンを超えたという。上記に紹介した「世界の発電量の3割を再エネが賄うようになった」というグッドニュース(=化石燃料発電由来のCO2排出を減少できた)の舞台裏で、そこで使われている太陽光パネルやその躯体、風力発電タービン、蓄電池等の製造過程で、実は大量のCO2が大気中に排出されてきたというわけだ。

一方で同論考では、IEAの太陽光グローバルサプライチェーン特別報告書ixを引用して、世界の太陽光発電設備の製造時に使われる電力の60%以上が石炭火力に拠っているということにも言及している。実際2010年以降、太陽光・風力・蓄電池等のクリーンエネルギーのサプライチェーンは、生産コストの安い中国に集中していったことは広く知られている。そこでは安価な国内産の石炭を活用して(中国の電源構成の6割は石炭火力である)、安く大量に生産された鉄鋼・アルミ・ガラス・銅・シリコン・希少金属などが、再エネ設備やその部材に大量に使われた上で、世界中に輸出されてきたわけである。そうした太陽光・風力・蓄電池などの再エネ関連設備の中国における生産過程で、大量のCO2が大気中に排出されたことは疑いない(中国の2022年年間CO2排出量は114億トンと世界一になっている)。中国製太陽光パネルを使うことで自国の発電由来のCO2排出を減らしたと喜ぶドイツなどの「好成績」の舞台裏で、中国では再エネ設備の生産時に大量のCO2が排出されていたという訳である。

それでは今、ホルムズ海峡が閉鎖される中で、エネルギー安全保障のためにと叫ばれている「再エネ導入加速」を、現状の再エネ設備サプライチェーン技術を使って拙速に進めると、未来はどうなるのだろうか。IEAのSTEPSシナリオ(各国が公約した2050年に向けた気候変動対策が実現するとしたシナリオ)が想定している今後の太陽光・風力・蓄電池の2030年、2050年までの普及量を想定したとき、そのサプライチェーンからのCO2年間排出量は2030年で8.7億トン、2050年には16億トンと、日本の年間総排出量10億トンを大きく超えてしまうとPielke教授は見積もっている。再エネ普及をさらに加速したIEAのNZEシナリオ(世界が2050年にネットゼロ排出を実現するシナリオ)では、再エネのサプライチェーンからのCO2排出が2030年時点で年間15.4億トン、2050年のネットゼロ達成時には年間40億トンにも上るという。これは排出量世界2位の米国の年間排出量に近い数字である。これでは再エネ普及によって「発電の排出ゼロ」が達成できたとしても、その舞台裏で、再エネ設備・資材の生産によって莫大なCO2が排出され、環境団体等が1.5度目標達成に必要としているカーボンバジェット~2020年以降許容されるCO2累積排出を400~500億トンに制限しなければならない~を再エネ設備普及のために使い切ってしまう計算になる(もっとも、中国における再エネ設備の生産がホルムズ海峡を通る石油・天然ガスではなく、中国国内で産出される石炭による発電によって支えられているのだとすると、エネルギー安全保障のリスク低減にだけは貢献できるのかもしれない)。

太陽光・風力・蓄電池といった分散型エネルギー設備は、大型の発電所と比べて一つ一つの規模が小さく、分散設置されるため、そこに使われる資材の物量やその製造時の排出量に意識がなかなか向かない。しかしIEAのNZEシナリオが示すように2030年までに太陽光、風力をそれぞれ毎年630GW、390GWずつ増やし、1200GWの蓄電池を設置するといった大規模導入拡大を、既存の技術で進めると、驚くほど多くの基礎素材や金属が必要となる。その需要を、化石燃料を使う現在の技術で賄うと、世界のどこかで大量のCO2排出がおきることになるのである。つまり2030年より以前の段階で、セメント・鉄鋼・アルミ・ガラス・希少金属等の素材のカーボンニュートラルな大量生産基盤が実現していない限り(今後4年でそれが世界的に実現する可能性は事実上ゼロである)、当面の拙速かつ大規模な再エネ拡大投資は、かえって地球規模のCO2排出を加速することになるわけである。

一方でこうした基礎素材の生産プロセスの脱炭素化は、目下世界中で研究開発が鋭意進められており、いずれか先の将来~2050年?~には、カーボンニュートラルないしは極低炭素の生産プロセスが実用化する可能性もあるかもしれない。ただし仮にそれが技術的に可能となったとしても、その工業的な大量生産性・経済性は未知数の上、こうした基礎素材の製造に使われる生産設備の耐用年数は25~40年と長く、世界的なサプライチェーンの資本ストックが大規模に入れ替わるには、技術の実用化時点から、少なくとも数十年を要することになるとPielke教授は警告している。

さらに筆者として付言すれば、こうした基礎素材の脱炭素化を実現する際に、化石燃料を代替して生産過程で必須となる莫大なグリーン電力・グリーン水素の大量供給インフラの整備や、残余CO2の無害化のためのCCUSインフラの大規模整備自体にも、何十年という期間と莫大な投資が必要となり、またそれらの実装設備や周辺インフラを作るためには、鉄やコンクリート、銅など、さらなる莫大な量の基礎素材・物資を要することになるのだが、Pielke教授の本論文ではそこまでは踏み込んで追求していない。いずれにせよ製造時を含めた再エネのライフサイクル全体の「再生可能性」(=再エネだけを使って炭素排出無しで再エネシステムを再生産する)が仮に実現するとしても、それは今世紀後半以降のずっと先のことになるだろう。

以上紹介してきたような論点を勘案すると、再エネ中心のエネルギー供給構造への転換を、エネルギー危機に直面した今こそ早急に進めるべきという主張は、世界のCO2排出削減やエネルギー安全保障を高めるという目的と矛盾することになるのではないのだろうか?

前述したようにPielke教授は「風力タービンと太陽光パネルの生産プロセスは化石エネルギー集約型のサプライチェーンによって支えられており、その化石エネルギーを代替する技術はいまだ存在せず、将来も存在しえないだろう」としている。我々は生産拠点でのCO2排出拡大に目をつむって、化石燃料に依存した現状の基礎素材を大量に使って、太陽光・風力・蓄電池といった再エネ発電システムの大量普及を今すぐ加速すべきなのだろうか?あるいは鉄鋼やセメントをはじめとする、化石燃料に依存して生産されている基礎素材の分野で目下開発中の「低炭素」生産技術の実用化・普及を待ってから、満を持して再エネの大量普及を図るべきなのだろうか?

発電時点で化石燃料を必要とせず、CO2排出も伴わないという一面だけで再エネ普及=善というイメージに流されて、その舞台裏の生産過程の現実に目をつぶり、善は急げとばかり、再エネ普及を拙速に進めること(またそれを主張すること)の当否は、冷静かつ定量的に判断していく必要がある。日本を含む世界が今後のエネルギー転換やエネルギー安全保障を考えるにあたっては、再エネの「発電時の環境価値や化石燃料節減効果」だけではなく、サプライチェーン全体の資源・燃料使用の実態や、安全保障、さらにその技術の実態と今後の進展ポテンシャル等も勘案して、定量的かつ総合的な視点から大局的に判断をしていくことが肝要である。

脚注

i
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_69c79924e4b0a014076f31d3
ii
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/05350/?ST=msb
iii
この点については拙文「それでも化石エネルギー文明は続く」国際環境経済研究所(2022年11月16日)で詳しく紹介している。https://ieei.or.jp/2022/11/opinion221116/
iv
https://rogerpielkejr.substack.com/p/renewables-are-not-renewable
v
https://thebreakthrough.org/issues/energy/updated-mining-footprints-and-raw-material-needs-for-clean-energy
vi
例えば大型洋上風力発電タワーでは1基あたり2500トンを超える鋼製基礎杭(モノパイル)が使われている。
vii
太陽電池向け高純度シリコンを天然資源から製造するには、石英鉱石を1500℃~2000℃で精錬したうえで、さらにエネルギー多消費な化学精製プロセスと電力対消費のシリコン結晶析出工程が必要である。
viii
https://www.energy-transitions.org/new-report-scale-up-of-critical-materials-and-resources-required-for-energy-transition/
ix
https://www.iea.org/news/the-world-needs-more-diverse-solar-panel-supply-chains-to-ensure-a-secure-transition-to-net-zero-emissions