データレスキューで見えた日本の温暖化

―「何度上がったか」だけでは見えない気温変動―


キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員

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日本の年平均気温は,過去100年余りでどの程度上昇したのだろうか.容易に答えられそうな問いであるが,実際には,どの観測地点を選び,都市バイアス(観測所が都市熱の影響を受けることによる昇温)をどのように扱うかで答えは変わる.著者は最近,各地に残る手書きの観測記録を発掘・数値化し,都市バイアスの影響が小さい地点の気温変動を復元する「データレスキュー」に基づいてこの問いに取り組んだ.その結果,1916~2023年の日本の昇温率は100年あたり約1.1℃であり,気象庁公表値に比べて約0.4℃小さいことが分かった.そして,本研究の意味は昇温率の下方修正にとどまらない.古い観測記録は,1970~1980年代の日本が従来考えられていた以上に寒かったことを示している.日本の温暖化を「過去100年で何度上がったか」と問うだけでは不十分であり,寒かった時代から現在の高温傾向に至る気温変動として捉え直す必要があるということだ.

日本の気温上昇率は,なぜ一つに決まらないのか

「これまで日本の気温はどの程度上昇したか」という問いは,毎日気温計の値を読み続けるだけでは答えられない.将来の変化を監視するうえでは,高精度の「地球温暖化観測所」を整備することが一つの解決策となりうるが(堅田,2021a, 2021b),今から新しい観測所を設立したところで,20世紀の気温をさかのぼって測りなおすことはできない.そこで重要となるのは,都市バイアスが小さい多数の観測地点の気温データを集めて,欠測が少ない全国各地の系列から日本の昇温率を推定するということである.ところが,長期の気温記録は,古い値と新しい値を順に並べるだけでは作ることができない.観測所の移転や観測方法の変更による見かけの変化を補正し,時代の異なる観測値を比較できる連続した系列に整える必要がある.

現在広く利用されている気象データの多くは,気象台・測候所など,各地域の基幹的な観測を担ってきた気象官署で得られたものである.有人観測による長期連続記録であるという強みがある一方,その大半が周辺の市街化や露場環境の変化の影響を受けており,都市熱による局地的な昇温が全国平均気温や昇温率に上乗せされる「都市バイアス」を含んでいる(堅田,2023).気象庁はこのことを認識し,都市化などによる環境変化が比較的小さい15地点から日本全国の平均的な昇温率を推定しているが,その影響は残存している(気象庁,2026).都市の気温は,住民や建物が実際に経験する熱環境として重要であるが,日本全体に共通して起こった気温の変化を知るには,都市バイアスの評価と分離が長らくの課題であった(藤部,1999;Fujibe, 2009, 2012;Katata et al., 2023, 2025).

例えば,東北大学名誉教授の近藤純正氏は,地球温暖化の速度を推定するための気温データセットKON2020を整備・公開している(近藤,2020;堅田,2020).近藤氏は,気象官署の長期記録に対して,観測方法の変更,都市化,露場周辺の風通し低下による日だまり効果,観測地点の接続などを補正し,1881~2019年の日本の昇温率を100年あたり0.77℃と推定した.また,著者は気象官署を含む日本の長期観測データを用いて,都市化の度合いが大きく異なる世界各地の観測データを統計処理しても都市バイアスが除去しきれない「都市混合(urban blending)」という問題を提起するとともに, 1936~2019年における日本の昇温率を100年あたり約0.66℃と試算した(Katata et al., 2023;堅田,2023).しかし,この試算では都市バイアスの影響が小さい地点はわずか5地点しか見いだせず,統計分析には不十分であった.したがって残された課題は,都市バイアスの影響が小さい他の地点の気温データを探し出し,過去から現在までつながった長期気温系列を作ることであった.

100年前の日本の気温を記録していた観測網「区内観測」

そこで著者が着目したのが,1980年代以前に全国各地で蓄積されてきた区内観測資料である.これは,都市バイアスの影響が小さい地点の過去の気温を復元するうえで,ほとんど唯一の手がかりとなる資料群であった.

現在,地域の気温や降水量を測る代表的な観測網がアメダス(AMeDAS)である.アメダスは「地域気象観測システム」の略で,降水量,風向・風速,気温,湿度などを自動観測し,1974年11月に運用を開始した(気象庁,2026).それ以前は,各地の気象官署が役所,学校,警察署,事業所などの協力を得て,多数の区内観測所を運営していた.協力観測者は,日最高・最低気温,日降水量,積雪深などを測り,観測原簿を所管の気象官署へ提出した.1910年末には区内観測所が全国1,249地点に達し,都道府県によっては後のアメダスと同等か,それ以上の地点数で観測が行われていた(池田ほか,2000;藤部ほか,2008;石井,2019).

区内観測では,日最高・最低気温の観測に最高・最低温度計が使われた.これらの温度計は,次に読み取るまでの最高値と最低値を保持しているため,読み取りが1日1回でも,その間に生じた最高気温と最低気温を記録できた.また,多くの区内観測所は後にアメダスが設置された地点の近くにあり,高い観測密度と長い記録に加えて,過去と現在のデータを接続しやすいという利点があった(石井,2019).さらに,区内観測所は都市部に限られず,山間部など都市熱の影響を受けにくい地点にも置かれていたため,過去の低人口密度地点の気温を復元する手がかりとなる(藤部ほか,2008;石井,2019;Katata et al., 2025).

図1(a)1964年に撮影された群馬県高崎の区内観測所(百葉箱)と,
(b)1931年1月の栃木県奥日光における区内観測原簿の例(Katata et al., 2025).
こうした原簿に残された日々の値を読み直すことが,寒かった時代の気温を復元する出発点となった.

著者は,先行研究(Fujibe, 2012)で年別気温系列データを復元しきれていなかった1926~1940年の月別値を新たに数値化し,区内観測とアメダスを接続した全国42地点の1916~2023年の年平均気温系列を構築した(Katata et al., 2025).地点数の内訳は,区内観測とアメダスを接続できる地点のうち,周辺3kmの人口密度が100人/km2未満の36地点に加えて,長期観測が続く気象官署6地点である.論文ではこれらを「rural stations」としているが,これは市町村の行政区分ではなく,観測所周辺の人口密度に基づく「低人口密度地点」を指している.

重要なのは,区内観測とアメダスの値を単純に接続しただけではない点である.区内観測とアメダスでは,観測地点の標高,1日の区切り,読み取り時刻や測定間隔,測器の設置方法が時代とともに,しかも不定期に変化している.これらが違えば,気候とは無関係な段差や異常値がデータとして入り込む.この研究で最も大変な作業は,これらの違いを一つずつ補正し,100年以上にわたって比較可能な気温系列に整えたことであった(図2).

図2 区内観測とアメダスを一つの長期系列につなぐために行った主な補正と品質管理(Katata et al., 2025に基づき作成).
(a)観測地点の標高差,(b)区内観測とアメダスの接続,(c)観測日界の違い,(d)測定間隔の違い,(e)外れ値の除去.
(c),(d)の考え方は堅田(2020)でも解説.

具体的には,観測所の移転に伴う標高差を季節別の気温減率で補正し,区内観測からアメダスへ移行する前後については,近隣の気象官署で得られた2~5年間の気温差を橋渡しに用いた(図2a, b).また,1979~2010年のアメダス10分値・毎時値を使い,観測日界(気象上の1日の区切り)と測定間隔の違いによる偏りを月別に評価した(図2c, d).さらに,百葉箱から強制通風筒への変更に伴う観測値の系統差を補正し,四分位範囲に基づいて外れ値を除外した(図2e).その結果,アメダス移行期に見られた段差や初期期間の地点間のばらつきが縮小し,先行研究であるFujibe (2012)の部分復元結果とも高い一致が得られた.大量の資料の地道な読み取りと複雑な補正作業を結び付けたことが,本研究の精度を支えている(藤部,1999;Fujibe, 2012;Katata et al., 2025).

都市熱を受けにくい地点で見ると,日本は100年で約1.1℃上昇

解析の結果,1916~2023年の昇温率は,低人口密度地点による全国平均系列で0.11℃/10年(約1.1℃/100年),気象庁15地点で0.15℃/10年(約1.5℃/100年)となった(図3).両者の差は,約0.4℃/100年である.つまり,気象庁15地点の系列を日本の広域的な気温上昇率として用いると,都市バイアスによる上乗せを含むため,昇温率を過大に評価することになる.これは各観測地点の測定値が誤っているという意味ではなく,全国平均を作る観測地点の選び方に関わる問題である.著者はこの点を意識し,今までよりも都市熱を受けにくい低人口密度地点のみのデータから,1916~2023年の日本の昇温率を推定した(Katata et al., 2025).

図3 1936~1945年平均を基準とした1916~2023年における日本の年平均気温偏差(Katata et al., 2025を和訳).
黒線:低人口密度地点(観測点周辺3kmの人口密度がおおむね100人/km2未満の42地点)の年別全国平均値,
青線:11年移動平均値,
オレンジ線:気象庁15地点の年別全国平均値.

この100年あたり約1.1℃という昇温率は,温室効果ガス増加に伴う広域的な長期昇温に加えて,海洋・大気の自然変動も含んでいる.一方で,都市地点の気温観測値は,都市の生活空間で実際に生じる熱環境を反映しており,暑熱曝露,建築・設備設計,電力需要などを評価するうえで有用である.したがって,日本の広域的な気温変化を評価する場合と,都市で実際に経験される気温を評価する場合とで,目的に応じて観測系列を使い分けることが重要である.

ただし,図3で注目すべきなのは,二つの気温系列の傾きの違いだけではない.都市バイアスの影響を切り分けると,20世紀後半に日本が経験した寒冷な時代の姿も,より明瞭に見えてくる.

「何度上がったか」だけでは見えない20世紀の気温変動

図3が示しているのは,昇温率の差があることだけではない.都市バイアスの影響を切り分けると,気象庁15地点の系列では不明瞭だった20世紀後半の低温期が,より明瞭な「谷」として現れる.つまり,日本の温暖化は,単調な右肩上がりの線としてではなく,寒かった時代を含む長期変動として見るのが適切であるということだ.

このような話をすると,「都市熱の影響範囲は都市中心部の周辺数km程度の範囲に過ぎないので,日本全体や地球全体の気温には影響しない」,あるいは「1980年代以降の気温上昇はヒートアイランドでは説明できず,地球温暖化によるものだ」といった批判を受けることがある.これは誤解であり,本稿の主張はこれらの指摘と矛盾するものではない.まず,この研究は都市由来の熱が地球全体の気温を底上げしたという話では全くない.都市バイアスとは,都市熱による局地的な昇温を受けた観測点が日本の全国平均を作る標本に多く含まれるため,平均値と昇温率に上乗せが生じることである(Fujibe, 2009;Katata et al., 2023).また,都市化による昇温が続いた時期は,大都市ではおおむね1990年頃まで,中小都市では1980年頃までであり,その後は増加傾向が弱まったことも踏まえている(Fujibe, 2024;Katata et al., 2025, Fig. 5).この論文で著者が明らかにしたのは,都市バイアスが近年の気温上昇の直接的原因ということではなく,20世紀から現在までの100年規模の気温変動の傾向を説明する際に重要になるということだ.

都市バイアスの影響を切り分けると,昇温率だけでなく,20世紀の気温変動の輪郭が明瞭になる.低人口密度地点から得た気温系列を見ると,気象庁15地点では不明瞭だった1960年代の冷却が統計的に検出された.11年移動平均は20世紀初頭に近い水準まで低下し,1921~1980年における11年移動平均の振れ幅は0.48℃に達した.さらに,低人口密度地点の系列では,日本近海の海面水温との対応がより明瞭になり,PDOなどの自然変動の影響を検討するうえでも,都市バイアスを切り分ける重要性が示された.つまり,都市バイアスを補正した低人口密度地点の系列は,20世紀後半の冷却とその後の昇温を同じ基準で比較し,広域的な長期昇温と海洋・大気の自然変動との関係を検討するための基礎系列なのである(Katata et al., 2025).

一方,1980年代以降に気温上昇が明瞭になる点は,低人口密度地点の系列と気象庁15地点の系列とでおおむね一致していた.つまり,都市熱の上乗せを抑えても,近年の温暖化傾向そのものは明瞭に残る.ただし,実際の気温系列には,温室効果ガス増加に伴う広域的な長期昇温だけでなく,PDOなどの海洋・大気の自然変動も重なっていると考えられる.著者が構築した気温データセットは,こうした複数の要因が重なった日本の気温変動を,都市バイアスの影響を抑えた土台で読み直す上で有用であろう.

歴史的観測資料を未来へつなぐ「気象データレスキュー」

気象データレスキューとは,失われるおそれのある過去の観測資料を探し出し,保存し,画像化・数値化し,品質管理を行ったうえで,研究に利用できるデータとして復元する取り組みである.単なるスキャンや入力作業ではない.観測地点の履歴を確認し,測器や観測方法の違いを補正したうえで,現在の観測と接続して初めて,長期的な気候変動を調べる資料となる.

今回の研究は,区内観測資料を用いた気温データレスキューの実例である.世界気象機関(WMO)は,失われるおそれのある観測記録を収集・整理・保存し,画像化や数値化を通じて再利用可能にする一連の取り組みとして位置付けている(Brunet and Jones, 2011;Brönnimann et al., 2018;WMO, 2024).日本各地には,国や自治体,大学,企業,個人研究者が長年蓄積した気象・水文・農業・災害記録が残されている.石井(2019)は,区内観測を含む歴史的観測資料の多くがまだ数値化されておらず,早急な電子化が必要だと指摘している.紙や写真フィルムは経年劣化し,時間がたてば資料の所在や利用条件,観測の経緯を知る人の記憶も失われていく.資料を失うことは,都市化や観測環境の変化,長期的な気候の揺らぎを検証する比較基準を失うことでもある(Brunet and Jones, 2011;Brönnimann et al., 2018;石井,2019).

日本では,データレスキューがすでに気候研究や防災に結び付いている.藤部ほか(2008)は区内観測の日降水量を数値化し,藤部ほか(2020)はその記録から2019年東日本台風の大雨を歴史的に位置付けた.国立情報学研究所の「地上気象観測原簿アーカイブ」ウェブサイトでは500万枚を超える原簿画像が公開され,「日亜気候データ計画(JCDP)」ウェブサイトでは日本・アジアの歴史的な機器観測記録が整理・共有されている(Kitamoto, 2025;JCDP, 2026).最近の研究では,新たにアーカイブ化された地上気圧観測データを取り込んだ全球歴史再解析データセット(OCADA)により,20世紀初頭の東アジアにおける大気場の推定不確実性が大きく減少することが示されている(Ishii et al., 2024).このように,過去の気象記録は現在の気候研究を支える重要な基礎資料である.

データレスキューの価値は,失われかけた数字を埋めることだけにあるのではない.過去の観測条件を確かめ,現在の自動観測へ接続することで,現代の気温をどの時代から見ているのかを問い直すことができる.本研究で明らかになったように,寒かった時代の姿が変われば,現在の高温傾向の意味づけも変わる.過去の記録を未来へつなぐことは,日本の温暖化を一つの昇温率ではなく,長期的な気温変動として理解するための礎そのものなのである.

参考文献

 
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