浜岡原発の基準地震動問題

いま必要なのは組織的検証である


ネクソニュークリアパートナーズ株式会社  代表取締役

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浜岡原子力発電所3・4号炉の新規制基準適合性審査における基準地震動策定をめぐり、中部電力は2026年1月、地震動評価の代表波選定が、審査会合で説明した内容と異なる方法や、意図的な方法で実施されていた疑いがあるとして事案を公表した。中部電力は、外部専門家で構成する第三者委員会を設置し、事実関係・原因の調査を進めるとともに、その結果を踏まえ、再発防止策を検討している。原子力規制委員会・原子力規制庁による調査・検査が進行中であり、経済産業省への報告も求められている。

8月24日、NHKはニュースおよびドキュメンタリーで本件を取り上げた。同報道では、社内役職を経験した元役員のコメントとして、停止中の浜岡原発にも年間約1,000億円の維持費等がかかること、原子力部門にも「何とかしなければならない」という組織内のプレッシャーがあったと思うこと、経営層も先の見通せない状況に問題意識を持っていたことも紹介された。また、専門性が高い領域ほど内容の厳格なチェックは難しく、疑問の声をすくい上げなければ同種の事象は防げない、との指摘も紹介されている。

これらは重要な問題提起である。ただし、記事からは、元役員が基準地震動策定に直接関与していたのか、現場の圧力を直接経験したのか、不適切な取扱いを当時知っていたのかまでは明らかでない。したがって、「現場が規制に納得せず独断で行った」「早期再稼働を求める経営層の圧力が現場を追い込んだ」といった分かりやすい物語へ、原因を早期に収れんさせるべきではない。元役員の発言は、停止長期化と維持費、再稼働の不確実性を踏まえ、原子力部門を含む関係部門が置かれた心理的・組織的環境について見解を述べたものと読む余地がある。いずれにせよ、圧力、動機、経営層の関与はいずれも今後の検証対象である。

今後公表される第三者委員会の調査結果、中部電力の報告、原子力規制庁の検査結果で第一に明らかにすべきなのは、不適切なデータの取扱いが、いつ、どの業務段階で、誰により、どのように行われたかである。同時に、技術的影響、レビュー・承認・監督の実態、原子力部門・品質保証部門・調達および委託管理部門・経営層の情報共有と報告経路も検証対象となる。

審査工程、再稼働目標、予算、人員、外部委託の納期について、どのような正式・非公式の目標、評価、進捗管理上のメッセージが示されていたかも確認されなければならない。そうした目標、評価、進捗管理上のメッセージが、現場の技術判断、異論の提起、再調査の判断にどのような影響を与えたかも、検証対象である。

地震動評価のような高度に専門的な判断を、経営層自らが再計算して検証することは現実的ではない。だからこそ経営層には、技術的な疑義、既存の評価に疑義を生じさせるデータ、手順からの逸脱、異論が組織の途中で失われず、必要な独立性と実効性を備えたレビューを経て、是正につながる仕組みを整備し、その実効性を継続的に監督する責任がある。

加えて検証すべきなのは、管理職が安全に関するリーダーシップを示したか、担当者が疑義をためらわず報告できたか、品質保証機能が必要な独立性をもって働いたか、受託先・再委託先の成果物をどのように確認・検収したかである。さらに、必要なら計画を修正し、失敗の背景を検証して学習へつなげる組織文化が実際に機能していたかも問われる。

再発防止は、個人の処分や手順書の改訂だけでは足りない。中部電力には、疑義を拾い上げ、必要なら立ち止まり、事実を共有し、原因を分析して組織を更新する仕組みを、責任者、実施期限、評価指標、独立した検証方法とともに示すことが求められる。

第三者委員会、中部電力、原子力規制庁、経済産業省に求められるのは、もっともらしい原因説明を急ぐことではない。データの不適切な取扱いがなぜ起き、なぜ把握・是正できず、誰が何を知り得たのかを、技術面と組織面の双方から明らかにすることである。信頼回復の可否は、再稼働を目指す意思だけでは測れない。安全上の不都合な情報に向き合い、共有し、検証し、必要な変更を実行できるかという実績によって判断されるべきである。

関連情報

 
https://www.chuden.co.jp/energy/nuclear/hamaoka/compliant_newregulatoryrequirements/
https://www.meti.go.jp/press/2025/03/20260331011/20260331011.html