原子力発電、次の建設はどのように行われるか?


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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 政府は原子力政策を、これまでの曖昧な状態から推進に転換した。2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」(GX:グリーントランスフォーメーション)で、それが国の政策として定まった。


三菱重工が開発計画を打ち上げた革新軽水炉「SRZ1200」(同社広報資料のCGより)

 原子力をめぐる論点は多いが、このリポートでは、どのようなタイプの原子炉が、どこに建設されるのかに、テーマを絞って考えてみたい。

座して滅びを待つより前進すべき時

 原子力政策の転換は、昨年から岸田文雄首相自らが考えを示してきた。上記基本方針は「GX推進法案」(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案)とセットになり、岸田政権の中心的な経済政策になった。原子力の活用はその方針で重要な位置を占める。同方針では、革新炉つまり新型原子炉の開発支援に加えて、原子力発電所のリプレイス(建て替え)、新増設を政府が促すことが示されている。

 2011年の東京電力の福島原子力事故以来、原子力は産業として停滞した。再稼働が遅れ、厳しい規制への対応に電力会社とメーカーは追われた。事故による世論の原子力への不信もあった。

 そのために電力とメーカー共に新規建設がなく大きな経済的利益が出ずに、産業として力が弱ってしまった。この政府の政策転換は、いわば「病気の人をいきなり走らせるようなもの」で、転びかねない危うさもはらむ。しかし、日本の原子力にとって、停滞を続け、座して滅びる危険がある現状よりも、前に動いた方が良いだろう。

革新炉の期待される種類は6つ

 それでは日本での開発の現状を簡単に紹介してみよう。経済産業省は、研究者を集め「原子力小委員会革新炉ワーキンググリープ」で、開発が期待できる新型炉を調査している。22年4月までに以下の6つで、日本企業が開発できる可能性があると報告を出した。

 技術には素人の経済記者の分析で恐縮だが、その長短を経済性と実現性を中心に、私なりにまとめてみよう。

①革新軽水炉
 今の「軽水炉」の経済性・安全性を高めたものだ。軽水炉は今、第4世代と呼ばれる、4回の大幅な設計の進化があった。これは新しい「第五世代」と言われるものだ。長所は、既存技術の延長で、実現可能性が高い。短所は、福島事故の後で、このタイプの炉のイメージが良くないことだ。

 三菱重工は自社原子炉を改良した「SRZ1200」の開発構想を打ち上げた。そして昨年9月に同社の原子炉を運用する関西、中国、九州、四国の4電力会社とそれを共同で行うと発表した。性能は出力120万k W以上を予定し、安全性を高めているという。

②小型モジュール炉(SMR)
 一般的な原子炉に比べ体積を小さくするタイプの炉だ。そのため冷却が軽水炉よりも容易になる。冷却装置の少なさと小型化で、コスト削減が可能だ。モジュールというのは、設計上の考えで、部品の機能のまとまりのこと。それを別の場所で作り、組み立て、量産化を図る。

 問題は、発電能力が小さいことだ。開発計画を見ると、出力30万k W前後のものが多い。発電出力が小さいと、採算が取りづらい。

③高速炉
 高速炉とは、高速中性子による核分裂反応でエネルギーを発生させる原子炉を指す。日本は世界に先行して1983年に原型炉「もんじゅ」を着工し、発電を行った。しかし相次ぐ事故でもんじゅは運用組織の日本原子力研究開発機構が2017年に廃炉した。

 長所はこれまでの研究実績があること。中国、ロシアが研究を進め、商用化もしている。短所は「もんじゅ」の失敗があり、世論の承認が難しい。また冷却に、物質として安定性がなく扱いの難しいナトリウムを使うために、炉の構造が複雑になる。

④高温ガス炉
 高温ガス炉は、炉心の主な構成材に耐熱性の高い黒鉛を中心としたセラミック材料を用い、冷却材に化学的に安定しているヘリウムガスを用いる。

 長所は、その建設材料のために安全性が高いことだ。また原研が、実験炉を運転しており、日本が世界に研究で先行している。短所は小型で発電能力が小さく、採算が取りづらい。日本は一度使った核燃料を再び再加工して使う核燃料サイクルの政策を行っている。このタイプでは核燃料の再利用が難しい。

⑤溶融塩炉
 溶融塩炉は液体燃料を用いる。トリウムを塩に溶かし込んで、反応炉の溶融塩を循環させ核反応させて、その熱を利用する。実験炉は米で一時稼働した。長所は、事故の危険性が極めて低いこと。短所は、溶媒である塩での基材の腐食を避けるため、構造が複雑になることだ。

⑥核融合炉
 「地上の太陽」とも称される核融合発電は、核融合反応で発生したエネルギーを活用するものだ。核融合は数万度の熱を作り出せる。世界各国がフランスで実験炉ITERを作り、参加している。ただしまだ実験の段階であり、作った超高温の熱エネルギーやプラズマを、どのように発電や熱利用するか、その技術がない。実用化は2050年ごろとされている。

重工製、関電のリプレイスが先行するか?

 こうして比較すると、三菱重工と4電力が組む革新軽水炉の建設が先行しそうだ。

 そして新増設よりも、閉鎖する原子炉の後継として作られる可能性が高い。今後の日本では人口の減少があり、その面での電力の消費量は減るだろう。一方で、水素の活用の動きが社会・産業界で盛り上がっている。それには水素の大増産が必要で、それには電力を使うことが必要だ。この点での電力需要の増加の期待もある。今後日本の電力需要は読みづらい。そのために、電力会社の設備投資では、減った原子力発電の分を補う、リプレイスがまず行われるのではないか。

 三菱重工と組む4電力の中で関西電力は一番企業規模が大きく、同社原子力部門は日本で最初に原子力発電を始めた企業としてのプライドを持っていると聞く。また同社は1970年代に作られた美浜発電所(福井県美浜町)の1、2号機を2015年に廃炉することを決めており、原子力発電の発電比率が今後低下する。また同社は、2021年からの5年間の中期経営計画にも新型炉建設を電力会社の中でいち早く盛り込んだ。4社連合の中で一番早く、建設に向けた具体的な動きをしそうだ。また日本原電も敦賀発電所(福井県敦賀市)の敷地内に3号機の建設を2010年当時予定して敷地を確保していた。ここで行う可能性もあるだろう。

 懸念されるのは、原子力発電プラントの建設費の高騰だ。フィンランドで2005年に着工したオルキルオト原発3号機(160万キロワット)は仏原子力メーカーのアレバが受注し、建設を行い、2009年に運転開始予定だった。ところが稼働は2022年3月まで遅れた。建設費は当初予定の35億ドル(約4777億円)が約2.7倍の94億ドル(約1兆2831億円)に増大した。福島事故の後の安全対策費の上昇に加え、この原子炉がアレバの欧州加圧水型原子炉(EPR)の最初の建設であり、設計の失敗と工事のやり直しがあったためとされる。この影響で、フランスの原子力メーカーアレバは経営危機に陥り、仏政府が救済に動いて新会社フラマトムを立ち上げた。

 日本がこれから作る原子炉も、巨額の費用が懸念される。この資金調達方法の問題を含め、政府と各企業が解決すべき問題は数多く残っている。そして建設は10年単位の長いプロジェクトになる。それでも未来のために、今すぐ動いてほしい。

「自由陣営の原子力」、日本が世界に支援される期待

 ある東欧圏の外交官が、ウクライナ戦争前に、次のように私に述べていた「日本の原子力は、自由陣営のものだ。ロシアのガスから脱却するために、日本の技術を使いたい」。

 日本の原子力産業が停滞している間に、中国やロシアの原子力企業が、東欧、中東への原子力プラントの輸出に成功している。ウクライナ戦争の後で、両国は大半の国に警戒をされて、原子力の輸出も難しくなっている。しかし今度は韓国企業が世界に売り込みをかけている。日本の原子力メーカーも、国内で建設が軌道に乗れば、海外への展開もしやすくなるだろう。そして原子力は、建設のために関わる業種が多く、産業活性化の効果が期待できる。

 世界各国の自由陣営の支援のある日本の原子力産業には、まだ希望がある。原子力を前に進めるために、政策転換に加えてもう一歩深く、岸田政権が支援に踏み出してほしい。