IPCC絶対視の風潮に異議あり

気候変動の半分は「自然現象」


筑波大学名誉教授

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(「エネルギーフォーラム」より転載:2024年1月号)

 地球温暖化防止国際会議のCOPなどでは強力なCO2削減が最重要との共通認識が大前提となっている。
 一部の科学者は、昨今の温暖化には自然変動が多分に含まれていると警鐘を鳴らしている。

 筆者は2023年春に筑波大学で定年退職を迎えたが、最終講義の演題は「間違いだらけの地球温暖化論争」だった。講演内容は、温暖化懐疑論には間違いがあるし温暖化危機論にも間違いはある、という中立的な趣旨でまとめた。温暖化研究者が一度懐疑論者のレッテルを貼られると、国家プロジェクトから外されたり、論文が受理されなくなったりする。しかし、研究者人生の断末魔の叫びとしてこのタイトルを選んだ。

太陽定数は定数でない
IPCC仮説の完全崩壊

 地球温暖化とは、人為起源のCO2などが原因で起こる温暖化と定義されるが、最近は気候変動という表現にすり替えられた。これなら人間活動と無関係な自然変動が含まれてもいいからだ。筆者は、異常気象をもたらすブロッキング高気圧や北極振動の研究をしてきたが、これらは力学的には自然変動だ。気候変動として温暖化が起きていることには同意するが、原因の90%以上が人為起源であるとのIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の説明には反論してきた。長年の研究結果から、気候変動の半分は人為起源ではなく自然変動であり、人間がCO2排出量を抑えたとしても異常気象は発生し、気候変動は起こると考えている。ただ、こうした仮説には納得できる明確な根拠が必要だ。気候変動の数値モデルを開発しても、その結果はあくまで仮説にすぎず、真実の証明にはならない。

 国際学術誌に掲載された現役最後の論文は、筆者を含む各国の研究者37人の共著であり、温暖化の大半が自然変動で生じていることの根拠を提示した。結論は二つあり、一つは、地上観測で集計される全球平均気温の上昇には都市のヒートアイランド効果が半分程度含まれていることだ。世界平均で100年当たり0.89℃と観測される気温の長期トレンドは、実はヒートアイランドの影響で62%も増えている。

 二つ目は、太陽放射強度(太陽定数)は長期的に変化する点だ。太陽定数は定数であるかのようにかつて教科書で教わったが、これは固定観念である。人工衛星活用以降のデータは、歴代の複数の衛星観測値に1m2当たり10Wもの平均バイアスがある。作業仮説としてこのバイアスを除去すると、太陽黒点の11年周期の変動が滑らかに表現される一方で、衛星観測データの長期トレンドはなくなる(図)が、これは真実ではない。


図 太陽放射強度偏差の経年変化(Soon et al. 2023, Climate, 11(9),179, 2023 から引用)

 IPCC報告の気候モデル予測では、太陽放射強度がほぼ一定のモデルA (図Solar♯1) が一貫して使われ、1000年スパンの年平均気温はほぼ一定となる。太陽放射強度は一定と仮定したのだから、近年の温暖化はCO2放射強制力のみで説明されることになるが、これは当然の帰結である。数値モデルの結果は真実の証明とはならない。

 一方、太陽放射強度は長期的に変動するというモデルB(Solar♯2)がある。18世紀ころの小氷期と呼ばれる寒冷期には黒点が長期間消滅した時期があり、当時の太陽放射強度は低下していたとの仮定に基づいている。モデルAもBも対等な仮説だが、後者が気候モデル予測に使われることはない。本研究では、モデルBの結果として得られる気温変動が、先述のヒートアイランド効果を差し引いた気温変動とほぼ一致することから、モデルBが正しいと結論した。論文査読では、「IPCCの結果と整合的でないので不採用」との回答が一部にあった。IPCCが絶対視され、この論文は受理すべきでないという圧力があったが、一部の好意的な査読者によって受理された。

 もし本論文の結論が今後のさらなる研究で検証されれば、過去の温暖化も長周期変動も、太陽放射強度の変動という自然変動で説明でき、CO2放射強制による調整(チューニング)が不要となる。これはIPCC仮説の完全崩壊を意味し、コロナ禍のような厳しいCO2削減を30年続けてネットゼロにしても、温暖化には何の影響もないことになる。そうであれば、引き続き石炭火力は一番安全で安いエネルギー源といえる。

温暖化のサイエンスを軽視
国民自ら脱炭素の是非判断を

 美しいうたい文句で温暖化危機論が展開され、若い世代までその考えが浸透する中、本質的なサイエンスの議論が棚上げされている。日本の現状では少数の温暖化懐疑論者は業界から村八分にされる。最終講義では本音を話し、最後の温暖化論文は無事受理・公開されたが、「懐疑論はフェイクだからスルーしろ」とのお達しが〝温暖化村の村長〟からは聞こえてくる。温暖化のサイエンスはもう死んでいると言わざるを得ない。

 間違いだらけの地球温暖化論争が真実に立脚しているかのように見せ、脱炭素や「1.5℃目標」の達成に膨大な国費を費やしている。しかし政府やマスコミ、環境NGOによる脱炭素の活動は、実は仮説にすぎない不確かなサイエンスに基づいているのだ。温暖化研究が国家予算で推進され、NHKが恐怖心をあおる特集を組んでいる。政治家は世論に基づいて地球温暖化対策推進法を制定して脱炭素を推進し、懐疑論を弾圧するようになった。もはやサイエンスはポリティクスに凌駕されている。今後、さらに間違った法律ができたら万事休すだ。

 グリーン事業やエネルギー革命の名目で、今後10年で150兆円もの投資案が国会で議決されたが、ボールは国民に投げられている。石炭火力が廃止に追い込まれようとし、再生可能エネルギー賦課金で電気料金が値上げされた。そこに世界的な化石燃料価格の高騰が被さり、物価高で国民が苦しんでいる。これでは自業自得と言われても仕方がない。

 一方、脱炭素でぼろ儲けしている人たちがいる。何が正しくて何がフェイクなのか、他人の頭でなく自分の頭で考えて判断することが大切なのだ。