令和8年熊本地震


東京大学大学院工学系研究科 教授

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2016年4月、熊本地震は日本中に大きな衝撃を与えました。それから約10年後の2026年7月28日、熊本で再びマグニチュード7.1の「令和8年熊本地震」が発生しました。犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

今回の地震の後、同じ場所で地震が起きてからわずか10年で、また大地震が発生したのか?と思われた方も多かったのではないでしょうか。ご存知のように、活断層で大地震が発生すると、そこに長い時間をかけて蓄積されてきたエネルギーが解放されます。そのため、同じ断層の同じ区間が再び大きく動くまでには、数百年、あるいは数千年という長い時間がかかることがあります。そう考えると、10年後に再び熊本で大地震が発生したことは、不思議に思えるかもしれません。

しかし、「令和8年熊本地震」は、2016年に主に破壊した領域と同じ場所で発生したわけではありません。2016年の熊本地震では、主として布田川断層帯が大きく動き、日奈久断層帯については北部の一部が動きました(図1)。一方、2026年の地震では、その南西側に位置する日奈久断層帯の、2016年には大きく破壊しなかった区間を含む領域が大きく動きました。

図1.九州中部を横断する別府―島原地溝帯と布田川・日奈久断層帯.2016年の熊本地震、2026年の地震で動いた断層と、近年の地震活動でまだ動いていない断層区間を示す

ここで重要なのは、一つの地震が起こると、その周囲の断層にかかっている力(応力と呼ぶ)まで変化するということです。ある断層が動けば、その周囲の岩盤の応力の状態も変わります。動いた断層では応力が解放されますが、その周囲では、場所によっては逆に断層を動かす方向の応力が増加します。実際、2016年熊本地震が地下のひずみエネルギーをどのように変化させたのかを計算した研究があります。その結果では、2026年の大地震は、2016年の地震によって地震が起こりやすい方向にエネルギーが増加したと推定されていた領域で発生しました。2016年の地震が周囲の力のバランスを変化させ、もともと地震を起こす準備が進んでいた隣の断層を、さらに動きやすい状態にしたということです。つまり、今回の地震の発生場所は、全く予想外の場所ではなく、2016年の地震後に地震が起こりやすくなった可能性が指摘されていた領域の一つでした。

私たちはしばしば、一つ一つの地震を独立した出来事として考えてしまいます。しかし、地下では、多数の断層が連続的な力学システムをつくっています。一つの断層が動けば、隣の断層にかかる力が変わる。その影響が、数年後、数十年後、場合によってはもっと長い時間を経て現れることもあります。

そこで気になるのが、今後の地震活動です。今回の地震によっても、日奈久断層帯のすべてが破壊されたわけではなく、さらに南西側には今回は動かなかった区間が残っています(図1)。もちろん、「次はこの区間が動く」と予測できるわけではありませんが、一つの大地震によって周囲の応力状態が変化することを考えると、今回動かなかった周辺の断層が現在どのような状態にあるのかを、今後も注意深く調べていく必要があります。

もっと大きな視野で一連の地震活動を見る

九州の中央部には、熊本から阿蘇、九重、別府へと続く、地質学的に特徴的な地域があります。「別府―島原地溝帯」と呼ばれる地域です(図1)。また、それから分岐するように、今回地震が発生した「日奈久断層帯」があります。

九州では、南北方向に地面を引き伸ばすような力が働いています。例えば、岩石やレンガを上下にゆっくり引っ張っていくところを想像してみてください(図2)。引っ張ると図2の右にあるように亀裂が入るのは想像できると思います。九州中部では、この南北方向の引っ張りによって地殻に多数の断層や亀裂が発達し、一部の地殻が沈み込むような変形が起きています。この東西に延びる広い地殻変形帯が、別府―島原地溝帯や、日奈久断層帯に対応します。このような南北方向の引っ張りを含む九州中部の応力場が、この地域で起こる地震の発生様式(右横ずれ断層)に深く関係しています。

この地域には、熊本、阿蘇、九重、由布院、別府と、私たちにもなじみの深い場所が並んでいます。火山、温泉、盆地、山々といった九州を特徴づける景観も、この活発な地殻変動と深く関係しています。私は、今でも研究で頻繁に九州を訪れます。阿蘇山と九重には、地元の市町村などの協力のもと、独自に40台の地震計観測網を設置し、連続観測を実施しています。私のGoogleマップには、景色の良い場所、気に入った宿などが保存されています。その場所を地図にプロットしてみると、その多くが熊本から阿蘇、九重、別府へと続く、別府―島原地溝帯に沿って並んでいることが分かります。断層活動は、長い時間をかけて山をつくり、盆地をつくり、地下水や温泉の通り道をつくってきました。その地形が美しい景観を生み、人が暮らす場所をつくり、温泉地や観光地を育ててきました。私たちが災害として恐れている地震と、美しい九州の風景、そして私たちが利用している温泉は、同じ地球の活動の異なる側面とも言えます。

さらに、こうした地殻変動は、私たちが利用している地下資源とも関係しています。地殻が引き伸ばされると、地下には断層や亀裂が発達します(図2)。特に、開いた亀裂や断層は、地下深部から上昇してくる高温の流体の通り道になります。地下深部の熱水には、岩石から溶け出したさまざまな元素が含まれています。そうした流体が亀裂を通って上昇し、温度や圧力が変化すると、溶けていた鉱物が亀裂の中に沈殿することがあります。

図2.2016年と2026年の地震活動を説明する概念モデル

その鉱物の一つに「金」があります。九州には世界的にも非常に高品位な金鉱床が分布しています。現在でも金を採掘している鹿児島県の菱刈鉱山も(場所は少し異なりますが)、九州が南北に引き伸ばされる地殻変動が関係していると考えられます。

「断層がどこにあるか」から「断層が今どんな状態か」へ

では、このような地震に対して、私たちは何ができるのでしょうか。ご存知の通り、「○月○日の○時に、この場所で地震が起こる」と正確に予測することは、現在の科学ではできません。しかし、だからといって何も分からないわけではありません。先に述べたように、今回の地震も、2016年の熊本地震の後、危ないと思われていた場所で発生した訳です。

近年、地震を調べる技術は急速に進歩しています。GNSS(GPSなどの測距システム)によって地面のわずかな動きを連続的に測ることができます。多数の地震計による微小地震の観測からは、地下の断層活動を詳細に追うことができます。さらに地下構造の高精度イメージングや、地下水・地下流体の観測なども進んでいます。

これまでの活断層の研究では、「断層がどこにあるのか」、「過去にいつ動いたのか」を知ることが重要でした。これからはそれに加えて、「現在、その断層にどのような力がかかっているのか」、「地震によって隣の断層の状態がどう変わったのか」を調べることがますます重要になってくると思います。日本は世界有数の地震国です。しかし同時に、世界でも最も密度の高い地震・地殻変動観測網を持ち、地下で何が起きているのかを詳しく調べることのできる国でもあります。地下で起きていることをより深く理解する努力の積み重ねが、将来の地震災害を少しでも減らすことにつながると思います。私たちも、そうした地下の変化を捉える研究を進めていきたいと考えています。