執筆者:山本 隆三

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国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授

  • 2013/08/26

    感情で決まる日本のエネルギー政策と政治で決まるドイツのエネルギー政策

     6月末に世界最古のビジネススクールESCP Europeパリ校にて、シンガポール国立大学とパリ・アジアセンター共催のエネルギー・環境政策シンポジウムが開催された。中国、インド、日本、シンガポール、欧州の研究者が集まり、各国のエネルギー・環境政策を議論する有益な会合だった。 続きを読む

  • 2013/07/11

    電力市場自由化で英国はついに節電の時代に突入

     6月下旬にパリで開催されたEU-アジアのエネルギー・環境政策のシンポジウムに参加し、発表する機会があった。このシンポジウムは中国、インド、日本、シンガポール、EUの研究者10名ほどが参加し、各国のエネルギー政策を議論する大変有意義なものだった。その内容は、参加者の論文としてまとめられ、シンガポール大学が書籍として発行する予定なので、またご報告する機会があると思う。 続きを読む

  • 2013/06/21

    電力市場が電力不足を招く、missing money問題(固定費回収不足問題)にどう取り組むか

     自由化された電力システムにおいては、電源の確保は、総括原価主義のような規制ではなく、市場における競争を通じて行われることが基本である。他方、日本に先んじて小売り全面自由化、発送電分離等の改革を進めてきた欧州諸国においては、昨今「単に市場に委ねるだけでは、適切な電源投資が促されない」つまり「電力市場が電力不足を招く」問題(missing money問題)が顕在化してきている。 続きを読む

  • 2013/06/11

    10年後に迫る停電の恐怖

     英国では電力自由化の結果、発電設備に対する収益保証がなくなった。ために、巨額の投資が必要でありかつ長期に亘り電気料金で収益を確保する原子力発電所、あるいは燃料価格が不透明であり、歴史的には石炭に対して価格競争力を持っていなかったために稼働率が不透明な天然ガス火力を新設する企業は今後出てこなくなる可能性が強い。既存設備の老朽が進む2020年代には停電が発生する可能性が強いと英国政府は予想している。 続きを読む

  • 2013/05/13

    電力自由化市場での発電所建設には社会主義が必要?

     自由化された電力市場では、夏場あるいは冬場の稼働率が高い時にしか利用されない発電設備を建設する投資家はいなくなり、結果老朽化が進み設備が廃棄されるにつれ、やがて設備が不足する事態になる。1年の一時期しか運転されない発電所では売電による収入が少なく、投資家が必要とする収益率を満たさないためだ。さらに問題は、発電所を建設しても長期間に亘りいつも確実に発電できる保証が得られないことだ。競争する他の電源の将来コストが予測できないために、他の電源よりコストが高くなれば、いつも市場で電気が売れるとは限らない。 続きを読む

  • 2013/04/15

    電力自由化が向かう先は総括原価主義?

     先月、英国政府の方から温暖化問題への取り組みと電力システム改革の現状についてお話をお伺いし、意見交換を行う機会があった。電力システム改革専門委員会の伊藤元重先生と松村敏弘先生も一緒に出席されていた。
     1990年に電力市場を自由化した英国では、老朽化が進む石炭火力設備が廃止された後供給力不足により停電も想定される事態になっている。電力事業者が発電設備を新設すれば良いだけの話だが、自由化された市場では新設を行うかどうかは事業収益次第になる。 続きを読む

  • 2013/04/01

    電力供給も十分にない日本経済はそれでも世界最強なのか

     書店の経済書のコーナーには、日本経済について楽観視する書籍が山積みされている。「日本経済は世界から羨ましいと言われ」るほど「最強の経済」らしい。むろん、悲観論の本もあるが、最近は楽観論が圧倒的に棚の場所を占めている。エネルギー関係の企業に勤務されている方が、楽観論の書籍を何冊か買ったと言われていた。こういう本を読むと安心するということだ。 続きを読む

  • 2013/03/19

    東京都の電力販売に感じる違和感

     東京都は保有する水力発電所からの電力を平成21年度から10年間の長期契約で東京電力に販売しているが、この電力を来年度から入札により販売することにした。3月15日にその入札結果が発表された。新電力と呼ばれる特定規模電気事業者であるエフパワー社が落札し、その価格は1kWh当たり14.5円と発表されている。今までの都の東電への売却価格は1kWh当たり約9円と報道されており、年間の都の収入は10億円から17億円に増加する。 続きを読む

  • 2012/11/06

    持続可能という言葉を知らない枝野経産大臣

     「持続可能な発展(Sustainable Development)」という言葉が広く知られるようになったのは、温暖化問題を通してだろう。持続可能とは、簡単に言うと、将来世代が、我々が享受している生活水準と少なくとも同レベル以上を享受できることと解釈される。数字で表すと、一人当たり国内総生産(GDP)が同レベル以上になるということだ。 続きを読む

  • 2012/09/26

    電機と電気 - 経営と生活

     思わず「おいおい、経営問題とは違うだろう」と声に出していた。9月8日の朝日新聞3面の「節電、我慢から活用へ」という記事を読んだ時だ。記事では「電力会社が原発を再稼働させたいのは自らの経営問題にほかならない。再稼働しなければ、電気料金の値上げもさけられないだろう」とのコメントが紹介されていた。 続きを読む

  • 2012/08/23

    討論型世論調査ではなく誘導型世論調査ではないのか

     「エネルギー・環境の選択肢」に関する討論型世論調査の結果が8月22日に発表された。朝日新聞夕刊では『「原発0%」討論後に増』と報道されている。この結果を見て「そうか」と納得した人も多いかも知れないが、私は「え?なぜ」と思ってしまった。 続きを読む

  • 2012/03/29

    電力供給・温暖化のトンデモ本に要注意!
    データや理論をきちんと判断する姿勢が必要に

     「トンデモ本」というのを、ご存じだろうか。著者の思い込み、無知などによる、とんでもない話を書いた本の呼び方だ。「日本トンデモ本大賞」というものもあり、20年前の第1回は、「ノストラダムス本」が受賞している。当時、かなりの人が1999年7月に人類は滅亡するという、このトンデモないこじつけの予言を信じていた。2011年は大川隆法氏の『宇宙人との対話』が選定されている。 続きを読む

  • 2011/09/27

    再生可能エネルギーによる景気浮揚は本当か?
    米太陽光発電企業破綻の教訓

     再生可能エネルギーのなかでも、日本では太陽光発電に対する期待が高い。欧州で再生可能エネルギーの主力になっている風力発電は日本には適地が少ないし、地熱やバイオマス、潮力などのポテンシャルを考えても大きな供給量を期待できないからだ。結局、太陽光発電が日本では主力にならざるを得ない。

     その太陽光発電を大規模に導入する目的で、「再生可能エネルギー特別措置法」が成立した。再生可能エネルギーから生まれた電力を固定価格で高く買い取り、需要家が電気料金として負担する仕組みだ。これにより、再生可能エネルギー設備への投資が進み、関連産業が日本で育つことが期待されている。

     しかし、この考え方は正しいのだろうか。日本に先行して固定価格買い取り制度を導入した欧州では、使用されている太陽光発電モジュールの大半は中国、台湾製だ。欧州ブランドの製品でも、モジュール製造はアジアで行っている。“欧州産”は価格競争力がないためだ。もっと悲惨なのは、オバマ大統領が再生可能エネルギーによる雇用創出を打ち出した米国で、8月中旬から、日本の会社更生法に当たる連邦破産法第11条、いわゆる「チャプターイレブン」を申請するモジュール製造企業が相次いだ。

     たとえば、8月15日にエバーグリーンーソーラー社、8月17日にスペクタルワット社、9月7日にはソリンドラ社(昨年オバマ大統領が視察し、5億ドル以上の連邦政府の資金を投入)がチャプターイレブンの申請を行っている。このうちソリンドラ社は、1100人の従業員の大半を即日解雇した。破綻の原因は中国企業との競争に敗れたことだが、競争激化の本当の原因は、欧州市場にあると見られている。

  • 2011/07/21

    再生可能エネルギーの正しい導入方法を考える

     菅直人首相が退陣の条件の一つにした、再生可能エネルギー促進法案が国会で可決されそうである。これは、風力、太陽光発電などの再生可能エネルギーからの電力を固定価格で10年以上の期間にわたり購入するというものだが、現在の形ではかなり問題のある法案だ。私は、7月9日に放送されたNHKの「週刊ニュース深読み」で、賛成派の飯田哲也氏と法案を議論する機会があったが、時間切れになり、すべての論点について議論することができなかった。そこで、この場で二つの論点を示しておきたい。

    【電力料金の値上がり額】

     電力の固定価格買い取りに要する費用は、電力料金の形で電力の需要家が負担する。この結果、電気料金は値上がりする。値上がり幅は、買い取り価格と買い取り電力量により決まることになる。値上がり額によっては、国民生活と産業活動に大きな影響が生じる。では、値上がり額はいくらになるのだろうか。

     再生可能エネルギーごとの買い取り価格と導入量を以下の表のように仮定し、2020年の買い取り価格総額を計算してみた。

     現在の再生可能エネルギーの導入量は、太陽光発電が300万kWから400万kW、風力発電が300万kW弱、地熱発電50万kW強程度と推定されている。上記の仮定通りに進めば、設備導入量は一挙に増加する。半面、設備量の比較では日本の全電源の20%を占めるようになるが、発電量では全体の5%程度に止まる。一方、仮定通りに進めば、2020年の固定価格買い取り制度に基づく負担の総額は1兆1000億円を上回る。標準家庭の追加負担額は年間4000円強、月に25万kWhを消費する中規模工場での追加負担額は年間約360万円となる。

    【系統安定化費用】

     安定的に発電できない太陽光や風力発電を導入するには、送電系統を安定的に運用するための送電線能力の増強とバックアップ電源が欠かせない。しかし、仮定したような大量の太陽光、風力発電を導入するには、送電線能力の増強だけでは不十分だ。このため、蓄電池の導入により系統の安定化を図ることが必要となる。

     3500万kWの太陽光発電設備導入時に必要な系統安定化費用については、経済産業省次世代配電ネットワーク研究会が検討を行っており、費用は2兆~24兆円とされている。この費用負担は、2020年時点の全需要家平均でkWh当たり0.46円から5.46円になる。買い取り価格の負担に加えて、標準家庭で年間1600円から2万円弱の追加負担が数年間にわたり発生する計算になる。

  • 2011/06/06

    再生可能エネルギーの本格導入を阻む3つの壁

     福島第一原子力発電所の事故以来、原発に替わるエネルギーとして、風力、太陽光を中心とした再生可能エネルギーが注目を浴びている。菅直人首相は、フランスドービルで開催されたG8サミット(主要先進国首脳会議)での演説で、「太陽光発電を1000万戸に設置する」と表明した。

     再生可能エネルギーの普及を図るための政策は、震災以前にも導入されていた。太陽光発電設備の導入により生じた余剰電力を電力会社に販売できる制度は、2009年度から導入されている。電力会社は買い取り費用を電気料金に上乗せし、需要家から回収する。

     今年度の買い取り価格は、1kW時当たり42円に設定されている。東京電力の民生用、産業用の電力の平均販売価格は、1kW時当たり16円程度。つまり、太陽光発電が増えれば増えるほど、電力料金への上乗せ額、すなわち需要家の負担額は大きくなるわけである。

     G8サミットに先立ち、菅首相は、太陽光発電設備の大量導入に合わせ、太陽光発電のコストを2020年に現在の3分の1に引き下げる目標も発表した。設備費用のなかには工事費がかなりの部分を占めており、コストを3分の1に引き下げるのは簡単ではない。しかし、もしコストダウンが実現しても、それまでに導入された太陽光発電の買い取り価格は、その後10年間にわたり消費者が負担することになるため、太陽光発電の普及が大きく進めば、電気代の大きな値上げは避けられないのである。

     日本に先立ち、再生可能エネルギー由来の電力の固定価格買い取り制度を導入した欧州主要国では、相次いで買い取り価格の引き下げが行われている。長期にわたり固定価格で買い取るため、累積の買い取り額が巨額になったためである。導入が進めば進むほど、消費者の負担が級数的に増えていくことになる。

     しかも、再生可能エネルギー導入に伴う問題は、消費者が支払う電力料金への価格転嫁だけではない。バックアップの発電設備が求められることや送電能力の面でも大きな課題がある。

     バックアップ電源が必要な理由を図に示す。日照がない時間はほとんど発電ができない太陽光や、凪(一時的に風のない状態)には発電できない風力発電に対し、電力需要は発電側の事情とは関係なく生じる。したがって、再生可能エネルギーによる発電ができない時間に備え、電力需要と再生可能エネルギーによる電力供給の差を埋めるために、常に、発電が可能な電源を用意していなければ停電が発生する。

    太陽光や風力への依存では、電力需要とのギャップが大きくなる
  • 2011/05/09

    賠償額を上回る燃料費負担増が電気料金を押し上げる

     朝日新聞は5月3日の朝刊の1面で、「原発賠償4兆円案」とのタイトルで「東電分2兆円、料金16%上げ」と報じた。東京電力の負担額が2兆円であり、これを10年間にわたって負担するために、電気料金が16%上昇するとの内容だ。

     東電の2009年度の電気料金収入は4兆5000億円ある。16%の値上げを行えば収入増は7000億円強となり、毎年の東電負担額2000億円をはるかに超える収入となる。しかし、記事では「賠償資金を確保するため16%の値上げになる見通しだ」とあるのみで、金額の整合性に関する説明はない。

     一方、同じ記事中で「火力発電の燃料費増を年間約1兆円とみている」とも報じている。この数字が正しければ、燃料費の増加は賠償額を大幅に上回ることになる。燃料費は本当に1兆円増えるのだろうか。まず、燃料費増の計算根拠を推測してみたい。

     燃料費の増加の理由は、当面、原子力発電が難しくなり、その落ち込み分を火力発電で補わなければならないからだ。

     発電が困難になる原発には二種類ある。一つは、既存の福島第一原子力発電所であり、もう一つは新設予定の原発である。福島第一原発からの2009年度の発電量は330 億kW時であった。一方、新設予定の原発は福島第一原発7,8号機、東通原発1号機の3基であり、設備能力の合計は約415万kWだ。全基が稼働する2017年には、稼働率を80%と仮定すると、発電量が290億kW時となる。

     この2種類の原発の発電分を、新増設が比較的容易な石油火力と天然ガス火力で50%ずつ代替すると、1年間に重油650万t、天然ガス410万tが必要になる。ちなみに二酸化炭素(CO2)排出量は、合わせて、年間4100万t増加する。過去、低硫黄分のA重油価格が最も高かったのは2008年秋であり、1t当たり12万円を超えていた。また同時期に、天然ガスの輸入価格も最高値の1t当たり8万円を記録している。

  • 2011/04/18

    「節電生活」定着で電力需要は抑制できるか?

     東日本大震災により多くの発電所が被災し、東京電力、東北電力は十分な電力供給を行えなくなった。日本では、燃料受け入れの関係から火力発電所は海岸沿いに立地せざるを得ず、今回のような広範囲の津波では、多くの発電所が一度に被災することになる。

     4月11日時点で停止している発電所の供給能力は、表の通り合計で2600万kWを超えている。東電、東北電の保有設備能力と両電力に供給を行っている共同火力などの合計の設備能力は約1億kWなので、今回の震災で4分の1の発電能力が失われたことになる。

     この状況では当然、電力供給に問題が生じる。被災した発電所の復旧は、荷揚げ設備が比較的シンプルな石油系の火力が早く、石炭系が遅いのではないかと想像されるが、津波の被害を受けた大半の火力発電所の復旧には少なくとも半年程度は必要だろう。また、原子力発電所については、再開に際し地元の理解を得るのに相当程度の期間が必要と考えられる。

     仮に、火力発電所が半年間停止すれば、これらの発電所からの二酸化炭素の排出量は2000万t以上減少する。燃料の使用がなくなるので、当然の減少だ。

  • 2011/03/14

    地球温暖化に保険の考え方は適用できるか

     大学で担当している「環境政策論」の授業の一環として、アル・ゴアの「不都合な真実」を学生に見せてコメントを書かせた。学生のコメントで多かったのは、「映画では海面が6m上昇すると言っていたが、授業で学んだことと違う」というものであった。

     授業では、「海面上昇はあっても、21世紀末で数十cm程度だろう」と教えている。6mの海面上昇がすぐにあるかのような映画の説明に、学生は違和感を抱いたようだ。学生からは次のような質問もあった。
    「映画では、ハリケーン“カトリーヌ”は温暖化が引き起こしたと言っていたが、大きなハリケーンは昔からあったのではないか」
    というものである。確かに、何かがあるたびに、すべて温暖化が引き起こしたというのは無理がある。

     地球規模で発生している問題については実証が難しい。二酸化炭素などの温室効果ガスは、実際に温暖化を引き起こしているのだろうか。この答えを知ることは、実は難しい。実験室では温室効果を示すガスが、地球規模でも同様のことを引き起こすかを証明することは困難だ。地球の気候を変える要素は太陽の活動をはじめ数多くあるからである。

     このために、温暖化問題については、多様な意見が表明されることになる。アル・ゴアの対極には「温室効果ガスは温暖化を引き起こしていない」という意見もある。温暖化懐疑派と呼ばれる人たちだ。

     どちらの意見が事実に近いのか。その答えを知るのは100年後、あるいはもっと後かもしれない。それならば、今、われわれはどうすれば良いのだろうか。温室効果ガスが温暖化を引き起こしていると断定できない以上、何も対策をしなくて良いのだろうか。経済学ではリスクがある時にどう考えるのだろうか。

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