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第8話「原子力技術の光と影」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使


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 COP21で採択されたパリ協定は、各国のエネルギー・環境政策、とりわけ原子力産業の将来にどのような意味合いを持つのか。そのような問題意識の下、在ウィーン国際機関日本政府代表部がCOP21終了直後の12月14日に主催したワークショップ(“COP 21 and beyond: a new climate regime and its implications for the future of nuclear power”)では、日本のエネルギー・環境分野の専門家である、有馬純・東京大学公共政策大学院教授と竹内純子・国際環境経済研究所理事・主席研究員による講演が行われた。パリ協定採択直後というタイミングであり、協定の内容を十分に分析する時間的余裕がない中ではあったものの、COP21から直接ウィーンに立ち寄ってもらった両専門家からは、交渉現場の臨場感あふれる報告がなされた。


12月14日のCOP21ワークショップの模様(写真出典:在ウィーン国際機関日本政府代表部)

12月14日のCOP21ワークショップの模様
(写真出典:在ウィーン国際機関日本政府代表部)

 有馬教授は、経済産業省で長く気候変動交渉に携わり、筆者も薫陶を受けたベテラン交渉官の一人である。また、竹内主席研究員は東京電力出身の環境エネルギー問題の気鋭の論客である。
 有馬教授からは、かつて新たな国際枠組みづくりが一旦頓挫したコペンハーゲンCOP15からパリCOP21に至る交渉経緯を振り返りつつ、議長国フランス、米国、中国など主要国がそれぞれの思惑から交渉妥結を望んでいた事情など今回の合意成立に至った背景、パリ協定の主要ポイントなどにつき的確かつ詳細な報告がなされた。原子力との関係では、環境関係者が集まるCOPの場においては原子力発電に対する否定的な雰囲気があるとしつつも、温暖化対策を進める上で原発の役割は不可欠というのがエネルギー専門家の間の共通認識であるとの発言があった。また、京都議定書の下での市場メカニズムでは原子力発電が事実上排除されてきたが、新たなパリ協定の下での市場メカニズムの制度設計において、原子力発電が今後どのように扱われるか注視していく必要があるとの指摘があった。
 竹内主席研究員からは、東電勤務時代の経験や、日本国内の原子力発電所を抱える地域を訪れた経験を交えながら、現在の日本のエネルギー基本計画が掲げるエネルギーミックス実現に際しての諸課題や、原子力発電に対する一般国民の信頼回復の問題、原子力規制のあり方など、COPでの交渉にも密接に関連する日本のエネルギー政策、原子力政策が直面する課題について包括的な説明がなされた。


プレゼンを行う有馬教授(左)と竹内主席研究員(右)(写真出典:在ウィーン国際機関日本政府代表部)

プレゼンを行う有馬教授(左)と竹内主席研究員(右)(写真出典:在ウィーン国際機関日本政府代表部)

 質疑応答では、パリ協定の今後の発効の見通しと米国・中国など主要国の動向、原子力発電に対する一般国民の信頼回復・確保のための対外発信のあり方、原子力関連規制のレビューにおけるIAEAの役割、ボトムアップ方式の排出削減アプローチと野心的な長期目標をつなぐ革新的技術の役割、炭素の価格付け制度のあり方など、様々な論点について活発なやりとりがなされた。
 COP21でのパリ協定の採択を受け、今後、各国の署名・締結という協定発効に向けた外交的取り組みとともに、市場メカニズムにおける原子力発電の扱いなど、協定の下での制度設計についての技術的検討が進められるであろう。2016年のCOP22の開催地はモロッコのマラケシュ。かつて京都議定書の採択後、その実施細則を定めた「マラケシュ合意」が作られた地でもある。「悪魔は細部に宿る」という。パリ協定の今後の詳細設計が与える原子力産業への影響についても注視していく必要があろう。

イラン核問題に関するIAEA特別理事会

 COP21関連ワークショップの翌日の12月15日には、イラン核問題において大きな節目となるIAEA特別理事会が開催された。
 イランの核問題については、第4話でも紹介したとおり、本年7月にウィーンで2つの重要な合意がなされた。EU3+3(米、英、仏、露、中、独)とイランとの間で合意された包括的共同作業計画(JCPOA: Joint Comprehensive Plan of Action)と、IAEAとイランとの間における過去のイランによる核兵器開発疑惑を解明するための合意(「ロードマップ合意」)である。
 7月以降、それぞれの合意のトラックにおいて各当事者による様々な措置がとられてきた。今回の特別理事会は、ロードマップ合意に則って行ってきた活動を踏まえ、IAEAがイランの核兵器開発疑惑に関する最終評価(Final Assessment)の報告を理事会に提出したことを受け、開催されたものである。
 最終評価報告でIAEAは、2003年末までにイランにおいて、核爆発装置の開発に関連する活動が組織的に行われ、一部の活動については2004年以降も行われたと評価している。一方、これらの活動は実現可能性・科学的研究並びに一定の関連する技術的知見及び能力の獲得以上には進展しなかったと評価し、また、2010年以降に核爆発装置の開発に関連する活動が行われたとする信頼性のある根拠を有していないとしている。そして、IAEAとして、イランの核計画に関する軍事的側面の可能性(possible military dimensions)に関し、核物質の転用について信頼性のある根拠を何ら発見していないとしている。
 このIAEAの最終評価報告を受けて、12月15日の特別理事会では、理事会としての今後の対応を決定する決議案がEU3+3(米、英、仏、露、中、独)6ヶ国の共同で提出され、コンセンサス採択された。



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