MENUMENU

第8話「原子力技術の光と影」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使


印刷用ページ

 この決議では、IAEAの最終評価報告に留意した上で、ロードマップ合意に基づく全ての活動が実施されたことで、理事会による本件についての検討が終了することに留意するとしている。また、イランに対する国連安保理の制裁のベースにもなってきた過去のIAEA理事会決議や、イランに対するIAEAの技術協力を制限する過去の理事会決定について、JCPOAの下でIAEAがイランによる主要な措置の履行を検認する日(Implementation Day)のタイミングで終了するとしている。その一方で、IAEAが包括的保障措置協定及び追加議定書等に基づき実施する査察活動や、JCPOAで規定される核関連措置の実施において、イランがIAEAに全面的に協力すべきことを再確認し、また、理事会が、本件につき事務局長から定期的に報告を受けること等を規定している。


12月15日のIAEA特別理事会の模様(写真出典:IAEA)

12月15日のIAEA特別理事会の模様(写真出典:IAEA)

 特別理事会では理事国・非理事国あわせて約40ヶ国の代表が発言したが、理事国である日本政府を代表して北野充大使より、今回のIAEAによる最終評価報告に留意しつつ、理事会決議案に賛同する旨表明した。今回のIAEAの報告により、イランの核計画の過去及び現在の全体の状況について一定の理解を得る材料が提供されたものと評価し、これを踏まえて新たな段階に進んでいくことが適当との判断に基づくものである。一方、今回の決議によって理事会によるロードマップの実施についての検討が終了するものの、これは理事会が将来、イランの核関連活動につき懸念事項があると信じるに足る合理的な根拠がある場合に、必要に応じて適切な行動をとることを妨げるものではないとも述べている。そして、イランがJCPOAの下でのコミットメントを着実に実施し、IAEAによる検証・査察活動に全面的に協力するよう求めたところである。     
 今回の特別理事会における新たな決議の採択により、イランの核問題は一つの節目を迎えた。今後は、JCPOAの実施、IAEAによる検証・査察活動という息の長いプロセスが待ち受けている。

原子力技術の光と影

 12月半ばまで様々な出来事があった原子力外交の街ウィーンも、クリスマスの週になると、さすがに落ち着きを取り戻す。

オペレッタ「こうもり」の一幕(写真出典:Volksoper Wienホームページ)

オペレッタ「こうもり」の一幕(写真出典:Volksoper Wienホームページ)

 年末年始はオペラ、オペレッタ、コンサートの季節であり、毎日ウィーンのあちこちで様々な作品が上演される。新年の1月1日に楽友協会ホールで行われるウィーン・フィルのニューイヤーコンサートは、最も良く知られたものであろう。
 ウィーンを代表する音楽ジャンルにオペレッタ(喜歌劇)がある。ヨハン・シュトラウス2世作の「こうもり(Die Fledermaus)」はその最高峰とも言える作品である。大晦日の舞踏会を舞台にした喜劇であり、序曲のメロディは多くの方が耳にしたことがあろう。ウィーンでは年末年始に上演されるのが恒例であり、国立オペラ座では大晦日の定番になっている。

 この作品の中で歌われるドイツ語の歌詞で、
   “Glücklich ist, wer vergisst, was doch nicht zu ändern ist.
   (「変えられないことを忘れられる人は幸せだ」)

という一節がある。如何ともし難いことは、むしろ忘れた方が幸せになれるというような意味である。年末の日本の「年忘れ」の気分にも通じるものがあり、心情的にはよく理解出来る。
 しかし、こと外交の世界では、これをそのまま当てはめることは出来ない。国際社会が直面する様々なグローバル課題は、解決が途方もなく困難と思われるものが多い。核軍縮、不拡散、地球温暖化、エネルギー、食糧、水、医療、貧困、テロ、難民などである。世界を変えることは出来ないと諦め、これらの課題から目を背けていては、解決が遠のくだけである。一つ一つは小さな取り組みでも、国際的に連携し、積み重ねることで大きな力となり、世界を変えていく。それが外交の営みといえるのではないか。そのような取り組みが歴史の教訓、過去の経験を忘れずになされるべきことは言うまでもない。
 これは、とりわけ原子力外交に当てはまる。原子力技術は人類に禍福のいずれをももたらし得る、光と影の両面がある。世界が原子力の「影」に怯えることなく、「光」を享受できるようにするためには、戦争被爆や原発事故を含む、歴史の教訓に裏打ちされた、原子力外交のたゆまぬ営みが欠かせない。
 2015年は、ウィーンを舞台に様々な動きがあった。2016年も、より良き世界を目指した原子力外交がこの街で展開されることになるであろう。

(※本文中意見に係る部分は執筆者の個人的見解である。)

【参考資料】

在ウィーン国際機関日本政府代表部ウェブサイト
 ・
ウィーン常設原爆展
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_ja/ctbt17.11.15_ja.html
 ・
国際保健ワークショップの開催
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_ja/japressrelease15.11_ja.html
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_en/IAEAPR16.11.15_en.html
 ・
COP21関連ワークショップの開催
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_ja/cop21_ja.html
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_en/cop21_en.html
 ・
イラン核問題に関するIAEA特別理事会における北野大使ステートメント
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_en/BoGDecember2015final_EN.html
外務省ウェブサイト
 ・
国際会議「新たな開発目標の時代とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ:強靱で持続可能な保健システムの構築を目指して」の開催
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_002792.html
(日本国際交流センターウェブサイト)
http://www.jcie.or.jp/japan/csc/ghhs/2015uhc/report.html
(同会議における安倍総理大臣のスピーチ)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ghp/page4_001644.html
 ・
ランセット誌への安倍総理大臣寄稿「世界が平和でより健康であるために」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_002770.html
 ・
COP21関連
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page24_000541.html
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page18_000435.html
IAEAウェブサイト
 ・
イランの核問題に関する特別理事会関連
(特別理事会における天野事務局長冒頭ステートメント)
https://www.iaea.org/newscenter/statements/introductory-statement-board-governors-67
(イランの核計画に関するIAEAの最終評価報告)
https://www.iaea.org/sites/default/files/gov-2015-68.pdf
(IAEA特別理事会決議)
https://www.iaea.org/sites/default/files/gov-2015-72-derestricted.pdf
(プレスリリース)
https://www.iaea.org/newscenter/news/iaea-board-adopts-landmark-resolution-iran-pmd-case
加納雄大「環境外交:気候変動交渉とグローバル・ガバナンス」(信山社)
http://ieei.or.jp/category/special201208/(国際環境経済研究所HP連載版)

記事全文(PDF)



ウィーン便り~原子力外交最前線からの報告~の記事一覧