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EUETSは市場安定化リザーブで立て直せるか?


キヤノングローバル戦略研究所/IPCC第6次評価報告統括代表執筆者(イノベーションとテクノロジー)


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 あるいは、もしも、経済状況が非常に悪い局面であるにもかかわらず、リザーブの機能によって高い排出権価格を維持することになれば、これもまた、政治的な非難を受けることになるだろう。

 このようなことが予想されるために、リザーブの制度設計にあたっては、3Eのバランスについて熟慮する過程が設けられ、完全に自動的ではなく、その時々の政治状況に応じた裁量の余地のある意思決定システムにならざるを得ないと思われる。

 では次に、そのような裁量の余地のある意思決定システムは、どのように設計できるだろうか。リザーブを運営する組織には、どの程度、独立した権限が設定されるのだろうか。これについても、あまり強力な権限を独立性の高い組織に引き渡すことについては、ポーランドなどの東欧諸国を中心に、多くの国が猛反対することは想像に難くない。このことは、これまでのEUETS改革における政治的対立状況について、有馬氏
http://ieei.or.jp/2015/04/special201212087/
http://ieei.or.jp/2015/04/special201212088/
が詳しく説明していることから、推察される。

 このように考えると、リザーブの運営にあたっては、一定のルールはもちろん定めるにしても、諸国がその意思決定に政治的な影響を及ぼし続けるような形に制度設計される可能性が高いのではないか、と予想される。そのようにして、安全保障や経済などの他の政治課題や諸国益との調整が図られることになるだろう。

 つまりは、リザーブが存在しても、それによって自動的に需給調整が図られるというわけにはいかず、これまでのEUETSと同様に、その運営にあたっては、諸国の政治的影響を逃れられないのではないか、ということである。

 これまでのEUETSでは、何らかの政治的イベントがあるたびに排出権価格が上下してきた。図は、世界銀行の報告書に掲載された、2014年の価格の推移である。そこでは、EUの意思決定プロセスにおいて、同年のEUETS改革における主要な争点であったバックローディング(当局による市場からの排出権の市場からの引き揚げ)について、何か政治的イベントがあるごとに、それに翻弄されるようにしてETSの価格が上下してきたことが示されている。

 そして、このようにして形成されてきた排出権価格は、4~7ユーロという低い水準に留まり、高く推移することは無かった。これがIPCCの指摘した「政治的困難」の実態である。リザーブが運営されるようになっても、似たような状況が続き、本質的に打開することは出来ないのではないか、と筆者には思われる。

EUETSの排出権価格とバックローディング提案の経緯

 EUETSの排出権価格とバックローディング提案の経緯

※本連載・報文は著者個人の文責に基づくものであり、いかなる所属・関連機関に責が及ぶものではありません。

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