台湾統一は中国版の南北戦争

書評:劉明福 著/峯村健司 監訳、加藤嘉一 訳『中国「軍事強国」への夢』


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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(「電気新聞」より転載:2024年1月5日付)

 著者の劉明福は中国の軍人で、習近平が唱える「中国の夢」を発案したブレーンだ。

 この本には首尾一貫した哲学と世界観がある。中国は世界一の強国にならねばならぬ。そのために、まずは国家の統一が重要だ。台湾は必ずや統一しなければならない。そのためには武力の使用も辞さない。

 劉は米国の南北戦争を引き合いに出す。米国は国が分裂する寸前だった。だが南北戦争によって統一を回復した。それがその後の米国の発展の大前提になった。当然、中国も統一すべきである。元々、国民党が台湾に逃れて国が分断されたのは、米国の介入によるものだった。

 もちろん、日本人から見れば、ツッコミどころが満載だ。中国の統一と言うが、ウイグルやチベットは征服しただけではないか、等々。だが劉明福の説くところにも、少なくとも他の国が自分の歴史を語るときと同程度には、理に適うところがある。

 そうすると、なぜ日本が台湾統一を認めるべきではないかと言えば、それは自由、民主といった価値を守るべきだ、という一点に尽きることになる。しかし劉は、米国の制度が優れている訳ではない、金権に支配され、他国を侵略している、と一蹴する。

 不思議なのは、この劉自身が、かつて文化大革命のときに農村に「下放」され農作業に従事するなど、自らひどい目に遭っているにもかかわらず、中国共産党の独裁体制に対して絶対的な信頼を置いている点である。なぜ制度を変革しようと思わないのだろうか。

 この本は兵法の「孫子」など、中国の古典を読んでいるような格調高さ、思想の一貫性、スケールの大きさを感じる。その一方で、やはり何かが大事なものが欠落している、と思わせるところもよく似ている。

 習近平の愛読書は三国志だという。私も子供のころから三国志は十以上のバージョンを読んだし、中国古典はことごとく読みあさった。いま劉の著書を読むと、中国思想の系譜に連なる現代の名著と感じる。

 劉は、軍事力の行使もいとわないとしつつ、台湾統一は「無血で」実現するとしている。経済的威嚇やサイバー戦など、あらゆる手段を使う「超限戦」を仕掛けるのであろうが、具体的に何をするつもりなのか。それは本書に書いていない。日本が備えるべきは、一体、何なのだろうか。


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『中国「軍事強国」への夢』
劉明福 著/峯村健司 監訳、加藤嘉一 訳(出版社:文藝春秋
ISBN-13:978-4166614240