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解説一覧

  • 2011/05/09

    賠償額を上回る燃料費負担増が電気料金を押し上げる

     朝日新聞は5月3日の朝刊の1面で、「原発賠償4兆円案」とのタイトルで「東電分2兆円、料金16%上げ」と報じた。東京電力の負担額が2兆円であり、これを10年間にわたって負担するために、電気料金が16%上昇するとの内容だ。

     東電の2009年度の電気料金収入は4兆5000億円ある。16%の値上げを行えば収入増は7000億円強となり、毎年の東電負担額2000億円をはるかに超える収入となる。しかし、記事では「賠償資金を確保するため16%の値上げになる見通しだ」とあるのみで、金額の整合性に関する説明はない。

     一方、同じ記事中で「火力発電の燃料費増を年間約1兆円とみている」とも報じている。この数字が正しければ、燃料費の増加は賠償額を大幅に上回ることになる。燃料費は本当に1兆円増えるのだろうか。まず、燃料費増の計算根拠を推測してみたい。

     燃料費の増加の理由は、当面、原子力発電が難しくなり、その落ち込み分を火力発電で補わなければならないからだ。

     発電が困難になる原発には二種類ある。一つは、既存の福島第一原子力発電所であり、もう一つは新設予定の原発である。福島第一原発からの2009年度の発電量は330 億kW時であった。一方、新設予定の原発は福島第一原発7,8号機、東通原発1号機の3基であり、設備能力の合計は約415万kWだ。全基が稼働する2017年には、稼働率を80%と仮定すると、発電量が290億kW時となる。

     この2種類の原発の発電分を、新増設が比較的容易な石油火力と天然ガス火力で50%ずつ代替すると、1年間に重油650万t、天然ガス410万tが必要になる。ちなみに二酸化炭素(CO2)排出量は、合わせて、年間4100万t増加する。過去、低硫黄分のA重油価格が最も高かったのは2008年秋であり、1t当たり12万円を超えていた。また同時期に、天然ガスの輸入価格も最高値の1t当たり8万円を記録している。

  • 2011/04/18

    「節電生活」定着で電力需要は抑制できるか?

     東日本大震災により多くの発電所が被災し、東京電力、東北電力は十分な電力供給を行えなくなった。日本では、燃料受け入れの関係から火力発電所は海岸沿いに立地せざるを得ず、今回のような広範囲の津波では、多くの発電所が一度に被災することになる。

     4月11日時点で停止している発電所の供給能力は、表の通り合計で2600万kWを超えている。東電、東北電の保有設備能力と両電力に供給を行っている共同火力などの合計の設備能力は約1億kWなので、今回の震災で4分の1の発電能力が失われたことになる。

     この状況では当然、電力供給に問題が生じる。被災した発電所の復旧は、荷揚げ設備が比較的シンプルな石油系の火力が早く、石炭系が遅いのではないかと想像されるが、津波の被害を受けた大半の火力発電所の復旧には少なくとも半年程度は必要だろう。また、原子力発電所については、再開に際し地元の理解を得るのに相当程度の期間が必要と考えられる。

     仮に、火力発電所が半年間停止すれば、これらの発電所からの二酸化炭素の排出量は2000万t以上減少する。燃料の使用がなくなるので、当然の減少だ。

  • 2011/04/05

    運輸部門のエネルギー消費量抑制のカギを探る

     最近、地球温暖化対策としての二酸化炭素(CO2)削減目標が話題になることが多い。2010年末には、メキシコでの気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)で、削減に向けた世界的な枠組みの話し合いが行われた。2009年9月の国連総会では、鳩山由起夫前首相により、日本の中期削減目標として「1990年比で2020年までに25%削減する」ことが表明されている。このような流れのなかで、重要なセクターの一つである運輸部門における削減の可能性についても、さまざまな場で議論されてきた。

     今回は、運輸部門全体におけるCO2排出量の現状を見たうえで、細分化した各サブセクターごとの特徴や、国・地域別の状況に差があり、世界全体が必ずしも同じ問題をかかえているわけではないことを明らかにする。また次回以降、特に自動車に焦点を当てて、削減の技術的なポテンシャル、その他の施策、そして、将来の途上国の急成長を考慮したうえでの削減の見通しについて議論したい。なお、運輸部門では、CO2以外にも二酸化硫黄(SO2)や炭素微粒子、航空機による巻雲生成など、温暖化に影響するものがあるが、ここではCO2に絞って議論する。

  • 2011/02/25

    新しい欧州排出権取引システムの落とし穴

     欧州連合(EU)では、2005年から温室効果ガスのキャップ・アンド・トレード型排出権取引制度(EU-ETS)を導入しているが、現在、第1期(2005~07年)、第2期(08~12年)に続く、第3期(13~20年)の制度設計が進められている。新制度は昨年末にその概要がまとまり、今春には、EU各国で審議、承認したうえで正式法制化されることになっている。ところが、この新しいキャップ・アンド・トレード制度に関して、『問題が山積みであり、施行すれば不満を抱く企業からの訴訟が乱発される懸念があるうえ、温暖化対策の効果の面でも疑問がある』との懸念が浮上している。

     問題を指摘したのは、2010年12月30日付の独シュピーゲル誌のオンライン版。 EU-ETSは欧州域内の主要産業を対象とし、EUの全排出量のおよそ半分をカバーする欧州温暖化政策の要の制度とされている。これを世界に先駆けて導入することで、他の先進国はもとより途上国にも同様の制度の導入を促し、世界的な排出権取引市場の創出をリードするというのが欧州の基幹戦略である。しかしシュピーゲル誌は、その肝心要の制度が「環境に資するものなのか、それとも単に負担の大きい官僚主義を生み出すだけのものなのか、誰にもわかっていない」と問題提起したのである。さらには「排出権取引が近い将来に世界的に拡大するという兆候はほとんどない」とし、欧州が突出して同制度を進めていることに疑問を投げかけた。

  • 2010/12/10

    京都議定書は問題解決を遅らせる
    日本は実質的な排出削減で世界に貢献を

     温暖化対策を巡る国際交渉が難航している。もめている原因は、先進国と途上国の対立だ。

     下の図を見てほしい。今後数十年にわたって二酸化炭素を排出する量が急増するのが途上国、特に成長著しい中国などの新興国である。温暖化をストップさせるためには、こうした新興国の排出削減に向けた協力が不可欠だ。

     一方、新興国から見れば、温暖化は今の先進国がもたらしたもので、責任は先進国にある。現在の先進国は、これまで石油や石炭などの化石エネルギーを大量に使って経済成長してきた。だから、その結果排出された二酸化炭素によって引き起こされた温暖化問題は先進国の責任であって、まずは先進国が排出を削減する義務を負うべきだという論理である。新興国にとってみれば、これから経済成長する権利があるのだから、エネルギーの使用量を削減するなど考えられない。

     今の京都議定書は、そうした主張に配慮して、先進国だけが削減義務を負う取り決めになっている。しかし、京都議定書は1997年、すなわち今から10年以上前にできたものである。中国だけを見ても、そのころに比べて経済力や生活水準は格段に伸びており、国際事情は大きく異なっている。

    途上国からの二酸化炭素排出は増え続ける