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東京では冬のヒートアイランドで寿命が延びた


キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員、茨城大学 特命研究員


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 地球温暖化やヒートアイランドに代表される都市化昇温は、熱中症などの暑熱による疾病や死亡のリスクを高める「悪玉」として認識されている。実のところ、戦後の日本でさまざまな疾病や死亡の原因と考えられてきたのは冬の寒さである。この寒さによる死亡のリスクは、過去の地球温暖化や都市化(ヒートアイランド現象)により軽減してきたはずである。ヒートアイランドははたして人間の健康にとってプラスなのか、それともマイナスなのか?

1.猛暑vs暖冬

 地球温暖化や都市化の進展に伴うヒートアイランド(熱の島:都市の気温が周囲よりも高い状態)は、熱中症などによる救急搬送者数の増加などの形で健康被害を促すと考えられており、政府機関からもその対策や適応の必要性が指摘されている注1)。国内でも暑熱に着目した研究がなされており、「地球温暖化=健康被害をもたらす悪玉」という意識が定着しつつあるように思える。しかしその一方で、冬の日本の厳しい寒さは逆に改善されているのではないだろうか?実際、1950年ごろから全国の都市で冬日日数(日最低気温が0℃未満の日の日数)は低下傾向にある注2)。地球温暖化と都市化には、このように暑熱の健康面でのリスクが増加するという悪い点だけではなく、冬の寒さが緩和するという良い側面もある。
 それでは、これまで猛暑と暖冬のどちらの影響が上回っていたのだろうか?このようなクエスチョンに取り組んだ研究として、医学誌の権威the Lancetに掲載されたGasparrini et al. (2015)による世界各国の都市の平均気温と死亡リスクの解析がある注3)、注4)。彼らは、過去28年間を対象に気温の出現頻度と全死亡率の関係を「極めて寒い」「やや寒い」「やや暑い」「極めて暑い」の4つカテゴリーに分けて調べた(図1)。その中の一つである東京を対象にした結果では、低温(特に、図1に示した出現頻度の多い「やや寒い」の気温範囲)の際の死亡リスクが高温のそれよりも高くなっている。この研究は、2015年の発表後約1000件の論文や記事で引用されており(Google Scholarによる被引用文献数)、最近では数値シミュレーションによる将来の地球温暖化シナリオに対する死亡リスクへの影響評価も行われている注5)、注6)


図1 1985年から2012年の東京での日平均気温の出現頻度(ヒストグラム、約1℃刻み)と死亡相対リスク(RR: Relative Risk, 水色線+赤線)の関係(Gasparrini et al. 2015注3)を著者が編集)。縦実線:最適(至適)気温(26.5℃)、縦点線:気温分布の2.5および97.5パーセンタイルの気温。「やや寒い」と定義された時期に気温の出現頻度が集中している。

 図1は最近(1985~2012年)の状況を示しているが、過去の都市化は死亡リスクにどの程度影響したのだろうか?また、将来地球温暖化が進むと死亡リスクはどのように変化するだろうか?過去の国際環境経済研究所のホームページにおいて、著者は日本の気温データには地球温暖化と都市化昇温の両方が影響していることを解説した注7)。本稿ではこのことを踏まえて、図1で示した東京の死亡率と日平均気温のデータを用いて、過去の都市化や将来予想される地球温暖化に対する通年の熱関連死亡リスクの変化を試算する。

2.都市化がなければ、現在も厳冬に悩まされていた

 日平均気温に対する死亡相対リスクは、過去も将来も変化していないと仮定し、図1の水色線・赤線を読み取って6次多項式によってフィッティングした(観測値と予測値の二乗平均平方根誤差:0.0056、決定係数:0.9976)。そして、気象庁による日平均気温の観測データ(図1)に加えて、次の3つのシナリオを考えた:

1)
「都市化なし」シナリオ:過去の東京に都市化が起こらなかった場合を想定し、1985~2012年の観測値(図1)から年ごとの都市化昇温量(℃)を差し引く。東京における都市化昇温量は近藤純正東北大学名誉教授により推計されており注8)、これを用いた堅田(2020)注9)の方法を適用する。
2)
「1℃上昇」シナリオ:地球温暖化や都市化で東京の年平均気温が最近(1985~2012年)よりも1℃上昇した場合を想定して、すべての日平均気温の観測値に+1℃する;
3)
「3℃上昇」シナリオ:2)と同様であるが、さらに気温上昇が進んだ場合を想定してすべての日平均気温の観測値に+3℃する;

 観測値と3つのシナリオの日平均気温から算出した年平均気温の時間変化は、図2のようになる。解析対象である1985年から2012年(図1と同様)に注目すると、年平均気温は「都市化なし<観測値<1℃上昇<3℃上昇」の順に高くなっていることがわかる。参考として、「都市化なし」シナリオの1985年から2012年の100年あたりの気温上昇率は0.62 ℃/100年であり、KON2020による日本の推計値0.77 ℃/100年(1881年から2019年、34地点)注7)、注10)を若干下回った。


図2 1910年から2012年までの東京における年平均気温の経年変化。黒線:図1で用いられている気象庁の気温観測値、青線:気温観測値から年平均都市化昇温量(1920年頃を基準、推計値、15年移動平均値)注8)を差し引いた気温、青点線:線形回帰直線、オレンジ点線・赤点線:気温観測値をそれぞれ1℃および3℃上昇させた気温。

 まずは、「都市化なし」シナリオについて図1と同じく「通年」の日平均気温の出現頻度と死亡リスクの関係を見てみよう。図3bに示すように、観測値から都市化昇温を除去すると、主に厳冬期(12月から2月)に5℃以下の「極めて寒い」という気温範囲の出現率が増加した。それぞれの日平均気温における死亡相対リスク(図3a)と全体を1とした時の気温の出現頻度の割合(図3b)を掛け合わせて算出した超過死亡率(対象となる気温の死亡相対リスクから熱ストレスが最小となる最適気温時のリスクを差し引いた値)も、同じく増加していた(図3c)。この結果は、仮に過去の都市化が進まなければ、都民は現在も厳冬に悩まされていたことを意味する。
 季節と疾病の関係を扱った過去の研究によると、戦後、夏季の死亡率は主に地域経済の発達と医療・衛生水準や生活水準の向上により低減したが、冬季の死亡率の低下は都市化に伴う空調設備の普及とそれに伴う温暖な人工気候環境の形成(今日でいうヒートアイランド現象)がなければ説明できないという注11)。このことを踏まえると、ヒートアイランドを作り出すアスファルト・コンクリート域の拡大・建築物の高層化・人工排熱など注12)が東京の冬日日数を減らし、都民の寿命を延ばしてきたといえるのではないだろうか。


図3 (a)日平均気温に対する死亡相対リスク(Gasparrini et al. 2015注3)を読み取り)と(b) 観測と3つのシナリオにおける気温の出現頻度の割合(1℃刻み)および(c)超過死亡率。

3.地球温暖化が進んでも依然として冬季の方が死亡リスクは高い

 次に、同じく「通年」でみたとき、将来の地球温暖化による死亡リスクはどうなるのだろうか?「1℃上昇」または「3℃上昇」シナリオでは、最近の観測(1985~2012年)に比べて「極めて暑い」という範囲にある気温の出現割合が増加するので、超過死亡率も増える(図3c)。ここだけを考えれば、単純に熱中症等を対象にした研究の必要性を支持するに留まるが、「やや寒い」に含まれる10~25℃の気温範囲に注目すると、超過死亡率はいずれのシナリオも大きく変化していない。「極めて寒い」「やや寒い」「やや暑い」「極めて暑い」の4つカテゴリーに分けた棒グラフで見ても、最近の観測から気温が3℃上昇しても「やや寒い」気温範囲の超過死亡率は2%ほど低下するものの(図4b)、依然として8%を占めている(図4a)。そして、最近の観測から気温が上昇した際の正味の死亡リスクの変化率(超過死亡率の差分)は負であり、将来は地球温暖化による寒さの緩和による便益が猛暑の増大のリスクを上回るという結果となった(図4b、黒実線)。すなわち、将来の地球温暖化は通年で見ると都民の健康にとってプラスであるが、比較的寒い季節の死亡リスクが消えることはないということになる。


図4 観測と3つのシナリオの「極めて暑い」「やや暑い」「やや寒い」「極めて寒い」の4つの気温範囲(図3)に対する(a)超過死亡率と(b)観測値を基準にした超過死亡率の差分と正味超過死亡率。

 比較的寒い時期に死亡リスクが高まるという可能性は、過去の死亡率のデータも支持している。20世紀以降の死亡率を死因別にまとめた研究によれば、悪性新生物の死亡率のピークは晩秋にあるが、他の疾病のピークは主として11月から4月にあり、流行性感冒、肺炎・気管支炎、胃腸炎、結核、心疾患、老衰などのピークは真冬(1・2月)である注13)、注14)、注15)。これを「1℃上昇」・「3℃上昇」シナリオに当てはめると、11月から4月の気温分布の99%以上が図4aの「やや寒い」という範囲に含まれていた(図略)。将来の都民の長寿命を維持するためには、暑熱リスクのみに注目するのではなくこの季節の死亡リスクも減らすべく何らかの人為的介入による対応(適応)が必要だということになる。
 なお、本稿で示した解析は予備的であり、以下のような不確実性を含んでいることに注意しなければならない:

1)
関東地方では、夏季の最高気温の上昇に比べて冬季の最低気温の上昇に及ぼす都市化による影響の方が大きいが注16)、図3にはこの影響が考慮されていない。気温の指標として日最高気温および日最低気温注17)を用いると、図4の超過死亡率の緩和(便益)はさらに増大すると考えられる。
2)
将来、気温が上昇して暑さに体が慣れると(馴化)図3aの死亡相対リスクの曲線は変化するはずであるが、この効果は考慮されていない。このことが温暖化の便益を増やすか減らすかは自明ではなく、将来明らかにすべき課題である注18)

4.ヒートアイランドの良い部分も評価しよう

 大都市で進んできたヒートアイランド現象は、過去の厳冬時の死亡リスクを大きく改善してきた。そしてこの便益は、「通年」で見れば現在も地球温暖化やヒートアイランドによる暑熱によるリスクを上回っていると考えられる。しかし、近年の国内の研究はどちらかというと暑熱に対するものに偏っており(国立環境環境研究所による解説注19))、低温被害に着目した研究注6)、注18)、注20)、注21)はあまり見られない。地球温暖化が進むにつれて増加する熱中症等のリスクは確かに存在するが、そこに注目するあまり、過去から現在、そして将来も続くであろう寒さによるリスクも忘れてはならない。
 本稿では、最も利用しやすいデータである死亡率(厚生労働省の人口動態統計)を指標としたが、実際には死亡の原因となる疾病の種類は様々であり地域によっても異なるため、さらなる研究が必要である。元来、季節と人間の死亡の関係を扱う研究とは、地理学・気象学・医学など様々な学問分野にまたがる学際性の強いものであり注11)、その進展には自然科学と社会科学の両方の立場に立った多角的な視点が必要である。また、気温は地球温暖化や都市化以外の様々な要因によって年々季節変動するものである。直近だと、2019–2020年の冬は記録的な暖冬だったが注22)、2020–2021年は平年並みか低くなるという注23)。政策決定者は、こうした学際性や気象現象の時間スケールの違いを理解した上で、地球温暖化のリスクを総合的に評価することが肝要である。

【謝 辞】
東京(大手町)の日平均気温のデータは、気象庁ホームページからダウンロードした。同地点の都市化昇温量の経年変化のデータは、近藤純正東北大学名誉教授に提供いただいた。

注1)
環境省(2020)令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書、pp. 375.
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/pdf.html
注2)
気象庁(2020)4.6 大都市における冬日日数の長期変化傾向
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/himr_tminLT0.html#ex2
注3)
Gasparrini, A., Guo, Y., Hashizume, M., Lavigne, E., Zanobetti, A., Schwartz, J., Tobias, A., Tong, S., Rocklöv, J., Forsberg, B., Leone, M., De Sario, M., Bell, M.L., Guo, Y.L.L., Wu, C,. Kan, H,. Yi, S.M., Micheline, S.Z.S.C., Saldiva, P., Hilario, N., Honda, Y., Kim, H. and Armstrong, B. (2015). Mortality risk attributable to high and low ambient temperature: a multicountry observational study, The Lancet, 386, 369-375.
注4)
MEDLEY(2015)寒い日と暑い日、死亡率が高いのはどっち?
https://medley.life/news/557f9aeb192351f0004a0ec2
注5)
Gasparrini, A., Guo, Y., Sera, F., Cabrera, A.M.V., Huber, V., Tong, S., Micheline, S.Z.S.C., Saldiva, P.H.N., Lavigne, E., Correa, P.M., Ortega, N.V., Kan, H., Osorio, S., Kyselý, J., Urban, A., Jaakkola, J, J,K., Ryti, N,R,I., Pascal, M., Goodman, P,G., Zeka, A., Michelozzi, P., Scortichini, M., Hashizume, M., Honda, Y., Hurtado-Diaz, M., Cruz, J,C., Seposo, X., Kim, H., Tobias, A., Iñiguez, C., Forsberg, B., Åström, D,O., Ragettli, M,S., Guo, Y,L., Wu, C,F., Zanobetti, A., Schwartz, J., Bell, M.L., Dang, T.N., Van, D.D., Heaviside, C., Vardoulakis, S., Hajat, S., Andy Haines, A., amd Ben Armstrong, B. (2017) Projections of temperature-related excess mortality under climate change scenarios, The Lancet Planetary Health, 1, 360-367.
注6)
Onozuka, D., Gasparrini, A., Sera, F., Hashizume, M., and Honda, Y.(2019) Modeling Future Projections of Temperature-Related Excess Morbidity due to Infectious Gastroenteritis under Climate Change Conditions in Japan, Environmental Health Perspectives, 127, 077006.
注7)
堅田元喜(2020)日本の気温は、地球温暖化で何度上昇したのか?精確なデータセットKON2020
http://ieei.or.jp/2020/10/expl201019/
注8)
近藤純正(2018)K174.都市化による都市の昇温量, 再評価2018
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-KNDU/kenkyu/ke174.html
注9)
堅田元喜(2020)猛暑日は都市化によって増大している
http://ieei.or.jp/2020/12/expl201209/
注10)
近藤純正(2020)K203.日本の地球温暖化量, 再評価2020
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke203.html
注11)
籾山政子(1981)疾病・死亡率の季節変化に関する研究-藤原賞受賞記念講演-,
天気, 28, 12, 823-833.
注12)
気象庁(2018)ヒートアイランド監視報告2017
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/h30/index.html
注13)
田中正敏(1992)気象病への寒暑要因の関与, 日本生気象学会雑誌, 29, 125-131.
注14)
藤井幸雄(1996)1979年以降の新季節病のカレンダー, 日本生気象学会雑誌, 33, S72.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikisho1966/33/3/33_3_S72/_pdf
注15)
田中正敏(2003)疾病の季節性, 地球環境, 8, 2, 137-144.
注16)
気象庁(2020)5.1(1) 夏と冬のヒートアイランド現象の比較 関東地方
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/himr_5-1-1.html
注17)
近藤純正ホームページ 8.都市化と放射冷却
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kisho/kisho08.html
注18)
藤部文昭, 松本淳, 鈴木秀人(2019)日本の低温死亡率の地域性と変動および気温との関係, 天気, 66, 8, 513-527.
注19)
国立環境研究所(2009)熱中症の原因を探る 救急搬送データから見るその実態と将来予測, 環境義, 32, pp. 16.
https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/32/32.pdf
注20)
藤部文昭(2016)低温による国内死者数と冬季気温の長期変動, 天気, 63, 469-476.
注21)
大橋唯太(2019)急性循環器疾患の発症リスクと気象・気候変化との関係性について, 環境情報科学学術研究論文集, 33, 301-306.
注22)
気象庁(2020)2020年冬の天候の特徴とその要因について~異常気象分析検討の分析結果の概要~
https://www.jma.go.jp/jma/press/2004/14b/kentoukai20200414.html
注23)
気象庁(2020)向こう3か月の天候の見通し 12月~2月
https://www.jma.go.jp/jp/longfcst/pdf/pdf3/001.pdf