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猛暑日は都市化によって増大している


キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員、茨城大学 特命研究員


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 毎年のように猛暑や最高気温の記録更新などが報道されているが、その原因となるのは地球温暖化だけではない。戦後の高度経済成長とともに全国各地で進んできた都市化によっても、地上気温は上昇する。地球温暖化が及ぼす熱中症や農作物への影響などを検討する際には、都市化による昇温(気温上昇)を精確に評価しなければならない。

1. 猛暑日数の増加の原因は、地球温暖化?

 地球温暖化が及ぼす健康影響のリスクとして、真夏日・猛暑日(日最高気温がそれぞれ30度および35度以上の日)の全国的な増加に伴う熱中症の増加が懸念されている注1)。実際、1910~2019年の間、全国13地点(都市化の影響が比較的小さく長期観測が行われている地点)の猛暑日の年間日数は100年あたり約1.8日増加している(図1a:回帰直線の勾配)。真夏日の年間日数も、同様に増加傾向である(図1b)。確かにこれらの昇温の一部は地球温暖化によるものであろうが、その他にも都市化昇温(都市昇温量注2)、注3)と日だまり効果昇温量注4)の影響も受けている。地球温暖化が及ぼす猛暑日数への影響を正しく評価するには両者の影響を区別する必要があるが、図1のデータを見ているだけではわからない。


図1(a) 1910年から2019年までの全国13地点における猛暑日および(b) 真夏日の平均年間日数の長期変化注5)。都市化昇温の影響を含んでいる。赤線・赤字:単回帰直線と決定係数。青太線:5年移動平均値。

 近藤純正東北大学名誉教授による最近の研究によって、わが国で都市化によりどの程度の気温上昇がもたらされているか、すなわち都市化昇温量の定量化が進んできた注6)。そこで本稿では、その結果を利用して都市化昇温が及ぼす猛暑日数への影響を解析する。

2. 地点ごとの猛暑日数と都市化昇温量

 まず、図1aの元となっている全国13地点の年間猛暑日数の経年変化を図2に示す。全国13地点のうち、明瞭な猛暑日数の増加傾向がみられたのは山形・伏木・境・彦根・多度津(図2d, f, h, jおよびk)の5地点であった(信頼度水準99%で統計的に有意)。一方、根室・寿都・石巻・銚子は猛暑日数自体がゼロか非常に低く(図4b, c, eおよびg)、そのほかの地点では増加傾向は明瞭ではなかった。したがって、全国の猛暑日数の増加傾向(図1a)には、主に山形・伏木・境・彦根・多度津のいずれかもしくは全地点の増加傾向が反映されていることになる。


図2 全国13地点の猛暑日数の経年変化(都市化昇温の影響を含む)。赤線・赤字:単回帰直線と決定係数。

 上述した山形・伏木・境・彦根・多度津の5地点で推計された都市化昇温量の年平均値は、2017年時点でそれぞれ0.6・0.35・0.60・0.75・0.6度と推計されており注2)、6)、7)、8)、特に、伏木を除く4地点の昇温量は過去100年間の日本の平均的な地球温暖化量の推計値である0.77度注9)に匹敵する。経年変化を見ると、いずれの地点でも高度経済成長期(1960年以降)に大きく上昇したことがわかる(図3)。このことは、高度経済成長期に観測された日最高気温の観測値は、都市化影響により底上げされている可能性を示唆している。


図3 1920年頃を基準としたときの4地点(図2d, h, jおよびk)における年平均都市化昇温量の推計値の経年変化(15年移動平均値)注6)。2013年以降は推計されていないため、2013年の値で外挿した。なお、1970年代以降については、過去の測器の誤差や観測方法などの変更による気温の誤差は十分小さいとみなすことができる注8)

3. 都市化の影響を除くと、猛暑日数の増加率は激減する

 さて、図3に示した年平均の都市化昇温の影響を除去すると、図2の猛暑日数の傾向はどのように変化するだろうか?これを調べるために、観測所周辺の都市化が進んでいる山形・境・彦根・多度津について、猛暑日数の計算に用いている日最高気温のデータの補正を試みた。猛暑や熱中症などが問題となる春から秋に関しては、日最高気温はそのまま経年変化の形を変えることなく年間の都市化昇温により一様に上昇すると仮定できるので注8)、都市化昇温の影響は次の式によって除去できる:

日最高気温(地球温暖化のみ)=日最高気温(地球温暖化+都市化)-15年移動平均都市化昇温量

 この式により各地点の日最高気温を補正し、猛暑日数を再計算した。また、その他の9地点では都市化の影響は相対的に小さいとして、図2に示した猛暑日数をそのまま利用した。
 図4は、都市化の影響が大きい山形・境・彦根・多度津の4地点において都市化昇温を除去したときの猛暑日数である。都市化昇温の除去により、山形・彦根・多度津の増加傾向は不明瞭となり決定係数も大きく低下した(図4a, cおよびd;信頼度水準99%で統計的に有意でない)。境では、除去後も緩やかな増加傾向が見られるものの(信頼度水準99%で統計的に有意)、猛暑日数の増加率そのものは都市化を含めた場合の2/3に低下した(図4b)。


図4 年間猛暑日数の増加傾向がみられた4地点(図2d, h, jおよびkに対応)における都市化昇温を除いたときの年間猛暑日数の長期変化。赤実線・赤字:単回帰直線と決定係数。黒点線:補正前の単回帰直線(図2に同じ)。

 最後に、都市化昇温を除いた4地点(図4)とその他9地点(図2)の日最高気温データから再計算した全国13地点の猛暑日数の長期変化を図5に示す。気象庁の発表注5)では1.8日/100年間(図5:黒線・黒字)であった猛暑日数の増加率が、都市化昇温を除去すると0.9日/100年間と約半分となり、回帰直線の相関も弱くなる(図5:赤線・赤字;信頼度水準99%で統計的には有意)。このことは、少なくともわが国では都市化が地球温暖化と同程度に猛暑日数の増加に寄与しうるということを意味している。また、都市化の影響を除去しなかった9地点に対しても上述した修正を施すことによって、猛暑日数の増加率はさらに低下すると考えられる。


図5 都市化昇温を除いた4地点(図4)とその他9地点(図2)の猛暑日数から再計算した全国13地点における猛暑日の平均年間日数の長期変化。赤実線・赤字:単回帰直線と決定係数、黒点線・黒字:都市化昇温を含む場合の単回帰直線と決定係数(図1aの赤線・赤字と同じ)。

4. 地球温暖化量の正しい評価に向けて

 都市化により真夏日や猛暑日が増えているという可能性については、多くの研究ですでに指摘されている。例えば、猛暑で有名な群馬県館林市や埼玉県熊谷市でも猛暑日数は増加しているが、市街地と農耕地・林地の気温観測値の比較によりその主たる原因は都市化に伴う土地利用状態の変化だとしている注10)。岡山地方気象台での気温観測でも、郊外から都市部への露場移転によって猛暑日が上昇したという報告がある注11)。ヒートアイランドの監視を目的とした調査でも、観測所周辺の人工被覆率と日最高気温の上昇率の間に有意な関係があると報告されている注12)、13)。その他にも、水田などの農地・林地の減少も周囲の気温の増大につながった可能性がある注10)、注14)。そして本稿では、最新のデータセットを用いて都市化昇温が地球温暖化と同程度かそれ以上のレベルで猛暑日の増大に寄与している可能性を示した。このように、地球温暖化そのものが猛暑日・真夏日・熱帯夜などの長期的な気温変化に及ぼす影響を精確に評価するには、観測誤差や都市化などの影響を除去することが必要不可欠である。
 そこで、近藤純正東北大学名誉教授が気象庁の協力を得て開発した139年間(1881年から2019年)の日本全国34地点の地球温暖化量のデータセットKON2020の出番である注9)。著者の解説記事注15)にあるように、KON2020には各地点の都市化昇温の除去をはじめとした種々の適切な補正がなされているからである。このデータセットの活用が進み、ヒートアイランドの実態や健康・農作物への影響などのより精確かつ多面的な評価が進むことを期待する。

【謝 辞】
全国13地点の日最高気温のデータは、気象庁ホームページからダウンロードした。都市化昇温量の経年変化のデータは、近藤純正東北大学名誉教授に提供いただいた。

注1)
環境省(2020)令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書、pp. 375.
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/pdf.html
注2)
近藤純正(2010)K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-KNDU/kenkyu/ke48.html
注3)
近藤純正(2012)日本の都市における熱汚染量の経年変化,気象研究ノート,224,25-56.
注4)
Sugawara, H., and Kondo, J. (2019) Microscale warming due to poor ventilation at surface observation stations, J. Atmos. Ocean. Technol., 36, 1237-1254.
注5)
気象庁(2020)大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
注6)
近藤純正(2018)K174.都市化による都市の昇温量、再評価2018
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-KNDU/kenkyu/ke174.html
注7)
近藤純正(2010)K39.気温の日だまり効果の補正(2)
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-KNDU/kenkyu/ke39.html
注8)
近藤純正(2020)K211.日最高・最低気温の長期昇温率は季節により違うか?
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-KNDU/kenkyu/ke211.html
注9)
近藤純正(2020)K203.日本の地球温暖化量、再評価2020
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke203.html
注10)
桑形恒男, 福岡峰彦(2019)農耕地の気温はアメダス(AMeDAS)の気温とどう違うのか, 生物と気象, 19, 10-14.
注11)
三浦悠, 大橋唯太(2017)岡山地方気象台の露場移転が観測される気温に及ぼす影響について, Naturalistae, 21, 7-15.
注12)
気象庁(2017)ヒートアイランド監視報告
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/h30/himr_2017.pdf
注13)
気象庁(2020)気温の長期変化傾向と都市化率の関係
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/himr_1-2.html
注14)
堅田元喜(2019)水田の減少は、日本の気温を上昇させている?
http://ieei.or.jp/2019/12/opinion191202/
注15)
堅田元喜(2020)日本の気温は、地球温暖化で何度上昇したのか?
http://ieei.or.jp/2020/10/expl201019/