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都市化と地球温暖化を巡る世界の動き


キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員、茨城大学 特命研究員


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 地上気温の観測データに混入する誤差は様々であるが、中でも都市化による昇温は、国レベルの地球温暖化に伴う長期の地上気温の上昇率(地球温暖化量)の評価に大きな影響を与えうる注1)この問題は世界的にも1970年代から認識されていたが注2)、50年経った今も議論は続いている。

1. 米国での地球温暖化量の観測データへの疑問

 昨年10月、近藤純正東北大学名誉教授が気象庁の協力を得て開発した139年間(1881年から2019年)の日本全国34地点の地球温暖化量のデータセットKON2020を紹介した注3)。一方米国では、KON2020とは異なるアプローチで都市化の影響を除去するべく、異なるデータセットの利用が検討されている注4)
 米国の人口は過去50年の間に58%増え、インフラ整備が進みエネルギー消費と人工排熱の増加と緑地の減少が起きた。その結果、人口集中地域では気温が数℃上昇した。理論的には、都市化による昇温率は人口の4乗根におおむね比例するとされ注2)、その影響は地理的には数kmの範囲にまで及ぶ注3)。観測データに都市化の影響が混入すると、地球温暖化量の精確な評価に支障が出てしまう。このような影響が混入した観測地点のデータはできるだけ利用を避けるべきであるが、日本にしても米国にしても観測地点の多くは人口集中地域に存在し、過疎地域のようにアクセスや観測機材・システムの管理が困難な地点の数はそれほど多くはない。そのため、観測データから地球温暖化量を求めるには、何らかの指標を用いて都市化昇温を定量化しなければならない。
 アメリカ航空宇宙局(NASA)のSpencer博士は、まず、人口密度を都市化の指標として既往の気温データセットに都市化の影響が含まれているかどうかを確認した注4)。米国での地球温暖化量の評価に最も使われているデータセットは、アメリカ海洋大気庁NOAAのUSHCN(U.S. Historical Climatology Network、米国内1218地点、観測期間100年以上)注5)である。このデータセットに記録されている日最高気温と日最低気温は、過去(1960年頃)に観測頻度が変更されたためにそれに伴う誤差を含んでいる。その他にも、観測地点によっては移転や機器の変更などによる誤差が含まれており、NOAAはhomogenization(均質化)という方法でこれを補正している。
 USHCNから算出した地球温暖化量と都市化の指標となる人口密度の関係を見てみよう(図1)。この補正前・補正後のデータを人口密度に対してプロットすると、いずれも相関が見られる。わが国でも同様な解析がなされており、気象庁アメダスの平均気温の経年変化率と人口密度との間に相関が見出されている注6)。このように、USHCNは地球温暖化の観測データであると解釈されて利用されているものの、実際にはhomogenizationによる補正だけでは都市化の影響は除去できていない。補正後のデータのばらつきも非常に大きく、上述した測器の変更や観測地の移転などの影響も補正しきれていないと考えられる。


図1 2020年の人口密度の4乗根に対する1973~2020年のUSHCNデータセットのhomogenization補正前と補正後の10年間の平均気温の変化率注4)。軸ラベルや凡例は著者による翻訳。

2. 空港のデータは都市化の評価に適している?

 米国には、USHCNに含まれていない多くの気象観測地点があり、その大部分は「空港」に存在している。Spencer博士はこのことに着目し、世界の空港が含まれている地上気温のデータセットISD(Integrated Surface Database、世界35000地点以上、米国内311地点、観測期間100年以上)注7)を地球温暖化量の評価に使おうとしている注4)。なぜ空港なのか?その利点は、これらのデータの取得時間(1時間毎正時)が過去から現在まで一切変化なく毎正時に取得されており、USHCNのように観測頻度の変化に伴う誤差が含まれていないことである。なお、観測地点周辺の人口密度も両データセットで大きく異なる(図2)。その多くが都市に位置するUSHCNでは、観測地点から離れるほど人口密度は減少する(図2、青線)。しかし、ISDの場合は空港の周囲1 kmの範囲には人がほとんど住んでおらず(100人未満)、そこから離れると急激に増加する(図2、緑線)。このような傾向の違いが都市化昇温にどのように影響するかは今のところ不明である。


図2  2020年におけるUSHCNおよびISDデータセットの観測地点周囲の平均人口密度を算出するための面積に対する平均人口密度の変化注4)。図中の日本語は著者による翻訳。

 さて、実際にISDの米国311地点の観測データを整理して図1と同じようにプロットすると図3のようになる。Spencer博士は、これらのデータ地点はUSHCNのデータ(1218地点)にはわずか8.7%しか含まれていないので、両データをほぼ独立のデータであるとしてその傾向を比較している。人口密度に対する線形関数で回帰し、その影響がゼロと考えられる切片の値を読み取ると(図3、”linear fit(線形回帰)”の黒丸)、地球温暖化量は1.3℃/100年となる。この値は、homogenization による補正をかけたと称しているUSHCNの地球温暖化量(2.6℃/100年)の半分にすぎず注4)、USHCNから都市化の影響を除去したとする過去の異なる解析結果注8)とも良好に一致するという。この新しいデータセットがUSHCNよりもデータのばらつき(標準偏差)が小さいということも新しいデータセットの精度の優位性を示すとしている注4)。もしそうであれば、米国で最も使われているUSHCNデータセットも都市化昇温の混在によって地球温暖化量が過大評価されていることになる。それだけではなく、homogenizationというデータの精度を向上させるための補正が、逆にその不確実性の評価を難しくしてしまっている。統計的手法に基づく補正が必ずしも正しい結果を導くとは限らないことは、ここ最近のUSHCNデータセットの解析でも指摘されている注9)


図3 2020年の人口密度の4乗根に対する1973~2020年の空港を中心としたISDデータセットの10年間の平均気温の変化率注4)。軸ラベルは著者による翻訳。

3. 世界は今も、地球温暖化の観測結果を「査読」している

 実のところ、著者がSpencer博士の記事に興味を持った理由はその内容だけではなく、記事に対する世界の関心の高さ(反響)であった。この結果が公表されてからわずか3ヶ月弱で、インターネット上で1000件近いやり取り注4)があったのである。
 USHCNデータセットの観測頻度などの基本的な質問はもとより、図1や図3のデータのばらつきは非常に大きく統計的な解析手法の弱さへの指摘や(著者も同感であり、十分な精査が必要である)、関連するものとして「都市化という現象は複雑であり人口密度のみで表現することは単純化しすぎで誤解を招く」という投稿もあった。また、「空港が常に田舎の状態にあるとは限らず、都市と同じように経済発展の影響を受けるので個々の空港により事情が異なる」、「都市化が含まれた観測データは、それ自体の不確実性だけではなく、それが数値シミュレーションに取り込まれる際の手続きにおける不確実性も大きい」などというコメントも見られた。そしてある人は、「この記事の価値は、都市化の影響を中心に既往の地球温暖化の観測結果の妥当性に関してはまだまだ研究が必要であると指摘したことだ」と主張していた。
 著者がこれまで論文投稿してきた学術雑誌では、通常、数ヶ月程度の期限で2~4名程度の科学者(通常は匿名)によりその内容の妥当性が審査(査読)され、公表に至る。世紀の発明や発見を除けば、公表された論文の内容が再び吟味されることはあまりない。しかしこの記事は、コメントの質には注意が必要であるが、世界中のプロフェッショナル・アマチュアによって無期限で査読され続けているのである。
 わが国には、このようなコミュニケーションの場は存在するだろうか?例えば、気象庁は長期気象観測データに関する「よくある質問」への回答注10)、近藤純正東北大学名誉教授は自らの講演に対する質疑応答注11)などを公開している。しかしざっと調べたところ、本稿で紹介した記事のような都市化と地球温暖化を巡る議論がなされている場は見当たらなかった。データセットそのものはそれに携わる科学者たちが長い時間をかけて精査してきたものであり、そのこと自体には疑いの余地はない。それでもなお、地球温暖化の観測データは様々な学問分野や行政で参照される最も基本的な情報であることから、多様な人が観測データの質に興味を持ち、集まり、様々なレベルでオープンに議論できる場が必要ではないだろうか。

注1)
堅田元喜(2021)IPCCの報告書は日本の地球温暖化量を過大評価か
https://agora-web.jp/archives/2051171.html
注2)
Oke, T.R. (1973) City size and the urban heat island, Atmospheric Environment, 7, 8, 769-779.
http://www.patarnott.com/pdf/Oke1979CitySizeAndHeatIsland.pdf
注3)
堅田元喜(2020)日本の気温は、地球温暖化で何度上昇したのか? 精確なデータセットKON2020
https://ieei.or.jp/2020/10/expl201019/
注4)
Spencer, R. (2021) Urban Heat Island Effects on U.S. Temperature Trends, 1973-2020: USHCN vs. Hourly Weather Stations
https://www.drroyspencer.com/2021/02/urban-heat-island-effects-on-u-s-temperature-trends-1973-2020-ushcn-vs-hourly-weather-stations/
注5)
U.S. Historical Climatology Network (USHCN)
https://www.ncdc.noaa.gov/data-access/land-based-station-data/land-based-datasets/us-historical-climatology-network-ushcn
注6)
Fujibe, F. (2011) Urban warming in Japanese cities and its relation to climate change monitoring, International Journal of Climatology, 31, 2, 162-173.
https://rmets.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/joc.2142
注7)
Integrated Surface Database (ISD)
https://www.ncdc.noaa.gov/isd
注8)
Watts, A. (2015) Press Release – Watts at #AGU15 The quality of temperature station siting matters for temperature trends
https://wattsupwiththat.com/2015/12/17/press-release-agu15-the-quality-of-temperature-station-siting-matters-for-temperature-trends/
注9)
May, A. (2020) The U.S. National Temperature Index, is it based on data? Or corrections?
https://wattsupwiththat.com/2020/11/24/the-u-s-national-temperature-index-is-it-based-on-data-or-corrections/
注10)
気象庁(2021)世界と日本の気温、降水量の経年変化に関して、よくある質問
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/qa_temp.html
注11)
近藤純正(2021)K216. 水と時代、私の研究と方法(Q&A)
https://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke216.html