再エネ投資はお得?

WWFの自然エネルギー100%実現の前提はどこがおかしいのか


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


印刷用ページ

 2050年に全ての日本のエネルギーを再生可能エネルギーによって供給するというWWFの「長期シナリオ2017」を巡り、当研究所の塩津源氏とWWFとの間で議論が行われている。塩津氏の論考での指摘に対し、WWFがその回答をホームページに掲載し、その回答に対し塩津氏が再度指摘を行っている。
 塩津氏の論考については、当研究所のホームページに掲載しているのでご覧戴きたいが、ここでは長年エネルギー開発と温暖化防止事業に携わってきた立場から、投資に関するWWFの理解を正しておきたい。投資あるいは収益に関し正しい理解に基づく前提がなければ、省エネ、再エネに投資可能との主張は根底から崩れてしまうことになる。

 バブル経済華やかしころ、かなりの数の企業が「財テク」に精を出した。株主から社債により調達した資金を元に、少し金利率が高い金融資産を購入し、鞘取りにより収益をあげたのだ。例えば、年利2%で調達した資金で、年利3%の金融商品を購入し、1%儲けたのだ。これは、ファイナンスの基礎理論を無視した行為なのだが、当時企業の中でもこれが問題のある投資と理解していた人は多くなかった。
 企業は、投資を通し成長を図る。これは、どの業種の企業でも同じだ。電力会社は発電・送電設備に投資を行う。自動車会社は車の製造ライン、研究開発に投資を行う。スーパーマーケットは在庫と店舗に投資を行う。投資のための資金は、自己資金に加え株主あるいは銀行などの金融機関から調達する。投資に利用した資金に対し企業はどの程度利益をあげれば良いのだろうか。
 銀行から年利2%で借り入れを行い、投資家から年利3%の社債で資金を調達すれば、4%も利益をあげれば十分なのだろうか。バブルの頃「財テク」に励んだ財務担当者はこの収益率で十分と考えていたから、投資を行ったのだ。しかし、鞘取りだけで企業が株主の期待に応え成長できるはずもなく、従業員に十分な給与を支払うことが可能になるわけはない。
 企業が必要とする収益率は、どのように考えればよいのだろうか。バブルの頃から日本企業にも浸透してきた考えは、「資本コスト」と「時間の概念」だった。ここでは詳しい説明を省くので、興味がある方は私の著書「企業の意思決定のためのやさしい数学」(講談社プラスアルファ新書‐絶版ですが、古本で見つけられると思います)をご覧戴きたいが、調達金利に事業のリスクを勘案し、ハードルレートと呼ばれる必要な収益率を決める方法だ。事業に伴うリスク、あるいは、資金調達時の借入金と自己資本の比率によってもハードルレートは変わってくる。通常の事業であれば、調達金利率に数パーセント以上は上乗せする必要がある。
 「時間の概念」は今日の100万円と10年後の100万円は価値が異なるという意味だ。今日100万円を入手し、10年間運用すれば110万円くらい、あるいは上手くすれば、150万円くらいになるかもしれない。10年後の100万円より今日の100万円に価値がある。1000万円投資し、毎年200万円の収益(正確にはキャッシュフローだが、以下収益と記載する)が初年度から10年間生じる事業と、5年目から10年間生じる事業では、その収益性は大きく異なる。この時間の概念を計算上で表すために考えられたのが、割引率(Discounted Rate)という考え方だ。割引率で修正した収益を現在価値と呼ぶ。
 時間の概念を入れた収益額を計算する手法だが、具体的な計算は、例えば1年後に得られた収益100万円の現在価値は、割引率が10%の場合には100万円÷(1+0.1)と計算する。2年後の収益が100万円の場合には100万円÷(1+0.1)2となる。同様に、n年目の収益を(1+0.1)nで割り現在価値を計算する。割引率をr、収益をCで表せば、一般的にn年目の収益の現在価値はC/(1+r)nで表すことが可能になる。
 投資額と収益額の合計の現在価値が同じになるrを内部収益率 (IRR-Internal Rate of Return)と呼んでいる。投資の収益率、ROI (Return on Investment)という場合には、IRRを指していることが多い。IRRを必要とされる収益率、ハードルレートと比較し、投資を実行するか否か決定する手法が通常用いられている。事業には様々なリスクがあるので、リスクに応じ収益額を変動させ、IRRを計算することも普通に行われており、感度分析と呼ばれる。
 割引率を用いる投資の収益計算方法は他にもあるが、ここではこれ以上の説明は行わない。さて、塩津氏の指摘「投資に対し金利を考慮していない」に対するWWFの回答は「この報告では、金利を含めませんでしたが、数%程度の金利を含めても結論に大きな変わりはないと考えています」だった。金利ではなく、資本コストを基に投資を考える必要がある。また、時間の概念を入れなければ、大多数の投資の収益性はプラスになる。企業が行う投資ばかりではなく、時間の概念は温暖化問題でも考慮されている。
 温暖化の影響を分析したスターンレポートでも、将来の影響額を割引率により現在価値に置き直し考えている。もっとも、スターンレポートで用いられた割引率は低すぎるのではないか(将来の温暖化の影響が過大になっている)として、割引率に関する議論もあった。
 もうお分かりと思うが、金利、資本コストを無視し、時間の概念も取り入れず省エネ、再エネ投資を評価するのは無理だ。WWFのメンバーがスターンレポートを巡る割引率の論争を知らないわけはないと思うが、それでも資本コストと時間の概念を無視して主張を行うのは不思議だ。数%の金利率だから結論に大きな変わりはないという主張は、バブル期に金融理論を無視し「財テク」を行った担当者の発想に通じるところがある。

 太陽光発電設備への投資例を基に、「資本コスト」と「時間の概念」が投資に与える影響を以下にみてみたい。

 前提:50kWの設備
 投資額:設備935万円、土地65万円
 売電収入:年間110万円
 減価償却費:年間55万円x17年間
 設備維持費:年間10万円

 この前提だと、1000万円の投資額に対し、20年間で2000万円の純利益、2935万円のキャッシュフロー、要は手元に戻ってくる資金が得られる。投資額の2倍と約3倍だ。「資本コスト」と「時間の概念」を考え、割引率を10%に想定すると、得られるキャッシュフローの現在価値は1240万円になってしまう。割引率を14%にすると得られるキャッシュフローは約1000万円だ。即ち、この投資のIRRは14%ということだ。太陽光発電事業の20年間のリスクを考え、ハードルレートをどこの設定するのかは、事業者によって異なるだろうが、14%でも投資しない事業者もいるだろう。
 「資本コスト」と「時間の概念」を基に投資を考えると、得られる収益額(キャッシュフロー額)は、3分の1程度になってしまうということだ。得られる収益額を大きく割り引いて考えなければ、投資は成立しない。



再生可能エネルギー普及政策を考えるの記事一覧