総論 ―再生可能エネルギー 普及政策を問う―


国際環境経済研究所理事・主席研究員

印刷用ページ

 再生可能エネルギーの導入拡大は必要だ。このことに異論がある方はいないだろう。しかし、どういうペースで、どの程度の国民負担を許容しながら導入していくかについては議論の必要がある。再生可能エネルギーはエネルギーを作る手段であり、目的ではないからだ。
 しかし、我が国が現在採る「固定価格買取制度」導入の時点では、そうした議論が尽くされたとは言い難い。この「再生可能エネルギー普及政策を問う」のコーナーでは、経済、法律、イノベーションなど各分野の専門家あるいはモノづくり立国日本を支える産業界から多くの論稿をいただき、改めて現状の課題を明らかにし、再生可能エネルギーの適切な導入拡大はどのように図られるべきかを問いたいと思う。

 このコーナーの初めての投稿として、私から現状の課題を包括的に指摘したい。
 まずエネルギー政策を考えるときにコストというのは非常に重要な要素となることを再認識すべきである。エネルギーは究極の生活必需品であり、消費税と同様、逆進性が高い。
 下記のグラフは今年のエネルギー白書に掲載されたものであるが、左側が年間収入別、右側が年齢階級別で、それぞれ赤い線が消費支出に占める電気代の割合を示している。世帯年収が少ないほど、そして、世帯の年齢が高いほど消費支出に占める電気代の割合が高くなっている。要は、電気という究極の生活必需品の値上がりは、生活弱者にとって特に厳しい負担となることがわかる。国民生活基礎調査の世帯別年収分布を確認すれば、我が国の世帯の三分の一は年収300万円未満である。消費税の引き上げが議論される中、エネルギーコストの上昇という別の負担もかかることに、そうした低所得世帯が耐えきれるのかを現実的に考えなければならない。

共にエネルギー白書2015

共にエネルギー白書2015

 安倍政権は、長く停滞していた日本経済を立て直すことを政策の最優先課題に掲げているが、電気料金に係る国民負担(産業用・家庭用含む)が震災前の2010年と2014年とでは約3兆円増加して、我が国の産業及び国民生活を圧迫する要因となっている(左図)。世帯の支出費目の増減を見ても、電気代が約14%増加する一方で、交際費や教養娯楽費、こづかいなど景気浮揚を支える支出が大幅に減少していることがわかる(右図)。

共にエネルギー白書2015

共にエネルギー白書2015

 エネルギーコストが低所得世帯、高齢者にとって特に大きな負担であること、そして震災以降、原子力発電所の稼働停止による火力発電所炊き増しのための燃料費増と再生可能エネルギー固定価格買取制度による賦課金がダブルパンチとなって、国民生活に大きな負担となっている。こうした現状認識をしたうえで、再生可能エネルギーの普及政策について改めて議論すべきである。

 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下、FIT)は、再生可能エネルギーの導入を加速する点においては大きな効果を上げた。しかし、国民のコスト負担など大きな問題をもたらすことが明らかになっている。以下、問題点を3つに集約して、今後のこのコーナーにおける問題提起としたい。

1)国民負担の急激な膨張

 ①
FIT開始後2年間の案件が運転開始した場合、単年度の賦課金が2.7兆円に上るという試算が示された注1)。また、長期の買取を保証するFITのもとでは、累計で最低ケースで約53兆円(国民一人当たり40万円超)、最大ケースでは約85兆円にもなるとの試算も示されている注2)
 ②
再エネの中でも太陽光・風力は自然変動電源であり、その不安定性への対処が必要になる。安価で大容量の蓄電技術開発が待たれるところであるが、それがない現状では、賦課金という再生可能エネルギー導入の直接的コストとは別に、系統安定化対策や調整電源などに対する間接的コストが発生する。
 この間接的コストは、さまざまな前提の置き方によって大きく試算値が異なることを理解しておく必要があるが、系統安定コストの一例として、北海道・東北に590万W追加的に風力が導入された場合、地内送電網増強(約2700億円)+地域間連系線強化等(約9000億円)の、計1兆1700億円の追加コストが発生と試算されている。
 また、自然変動電源の稼働にあわせて調整電源としての稼働をしなければならない火力発電の運転が非効率になることによるコスト増などについては、風力・太陽光それぞれの導入量についていくつかのパターンを設定して試算しているが、1年間で約3000億円から7000億円程度の追加コストが必要であるとの試算も示されている注3)

 制度導入時に国民に示されていた見通しでは、制度開始後10年目で標準家庭の負担額が約150~200円/月程度とされていた。ドイツでも、「ラテ1杯分程度の月額負担で再生可能エネルギーを応援できる」とされていたにもかかわらず、現在標準家庭が負担する賦課金が年間3万円に膨らんでいることからも明らかな通り、FITは国民負担を制御することが非常に困難である。
 さらに、制度導入当初にはほとんど議論されていなかった間接的コストも含めて、国民が負担できるコストについて総体的に把握し、国民の理解を求めていく必要がある。

注1)
第4回新エネルギー小委員会資料8
注2)
「太陽光発電・風力発電の大量導入による固定価格買取制度(FIT)の賦課金見通し」
注3)
長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(平成27年5月)発電コスト検証ワーキンググループ