再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の即時廃止を


東京工業大学名誉教授

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 (中小水力); FIT制度施行前の再エネ電力の多くは商業用電力網には入っていないと考えてよい。それは、FIT制度施行前には、太陽光(住宅)を除いた再エネ電力は、発電原価を切る安い値段でしか電力会社に買い取ってもらえなかったはずだからである。FIT制度施行後、何故、この中小水力が伸びないのか、その理由としては、表2に見られるように、FIT制度施行前、すでに発電可能量で導入ポテンシャルの66.5 % ( = 54,662 / 82,221 ) の設備が設置されていたので、これから事業化のメリットが出るような設備新設の立地が得られる余地が少ないのではないかと推察される。
 (地熱);火山国日本において、一般に有望と喧伝されている地熱が、FIT制度施行後の導入件数が極端に少ないことにも注意する必要がある。地熱発電の場合、その立地が国立公園内にあるなど、厳しい環境アセスメントの規制を受けると言われており、それが、表2 の導入ポテンシャルの小さい値(7.5 %)にも反映されていると考えられる。また、太陽光発電のように、単に、市販の設備を買ってきて据えつければよいのとは違って、かなり高度な技術を必要とするため、FIT制度の利用を新しい収益事業としようとする向きには参入が難かしいのではなかろうか。しかし、日本は、優れた地熱発電技術を持っており、海外にも輸出しているとのことで、設備の年間平均利用率の高い値 (70%)からも、その導入ポテンシャル量の拡大を阻んでいるのが規制の問題であるなら、その緩和も含めて、将来的には、もう少し、発電可能量の増加の方策が検討されてもよいのではないかと考える。
 (風力);太陽光発電に比べて、発電コストも低い上に、導入ポテンシャルは国内電力需要(2010年)の4.83倍(483 %)もあると推定される風力発電が、FIT制度施行後の導入比率で僅か2.4 % に止まっているのは、年間平均設備利用率の高い値が得られる立地が、北海道や東北地方の僻地に限られるため、現状では、送電線がないとの理由で、電力会社に受け入れを認めてもらえないためではないかと考えられる。
 (バイオマス発電);図3に見られるように、バイオマス発電は、FIT制度施行後の導入設備の発電可能量の合計値が10.5 % と太陽光発電に次ぐ比率を示す。これは、国産木材価格の低迷で苦境にある日本の林業が、このFIT制度で決められた発電原料木材の高い買取価格に再生の活路を見出そうとしているためである(文献4参照)。しかし、現状で国内木材需要量の70 % 以上を輸入に依存している日本で、木材の国内需要を国産材で自給できる体制をつくって、その際の廃棄物の全てを発電用に使った場合のいわば推定発電可能量が、
表2に参考として示したように、国内電力需要の0.8 % にしかならない。すなわち、導入ポテンシャルが殆どないことに注意する必要がある。現在、地球温暖化対策として、電力会社の石炭火力発電所では、一定比率のバイオマスの石炭との混焼がRPS法で義務付けられているが、国内でその原料木材を調達できない電力会社は、その大部分を輸入に頼っている。

何の役にも立たない不条理なFIT制度の速やかな廃止を強く訴える

 もともと地球温暖化対策としての再エネ電力の利用・普及の推進を目的としたFIT制度であるが、福島原発事故後、その目的が原発代替の電力を供給するためと変った(文献3)。しかし、上記したように、資源エネルギー庁によるFIT制度施行後17ヶ月後の再エネ電力の導入状況調査の結果から、このFIT制度は、いまこの国の当面している大きな経済問題である原発代替の電力の生産のための化石燃料の輸入金額の増加による貿易赤字の拡大を解決するためには何の役にも立たないことが明らかである。いま、緊急に、原発分の電力を確保したいと思うなら、① 原発を再稼動するか、②それがいやなら、徹底した節電で、その分の電力を賄うか、③さらに、もう一つ、私が原発事故直後から提言してきたように、当面は、原発代替電力分を、安価な石炭火力発電で賄うか、この三つの方策のいずれかを選定する以外にない。
 上記したように、いま、資源エネルギー庁は、このFIT制度の再エネ設備の認定量と実稼働量との大きな違いを問題にして、FIT制度の見直しを考えているが、こんなことをしてみても何の役にも立たない。いま、資源エネルギー庁が実行すべきことは、この国のエネルギー政策の中に不当に入り込んだこの不条理なFIT制度を速やかに廃止して、私の提案する上記 ③ の方策によって、原発電力代替の高価な石油やLNGの輸入金額の増大による貿易赤字の削減を急ぐことでしかない。

<引用文献>

1.
平成22年度環境省委託事業「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成23年3月」㈱エックス都市研究所他3社
2.
日本エネルギー経済研究所編「EDMC / エネルギー・経済統計揺籃2012 年版」、省エネセンター
3.
久保田宏:科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
4.
久保田宏、中村元、松田智;林業の創生と震災からの復興、日本林業調査会、2013年
5.
久保田宏:再生可能エネルギー全量買取(FIT)制度の正しい理解のために、ieei,解説2012/12/03

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