再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の即時廃止を


東京工業大学名誉教授

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非住宅用太陽光発電に偏るFIT制度の恩恵

 表2において、再エネ電力の導入(運転を開始した)設備の発電可能量の60 % もが太陽光(非住宅用)発電で占められていることに注意したい。 FIT制度による太陽光発電の買取価格は、他の再エネ電力に較べて圧倒的に高く、当初の42円/kWh が現在 38円/kWhとされたので、この値を用い、他の再エネ電力(残りの40%)の平均買取価格を30 円/kWh とすると、再エネ電力全体の平均買取価格は35円/kWhとなる。電力会社の現在の平均発電コストを14円/kWh とし、この差額分21 ( = 35-14 ) 円/kWhを、電力会社が電気料金に上乗せして回収すると、現状の再エネ電力の発電量では、電気料金の値上がりは0.084円/kWh { = (21円/kWh)×(4,647百万kWh) / (1,156,888 百万kWh)} にしかならない。しかし、もし、原発電力分をこの種類別比率の再エネ電力で全量賄うとすると、電気料金は5.2円/kWh {=(21円/kWh) ×( 288,230 百万kWh) / ( 1,156,888 百万 kWh )} の値上げになる。
 以上は、住宅用を含めた太陽光発電が全体の86.6 ( = 26,6 + 60,0 ) %をも占める再エネ電力が、原発電力を賄える導入ポテンシャルがあると仮定した場合である。しかし、前記、環境省の再エネ電力導入ポテンシャル調査報告書(文献1)のデータから推算した結果(文献3参照)では、表2中に参考として記したように、日本の国土の地理的な条件から、太陽光発電の導入ポテンシャルは、国内発電量の12.9 ( = 2.7+10.2 ) % しかなく、再エネ電力全体の導入ポテンシャルについても、その国内発電量に占める比率は14.9 ( 12.9 / 0.866 ) % 、原発電力に対する比率は 51.8 % ( = 14.9×0.886 / 0.249 ) にしかならない。この太陽光を主体とする再エネ電力の利用を推進している国のエネルギー政策にとって都合の悪い環境省の調査報告書(文献1 )は、2011 年3月、原発事故の直後に出版されたが、その後、殆ど引用されることがない。
 再エネ電力の質はそれぞれの設備の年間平均利用比率の値で決まると考えてよいが、表2に示したその値に見られるように、電力の需要端で発電する住宅用ではなく、電力会社の送電網への導入が必要とされる非住宅のメガソーラに対して、再エネ電力のなかで最高の買取価格が設定されて、その発電事業者が電気料金の値上げで賄われるFIT制度の恩恵を最大限に受けて急成長しているのは、一般の市民感覚からは納得のいかないことである。ちなみに、表2に示す現状のメガソーラの発電可能量の値でも、生産電力を38円/kWhで販売できるとすると、メガソーラ事業の売上は、年間1,766億円(=(4,647百万kWh)×(38円/kWh))となる。また、もし、このメガソーラで原発電力の半分程度を賄うことができたと仮定すると、この発電事業が約5.5兆円 ( = (38円/kWh) ×( 288,230 百万kWh) / 2 ) の産業に成長するが、この金額の大半は、電気料金の値上げによる国民の経済的負担で賄われることになる。

太陽光以外には効用が認められないFIT制度

 表2 に示したFIT制度施行前と後の各再エネ電力種類別の発電可能量のそれぞれの合計値に対する比率を比較して図3 に示した。この図に見られるように、FIT制度施行前の再エネのなかで70 % 近い高い比率を占めていた中小水力が、施行後には殆ど導入設備となっていない。その一方で、FIT制度施行前には僅か1 % のシェアしか占めていなかった太陽光(非住宅)が、施行後急増している(図1参照)。どうしてこのようなことが起こるのであろうか?太陽光以外の各再エネ電力について、表2 に示したデータをもとに、その利用・普及の問題点とFIT制度の関わりについて検討してみる。

図3 各再エネ電力のFIT制度施行前と後、
それぞれの導入設備の発電可能量の対合計量に対する比率の比較

(表2 のデータをもとに作成)