再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度の即時廃止を


東京工業大学名誉教授

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FIT制度施行から17ヶ月の現状

 資源エネルギー庁が公表した(平成26年2月21日)最新の再生可能エネルギー(再エネ)発電設備の導入状況を表1 に示した。公表データは、平成24年度の7月~3月、および、平成25年度の4月~11月末までの再エネ発電設備の導入量(運転を開始したもの)の設備容量の値で与えられている。表1では、これらのデータを、それぞれ、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)が施行された平成24年7月以降の9ヶ月および17ヶ月後の導入量として示した。また、表1 には、元データに記されているFIT制度施行前(平成24年6月まで)の導入設備容量の値、およびFIT制度施行以降17ヶ月間の設備認定容量の値も示した。
 表1 に示された導入設備容量の値をFIT制度施行後の月次変化として図示して見たのが図1および図2である。太陽光発電と、それ以外とでは、縦軸の設備容量の値が大きく違うので、両者を別々の図とした。FIT制度施行後、第2年度目(平成25年度)に入り、太陽光(非住宅)とバイオマスで、導入量にやや加速傾向が見られるが、他では、太陽光(家庭)がほぼ直線的な伸びを示すだけで、風力は2年度目に入り顕著な停滞を示すほか、中小水力と地熱では絶対量として非常に僅かな値にしかなっていない。
 図1および図 2 に見られるように、FIT制度による再エネ電力の推進は、太陽光主体で進められている、と言うよりも、後述するように太陽光発電事業を支援するために行われていると見てもよい。このデータの公表に際して、資源エネルギー庁も、「引き続き、太陽光発電設備の導入が順調に継続し、」と記している。

表 1 FIT制度施行前後の再エネ発電の導入(運転を開始したもの)設備容量、単位 万kW
(資源エネルギー庁発表データ(平成26年2月21日)をもとに作成)

注 :
 
*1 :
FIT制度施行前(平成24年6月まで)の導入(運転を開始したもの)設備容量の値
*2 :
FIT制度施行後9ヶ月後の導入設備容量、平成24年度(7月~3月)の値
*3:
FIT制度施行後17ヶ月後の導入設備容量、平成24年(7月~3月)と平成25年(4月~11月末)の合計値で示した
*4:
FIT制度施行後17ヶ間の設備認定容量の値
*5:
FIT制度施行後17ヶ月の導入設備容量の同設備認定容量に対する比率

図1 FIT制度施行後の太陽光発電の導入設備容量の月次変化
(表1 の資源エネルギー庁発表のデータをもとに作成)

図2 FIT制度施行後の太陽光発電以外の再エネ電力の導入設備容量の月次変化
(表1 の資源エネルギー庁発表のデータをもとに作成)

導入設備量と設備認定量との大きな違い

 表1 に示した資源エネルギー庁による再エネ発電設備の導入状況の「導入」とは、(運転を開始したもの)とある。問題は、この導入設備容量の値と、同時に発表されている設備認定容量の値の余りにも大きな違いである。FIT制度による高い電力の買取価格(設備の設置事業者にとっては販売価格、認定時の価格が設備の使用期間中保証されることになっている)を確保するために、認定を受けただけで実際の設備稼働を様子見しているケースが多いとは以前から聞いていた。最近、朝日新聞(2014/2/15)が、現状で実際に稼働しているのは設備認定容量の約1/5しかない、資源エネルギー庁は、稼働を遅延させている悪質なケースについては認定取り消しの処分を行うなど、制度の見直しを行うと報じた。
 この信じられないような報道内容について、早速、資源エネルギー庁再エネ推進室の担当者に問い合わせたところ、この事実には資源エネルギー庁も大きな危機感をもっていて、制度見直しの委員会を設置するなど、対策を急いでいるとのことであった。しかし、一体、何を見直そうとしているのであろうか?もともと、FIT制度による再エネ電力の買取価格は、この再エネ電力の生産が収益事業として成立するように決められたはずである。したがって、事業認定を受けた設備は、直ちに運転を開始する方が経営的に有利なはずで、それができないようなケースであれば、認定が受けられない仕組みが初めからできていなければならなかった。
 いま、このFIT制度を先行実施したEUの諸国では、この制度による再エネ電力の生産量が増え過ぎて、買取価格の順次引き下げが行われたが、それでも、これまでの累積的な電気料金の値上げに対する市民の反発が、この制度存続の先行きを不明にしている。

再エネ電力は原発電力を代替できない

 再エネ電力は、もともとは、地球温暖化対策として、また、原発事故後は、原発電力の代替として開発されてきた。したがって、その効用の評価は、表1に示す資源エネルギー庁の公表資料に見られるように設備容量(kW)の値によってではなく、この設備容量(kW)の値に、それぞれの再エネ電力の種類により異なる年間平均設備利用率の値を乗じた、次式で計算される発電可能量(kWh)の値と、国内の消費電力(kWh)との比較で行わなければならない。

 (発電可能量 kWh)=(設備容量kW)×(年間平均設備利用率)
          ×(年間時間 8,760 h/年)           ( 1 )

ここで、再エネ設備の年間平均設備利用率の値は、例えば太陽光では夜間は利用できないため、風力では風が吹かないと使えないなどの各再エネ電力種類ごとの設備利用効率を表す数値である。
 環境省の再エネ電力導入ポテンシャルの調査報告書(文献1)から求めた各種再エネ電力生産設備の全国の年間平均設備利用率の推定値を用いて、平成25年11月末(FIT制度施行後17ヶ月)の時点での発電可能量の値を( 1 ) 式を用いて計算した結果を表2に示した。
 この表2から、先ず、合計発電量の1 年分(17ヶ月後の値を12/17 して求めた)の値 4,647百万kWh は、原発事故以前の2010年度の国内発電量合計 1,156,888 百万kWh(文献2から)の僅か0.40 %(= 4,647 / 1,156,888)にしかならないことが判る。また、同年度の原子力発電量の値 288,230百万kWh(合計発電量の24.9 %、文献2から)を、全量再エネ電力で賄うとして、その設備容量増加が、この表 2の数値で与えられる伸び(4,647/年)に止まるとしたら、62 (= 288,230 / 4,647 ) 年もの歳月が必要になる。また、上記したように、現在、認定を受けた設備が全て稼働したとしても、この再エネ電力での原発代替には、9.4 (=288,230 / 38,780 )年かかる。
 しかしながら、いま、政府の発表やメデイアの報道で、電力については、表1 に示すように設備容量(kW)の値での表示が用いられている。したがって、2010年の原発の設備容量 4,896 万kW(文献2 )を再エネ電力で賄うためには、表1に示される設備認定容量の伸び 3456 (= 2,796,9×12/17 ) 万kWで計算すると2.48 ( = 4,896 / 3456) 年で済むことになり、このFIT制度による再エネ電力で、何とか原発電力を賄うことができるとの大きな錯覚を与えることになってしまう。これは、( 1 ) 式における再エネ電力の設備容量と発電可能量との関係を結びつける年間平均設備利用率の値が10.4 % と小さい太陽光発電が、表2 に示すように、発電可能量全体の86.6 ( 26.6 + 60.0) %もの大きな比率を占めるためである。恣意的に、このような設備容量による表示を行っているとは思いたくないが、実は、この電力の設備容量による表示が、再エネ電力の導入を目的としたエネルギー政策のなかに取り入れられたFIT制度の効用を論じる場合の大きな暗部になっていることを指摘しておきたい。

表2 FIT制度施行前後の再エネ電力の発電可能量(参考;再エネ導入ポテンシャルの値)
(表1の資源エネルギー庁発表のデータおよび文献3の知見をもとに計算、作成)

注:
 
*1 :
環境省の調査報告書(文献1)のデータをもとに各発電設備ごとに全国平均として求めた値(文献3参照)
*2 :
表1のFIT制度施行後 17ヶ月目の導入設備容量の値から本文中 (1) 式を用いて計算した値
*3 :
表1に示したFIT制度施行後17ヶ月目の設備認定容量の値から本文中 ( 1 ) 式を用いて計算した値
*4 :
表1 に示したFIT制度施行前の導入設備容量の値から本文中 ( 1 ) 式 を用いて計算した発電可能量の値
*a1:
環境省の調査報告書(文献 1)の導入ポテンシャルの値から本文中 ( 1 ) 式を用いて計算した各再エネ設備の発電可能量の値(文献3 から)
*a2:
同上の国内合計発電量(2010 年)1,156,888百万kWhに対する比率
*a3:
風力発電(陸上)と風力発電(海上)の合計値
*a4:
国内の人工林が100 % 利用されたと仮定し、製材用材、パルプチップ用材等に使われた残りの廃棄物を全量発電用に利用した場合の発電量の推算値(文献4から)

非住宅用太陽光発電に偏るFIT制度の恩恵

 表2において、再エネ電力の導入(運転を開始した)設備の発電可能量の60 % もが太陽光(非住宅用)発電で占められていることに注意したい。 FIT制度による太陽光発電の買取価格は、他の再エネ電力に較べて圧倒的に高く、当初の42円/kWh が現在 38円/kWhとされたので、この値を用い、他の再エネ電力(残りの40%)の平均買取価格を30 円/kWh とすると、再エネ電力全体の平均買取価格は35円/kWhとなる。電力会社の現在の平均発電コストを14円/kWh とし、この差額分21 ( = 35-14 ) 円/kWhを、電力会社が電気料金に上乗せして回収すると、現状の再エネ電力の発電量では、電気料金の値上がりは0.084円/kWh { = (21円/kWh)×(4,647百万kWh) / (1,156,888 百万kWh)} にしかならない。しかし、もし、原発電力分をこの種類別比率の再エネ電力で全量賄うとすると、電気料金は5.2円/kWh {=(21円/kWh) ×( 288,230 百万kWh) / ( 1,156,888 百万 kWh )} の値上げになる。
 以上は、住宅用を含めた太陽光発電が全体の86.6 ( = 26,6 + 60,0 ) %をも占める再エネ電力が、原発電力を賄える導入ポテンシャルがあると仮定した場合である。しかし、前記、環境省の再エネ電力導入ポテンシャル調査報告書(文献1)のデータから推算した結果(文献3参照)では、表2中に参考として記したように、日本の国土の地理的な条件から、太陽光発電の導入ポテンシャルは、国内発電量の12.9 ( = 2.7+10.2 ) % しかなく、再エネ電力全体の導入ポテンシャルについても、その国内発電量に占める比率は14.9 ( 12.9 / 0.866 ) % 、原発電力に対する比率は 51.8 % ( = 14.9×0.886 / 0.249 ) にしかならない。この太陽光を主体とする再エネ電力の利用を推進している国のエネルギー政策にとって都合の悪い環境省の調査報告書(文献1 )は、2011 年3月、原発事故の直後に出版されたが、その後、殆ど引用されることがない。
 再エネ電力の質はそれぞれの設備の年間平均利用比率の値で決まると考えてよいが、表2に示したその値に見られるように、電力の需要端で発電する住宅用ではなく、電力会社の送電網への導入が必要とされる非住宅のメガソーラに対して、再エネ電力のなかで最高の買取価格が設定されて、その発電事業者が電気料金の値上げで賄われるFIT制度の恩恵を最大限に受けて急成長しているのは、一般の市民感覚からは納得のいかないことである。ちなみに、表2に示す現状のメガソーラの発電可能量の値でも、生産電力を38円/kWhで販売できるとすると、メガソーラ事業の売上は、年間1,766億円(=(4,647百万kWh)×(38円/kWh))となる。また、もし、このメガソーラで原発電力の半分程度を賄うことができたと仮定すると、この発電事業が約5.5兆円 ( = (38円/kWh) ×( 288,230 百万kWh) / 2 ) の産業に成長するが、この金額の大半は、電気料金の値上げによる国民の経済的負担で賄われることになる。

太陽光以外には効用が認められないFIT制度

 表2 に示したFIT制度施行前と後の各再エネ電力種類別の発電可能量のそれぞれの合計値に対する比率を比較して図3 に示した。この図に見られるように、FIT制度施行前の再エネのなかで70 % 近い高い比率を占めていた中小水力が、施行後には殆ど導入設備となっていない。その一方で、FIT制度施行前には僅か1 % のシェアしか占めていなかった太陽光(非住宅)が、施行後急増している(図1参照)。どうしてこのようなことが起こるのであろうか?太陽光以外の各再エネ電力について、表2 に示したデータをもとに、その利用・普及の問題点とFIT制度の関わりについて検討してみる。

図3 各再エネ電力のFIT制度施行前と後、
それぞれの導入設備の発電可能量の対合計量に対する比率の比較

(表2 のデータをもとに作成)

 (中小水力); FIT制度施行前の再エネ電力の多くは商業用電力網には入っていないと考えてよい。それは、FIT制度施行前には、太陽光(住宅)を除いた再エネ電力は、発電原価を切る安い値段でしか電力会社に買い取ってもらえなかったはずだからである。FIT制度施行後、何故、この中小水力が伸びないのか、その理由としては、表2に見られるように、FIT制度施行前、すでに発電可能量で導入ポテンシャルの66.5 % ( = 54,662 / 82,221 ) の設備が設置されていたので、これから事業化のメリットが出るような設備新設の立地が得られる余地が少ないのではないかと推察される。
 (地熱);火山国日本において、一般に有望と喧伝されている地熱が、FIT制度施行後の導入件数が極端に少ないことにも注意する必要がある。地熱発電の場合、その立地が国立公園内にあるなど、厳しい環境アセスメントの規制を受けると言われており、それが、表2 の導入ポテンシャルの小さい値(7.5 %)にも反映されていると考えられる。また、太陽光発電のように、単に、市販の設備を買ってきて据えつければよいのとは違って、かなり高度な技術を必要とするため、FIT制度の利用を新しい収益事業としようとする向きには参入が難かしいのではなかろうか。しかし、日本は、優れた地熱発電技術を持っており、海外にも輸出しているとのことで、設備の年間平均利用率の高い値 (70%)からも、その導入ポテンシャル量の拡大を阻んでいるのが規制の問題であるなら、その緩和も含めて、将来的には、もう少し、発電可能量の増加の方策が検討されてもよいのではないかと考える。
 (風力);太陽光発電に比べて、発電コストも低い上に、導入ポテンシャルは国内電力需要(2010年)の4.83倍(483 %)もあると推定される風力発電が、FIT制度施行後の導入比率で僅か2.4 % に止まっているのは、年間平均設備利用率の高い値が得られる立地が、北海道や東北地方の僻地に限られるため、現状では、送電線がないとの理由で、電力会社に受け入れを認めてもらえないためではないかと考えられる。
 (バイオマス発電);図3に見られるように、バイオマス発電は、FIT制度施行後の導入設備の発電可能量の合計値が10.5 % と太陽光発電に次ぐ比率を示す。これは、国産木材価格の低迷で苦境にある日本の林業が、このFIT制度で決められた発電原料木材の高い買取価格に再生の活路を見出そうとしているためである(文献4参照)。しかし、現状で国内木材需要量の70 % 以上を輸入に依存している日本で、木材の国内需要を国産材で自給できる体制をつくって、その際の廃棄物の全てを発電用に使った場合のいわば推定発電可能量が、
表2に参考として示したように、国内電力需要の0.8 % にしかならない。すなわち、導入ポテンシャルが殆どないことに注意する必要がある。現在、地球温暖化対策として、電力会社の石炭火力発電所では、一定比率のバイオマスの石炭との混焼がRPS法で義務付けられているが、国内でその原料木材を調達できない電力会社は、その大部分を輸入に頼っている。

何の役にも立たない不条理なFIT制度の速やかな廃止を強く訴える

 もともと地球温暖化対策としての再エネ電力の利用・普及の推進を目的としたFIT制度であるが、福島原発事故後、その目的が原発代替の電力を供給するためと変った(文献3)。しかし、上記したように、資源エネルギー庁によるFIT制度施行後17ヶ月後の再エネ電力の導入状況調査の結果から、このFIT制度は、いまこの国の当面している大きな経済問題である原発代替の電力の生産のための化石燃料の輸入金額の増加による貿易赤字の拡大を解決するためには何の役にも立たないことが明らかである。いま、緊急に、原発分の電力を確保したいと思うなら、① 原発を再稼動するか、②それがいやなら、徹底した節電で、その分の電力を賄うか、③さらに、もう一つ、私が原発事故直後から提言してきたように、当面は、原発代替電力分を、安価な石炭火力発電で賄うか、この三つの方策のいずれかを選定する以外にない。
 上記したように、いま、資源エネルギー庁は、このFIT制度の再エネ設備の認定量と実稼働量との大きな違いを問題にして、FIT制度の見直しを考えているが、こんなことをしてみても何の役にも立たない。いま、資源エネルギー庁が実行すべきことは、この国のエネルギー政策の中に不当に入り込んだこの不条理なFIT制度を速やかに廃止して、私の提案する上記 ③ の方策によって、原発電力代替の高価な石油やLNGの輸入金額の増大による貿易赤字の削減を急ぐことでしかない。

<引用文献>

1.
平成22年度環境省委託事業「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成23年3月」㈱エックス都市研究所他3社
2.
日本エネルギー経済研究所編「EDMC / エネルギー・経済統計揺籃2012 年版」、省エネセンター
3.
久保田宏:科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
4.
久保田宏、中村元、松田智;林業の創生と震災からの復興、日本林業調査会、2013年
5.
久保田宏:再生可能エネルギー全量買取(FIT)制度の正しい理解のために、ieei,解説2012/12/03

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