再生可能エネルギー全量固定価格買取(FIT)制度の正しい理解のために


東京工業大学名誉教授

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 経済産業省資源エネルギー庁は、「固定価格買取制度の開始後の状況について(9月末時点)」を発表した。今年(2012年)の4月から9月までに約91.2万kWの設備が運転を開始し、その9割以上が太陽光発電で、さらに今年度後半にかけて大規模なメガソーラが複数運転を開始する予定であるとした上で、9月末時点で認定を受けた新規設備は約178万kWと“順調な滑り出しだ”としている。この発表データには、さらに、2011年度時点における導入量、年度末までの導入予測量のデータも示されている。しかし、これらのデータに、果たして“順調な滑り出しだ”とする根拠が示されているのであろうか? 
 固定価格買取(FIT)制度による自然エネルギーの導入の効用を定量的に評価するためには、資源エネルギー庁の公表データにあるような設備容量(kW)ではなく、発電量の値が示されていなければならない。そのためには、自然エネルギーの種類によって大幅に異なる設備容量と発電量の関係を表す(年間平均設備利用率)の値が、導入の対象になっている各自然エネルギー種類別の生産設備の実用の条件下で把握されていなければならない。
 ここでは、国内でFIT制度の適用の対象になっている自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー)発電設備の種類別の(年間平均設備利用率)の値を推定することで、資源エネルギー庁により公表されている発電設備容量の値を、発電可能量の値に変換した上で、各自然エネルギー導入の社会的効用を定量的に評価した。この評価結果から、その本来の目的が地球温暖化対策としてのCO2 の排出削減であるとして導入されたFIT 制度が、原発電力代替の自然エネルギーの導入のためとその目的が変更された(文献1 参照)が、結果として、その効果が最も少ない太陽光発電、特にメガソーラの事業化の推進を支援することになっていることを指摘した(文献2 参照)。

自然エネルギー発電設備容量の発電可能量への変換

 自然エネルギー発電設備では、自然エネルギー源の種類によって、特に太陽光の場合、他の発電設備に較べて同じ発電設備容量の値でも、発電可能量が数分の一と小さい。各自然エネルギー源別発電設備の設備容量の値の発電可能量への換算を行うためには、(1) 式に示すように、 それぞれの発電設備に固有の(年間平均の設備利用率)の値が用いられなければならない。
 (発電可能量 kWh)
    =(設備容量kW)×(年間平均設備利用率)×(8,760 h/年)  ( 1 )
 ここでの自然エネルギーによる発電設備の(年間平均設備利用率)は、在来の大容量電力の生産に用いられてきた火力、水力、原子力などの発電設備の稼働率と( 1 ) 式による定義としては同じであるが、少し違った意味合いを持つことに注意する必要がある。
 それは在来の発電設備では、例えば、消費側の需要負荷変動への対応力の弱い原子力では、エネルギーの利用効率を上げる必要から定期的な検査のための設備の運転休止期間を除いては、できるだけ高い一定稼働率での運転が求められ、通常、年間平均の設備稼働率として80 % 以上が目標とされている。これに対して、火力発電では、需要端の時間的な負荷変動に対処するとともに、季節的な電力需要の変化、特に夏期の冷房用の電力需要のピークに対応するために、設備容量に余裕をもたせ、年間平均の設備稼働率は50 % 程度の低い値に抑えられている。
 一方、自然エネルギーとしての太陽光や風力による発電の場合には、時間的に変動する発電量のピーク時の発電能力の値で設備容量(kW)が表わされている。したがって、実際の発電可能量は、この設備容量に(年間平均設備利用率)の値を乗じた値となる。夜間には電力を発生せず、また天候にも左右される太陽光発電では、日本での国内の(年間平均設備利用率)の値は、下記するように10 % 程度の低い値をとり、風力発電でも30 % 程度となる。このような太陽光や風力発電の設備では、需要端の要求に応じた電力を安定的に供給するためには、負荷変動に強い火力発電を併用する、あるいは大容量の蓄電システムを用意する、さらには、原子力発電で用いられているような水力発電を揚水発電(余剰電力で水を汲み揚げて貯留する一種の蓄電)として利用する方法をとることが必要になる。このようなバックアップシステムには、当然、お金がかかる。この費用は送電側(現状の電力会社)が負担しなければならないから、本来であれば自然エネルギーによる発電電力の買取価格がその分安くならなければならない。
 いずれにしろ、太陽光や風力発電などの自然エネルギー発電設備が用いられる場合には、このようなバックアップシステムのコストも配慮した上で、各エネルギー源別に異なるそれぞれの(年間平均設備利用率)の値を用いて算出した発電可能量を合計した値が、自然エネルギー電力導入可能量として求められ、それが原発電力あるいは化石燃料代替となり得るかどうかが評価されなければならない。