再生可能エネルギー全量固定価格買取(FIT)制度の正しい理解のために


東京工業大学名誉教授

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日本経済にとって、エネルギーの輸入金額の削減こそが求められるべきである

 FIT制度によるメガソーラの導入は確実に電力料金の値上げにつながるが、実は、それだけではない。より問題なのは、メガソーラが事業利益を上げようとすると、設備価格の安価な中国製などの設備が導入されることになる。その場合の設備の輸入金額を概算してみる。FIT 制度の導入のための発電コストのデータから単位発電設備容量(kW)当たりの-設備建設費32.5万円、設備維持費20万円(年間1万円、20年使用)とあるので、発電コストの中の固定費の割合を 32.5 / ( 32.5 + 20 ) = 0.619 とし、発電コストを電力買取価格の 42 円/kwh に等しいと仮定すると、発電コストの中の固定費の占める値42×0.619 = 26.0 円/kwh が単位発電量当たりの設備輸入金額となる。これに対して、石炭火力発電用の輸入一般炭を用いた場合の発電コスト(燃料費)は、3.14 円/kWh(2010年の一般炭の輸入CIF価格から計算(文献 1 ))と桁違いの値となる。
 何のことはない、FIT制度の下での輸入設備による太陽光発電による電力生産では、石炭火力の10倍以上の輸入金額が必要になる。FIT制度での固定買取価格が決まった時に大喜びをしたのが中国の太陽光発電設備の輸入業者だとメデイアが報じていた。いま、表2から、“順調な滑り出し”を見せたとするFIT制度の初年度のメガソーラの設備容量の年間の認定予測値204.8 ( = 153.6×( 12 / 9 )) 万kW(表2の9ヶ月分の値から)の半分程度を輸入設備と仮定し、その設備価格を32.5 万円/kW-設備とすると、年間輸入金額は約3,300 億円に達する。これに対して、このメガソーラの年間発電可能量1,865 ( = 1,399 ×12 / 9 ) 百万kwh (表2 の9ヶ月分の値から)に現状の火力発電の燃料費5.57 円/kWh を乗じて計算される発電用輸入化石燃料金額は年間 約104 億円となり、設備の半分を輸入品としたときの設備輸入金額の約1 /30で済む。
 いま、貿易収支の赤字に悩む日本経済にとって、エネルギーの輸入金額の削減こそが求められるべきである。

引用文献;
 
1.
久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012
2.
久保田 宏;余りにも理不尽な再生可能エネルギーの固定価格買取制度、この制度の廃止を強く訴える。国際環境経済研究所
3.
日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2012年版」、省エネルギーセンター
4.
平成22 年度環境省委託事業「平成22 年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書、平成23 年3 月」株式会社エックス都市研究所、アジア航測株式会社、パシフィックコンサルタンツ株式会社、伊藤忠テクノソリューション株式会社
5.
久保田 宏、松田智;幻想のバイオマスエネルギー、科学技術の視点から森林バイオマス利用の在り方を探る、日刊工業新聞社、2010

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