容量市場設立に関わる技術的課題


Policy study group for electric power industry reform

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5 地域間連系線送電容量などの系統制約

 今回の電力システム改革における広域機関の設立にともない、従来以上に需給バランスは全国単位で扱うようになるものと考えられる。といっても特定の地域間連系線が隘路になる可能性は高いため、隘路の存在(系統制約)を考慮した信頼度評価と予備率の設定が必要である。
 PJMでの仕組みは以下の通りである。将来時点の信頼度評価を行う際には、需要の拡大に応じて、各エリア毎に比例配分で需要と供給力(計画中の電源も含む)を増加させることになるが、もともとエリア内の電源が少ないエリア(図2)では需要増により連系線送電容量不足による送電制約が発生しうる。

図2.送電制約の生じるケース

 図2のような送電制約の発生が見込まれる場合には、送電容量を増強するというオプションもあるが、増強しない場合(あるいは増強されるまでの期間)は、当該ゾーンへの送電容量上限を考慮して一定以上の供給力は当該ゾーン内に確保することが必要となってくる。このような場合には容量市場もゾーン別で運営することになる(結果として当該ゾーン内の将来の容量価格が上昇して電源立地へのインセンティブとなると考えられる)。
 なお最大需要発生時の電力融通分は、LOLP計算で考慮するような需給変動によって増加する可能性があるため、PJMでは最大需要発生時点での融通量の1.15倍までの送電容量があるかどうかを制約の判断基準としている。

6 長期の電源建設リードタイム

 PJMが運用する容量市場(RPM)は3年先渡市場となっている。PJMの供給エリアでは天然ガスパイプラインが整備されているため3年程度で電源建設が可能であると言われており、市場参加者は容量市場の結果により電源建設を判断していると考えられる。他方、わが国では大規模な電源開発(新規立地)には10年程度のリードタイムを要するため、3年先渡市場で落札してから電源開発を行っても間に合わない。それでは容量市場を10年先渡市場にすれば良いだろうか。
 仮に10年先渡容量市場を運営する際には、10年後の需要想定が必要となるが、その精度にはおのずと限界がある。10年先渡容量市場で落札した電源が計画通りに運転開始しても、その時点では供給力が余剰あるいは不足になっている可能性が高い。このような長期需要想定の不確定性に対しては、電力会社が新規立地地点や増設地点など電源開発の準備を進めながら、需要想定を見直し、それにあわせて計画を前倒ししたり繰り延べるなどの運転開始時期の調整を行って、設備投資が過大(あるいは不足)とならないようなフレキシビリティを確保していた。
 したがって容量市場として長期先渡市場を設ける場合、容量クレジットの買い手(系統運用者の場合と小売事業者の場合がある)が電源の運転開始時期を調整できるオプションを有するような制度設計が必要となるのではないか。例えば容量クレジットの調達開始年を現時点から7年~13年後とするなど一定の幅を設けておき(コールオプションで言えば権利行使期間に相当)、その範囲であれば買い手の都合により調達開始年を変更できるといったスキームを考える必要がありそうだ。

 以上、予備力確保義務や容量市場を理解する上で必要となると思われる主な論点をいくつか紹介した。これ以外にも検討すべき論点はまだ多く残されていると考えられるので、稿を改めて紹介したい。PJMやニューヨークISOでは、予備力確保義務や容量市場の仕組みを市場参加者が理解しなくてはならないため、その研修資料だけでも膨大である。わが国でも全面自由化にあわせて、このようなルールが数多く整備されていくことになるだろうが、十分な理解活動や研修プログラムの整備などが課題となるであろうことも指摘しておきたい。

<参考文献>
Market Analytics: “Capacity in the PJM Market”, 2012年8月
http://www.pjm.com/~/media/documents/reports/20120820-imm-and-pjm-capacity-whitepapers.ashx

PJM: “2010 PJM Reserve Requirement Study”, 2010年9月
http://www.pjm.com/~/media/documents/reports/2010-pjm-reserve-requirement-study.ashx

総合資源エネルギー調査会総合部会電力需給検証小委員会:「電力需給検証小委員会報告書(案)」、
平成25年4月
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/jukyu_kensho/pdf/004_06_00.pdf

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