容量市場設立に関わる技術的課題


Policy study group for electric power industry reform

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3 最大電力注4)に対する小売事業者の寄与分想定

 次に課題となるのは、電力システム内の最大電力に対する特定の小売事業者の寄与分をどのように想定するのかということである。これを何年か前からあらかじめ定めようとすることは、事業者の小売市場におけるシェアを事前に割り当てることに相当しているため、自由化市場では実施困難であることに留意する必要がある。このため、需要家による小売事業者変更の実績を反映した寄与分算定方法が必要となる。
 例えばD年度の最大需要に対する小売事業者の寄与分は以下の通り決めることが考えられる。

使用電力量の計量を行う送配電会社が、すべての需要家についてスマートメーターなどを用いて、(D-1)年度におけるシステム最大需要発生時の需要家の個別需要を算定。スマートメーターによる実績計量がない需要家については以下の対応が考えられる。
スマートメーター未設置(積算メーター設置)の需要家では、月間の使用電力量から、当該時間での需要を推定(プロファイリング)
新設需要家については契約電力・契約種別の同じ需要家の平均値により推定。
D年度のシステム最大需要想定値と(D-1)年度のシステム最大需要実績の比によって①で求めた(D-1)年度の実績(もしくは推定値)を補正し、すべての需要家についてD年度の最大需要への寄与分を確定(例:需要家Aの寄与分は1100kW など)。ここまでの準備はD年度開始前に終えておく。
D年度に入ってから毎月(あるいは日々)の需要家の異動を考慮し、月ごと(もしくは日ごと)に各小売事業者が供給する需要家すべてについて(2)の計算値を加算して、当該事業者の最大需要への寄与分を定める。

 この方法の難点はデマンドレスポンスのプログラムを適用する場合の需要削減効果が翌年度にならないと現れないことだが、その場合は例えば以下のような処理が考えられるだろう注5)

(i)
(D-1)年度最大需要発生時の当該需要家の寄与分(ベースライン)を算定。以下では例えばベースラインを400kWと仮定。
(ii)
D年度の最大需要発生時の当該需要家の寄与分をデマンドレスポンスにより320kW(=400-80)まで削減する見込みである場合、ベースラインからの削減分のkWを小売事業者の供給予備力としてカウント。
(iii)
D年度の実需給上、予備率が一定以下となる際には広域機関の判断によりデマンドレスポンスを発動できることとし、広域機関の指令に基づき小売事業者が当該時間帯の需要家の最大電力を320kW以下に抑制。
(iv)
仮に当該時間帯に需要が320kWを超えた場合は、超過分に対しペナルティを課す。

4 小売事業者毎の確保供給力の評価

 予備力確保義務の履行状態を確認するためには、小売事業者が確保した供給力を適切に評価する仕組みが必要だ。その際に最も留意すべきなのは計画外停止率が非常に高い発電設備や出力の安定しない再生可能エネルギーによって供給を行う小売事業者Bと、計画外停止率の低い発電設備で供給する小売事業者Cが確保している発電設備容量合計の名目上の数字が仮に同じであったとしても、供給信頼度への寄与(すなわち供給力としての価値)は全く異なっていることである。
 また電力市場の自由化後、カリフォルニア州やニューヨーク州では意図的に電源を計画外停止させて需給がタイトな状況を作り出すことで、卸市場価格を高騰させて利益を拡大するという発電事業者の行為が問題視された注6)。こういった行為を防止する観点からも、計画外停止率の高い電源は供給力としての評価を低くするなどの工夫が要る。以下はPJMやルール改正後のニューヨークISOなどで用いられている手法の例である。

電源ユニット毎の計画外停止率rを把握する注7)
PJMなどでは電源ユニットの稼働データベースで全電源の計画外停止率を管理。
新規ユニットについては、同種・同容量のユニットの平均値を用いる。
ユニットの設備容量と(1-r)を掛け合わせたものを実質容量(Unforced Capacity)と定義。小売事業者が確保したすべての電源について実質容量を加算して、小売事業者が確保した実質供給力UCAPとする。
また(1)式で定められる当該小売事業者の設備容量確保義務量(ICAP)を以下のように補正して、各小売事業者のUCAP義務量を定める。ただしEFORdはシステム全体での平均等価計画外停止率である。
        UCAP義務量=ICAP義務量×(1-EFORd)
各小売事業者の実質供給力が上記の割当量を上回るかどうかによって、予備力確保義務が履行されていることが確認される。また各小売事業者が上記のUCAP義務を満たせば、システム全体での適正予備率が確保されていることになる。

 この方法を採用することで、計画外停止率の高いユニットほど、その供給力としての価値が割り引かれることになるため、PJMやニューヨークISOでは発電事業者が計画外停止率を低く維持するインセンティブになっているとしている。一方、図1で2005年以降の適正予備率の水準がほぼ一定となっていることからわかる通り、2005年以降にはPJM内の電源の計画外停止率はほぼ6%程度の水準に落ち着いている。これは日本における火力発電の計画外停止率実績2.3%に比べて未だ高い水準であるため、技術的な下限に達してきたというよりも、メンテナンス費用や供給力価値低下などを総合した発電事業者の経済性の観点から、一定の水準に収斂してきたものと推定される。
 なお、再生可能エネルギーの供給力の価値としての評価については、政府の需給検証小委員会で議論されている。例えば太陽光発電については、過去20年の日射量測定実績(アメダスデータ)から、各月3日の最大需要日における太陽光発電出力を推定し(60サンプル)、太陽光発電出力の下位10日分の平均をとる方法が提案されている。再生可能エネルギーの供給力としての価値の評価は、政府が行っているこれらの議論をベースに設定されることになると考えられる。

注4)
本稿では設備計画上の基準としては、年間の最大需要ではなく最大3日平均値を用いる。
注5)
ペナルティによる契約不履行へのディスインセンティブだけで、デマンドレスポンスが確実に行われない可能性がある。より確実度を高めるためには、スマートメーターの電流制限機能を利用して需要抑制を行うことも考えられる。
注6)
米国ではこの市場操作をPhysical Withholdingと呼ぶ。
注7)
実際にはユニットの稼働・停止だけでなく、トラブルによる出力低下運転なども考慮した等価計画外停止率EFORd(Equivalent Forced Outage Rate Demand)を用いる。