容量市場設立に関わる技術的課題


Policy study group for electric power industry reform

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2 適正な予備率の設定方法

 予備率を大きく設定すれば供給信頼度は向上するが、稼働率の低い設備が増えて供給コストが増加する。それではどの程度の予備率が社会的に「適正」と考えられるだろうか。
 発電設備容量C[MW]の電源がn台接続された電力システムを想定する。全電源が稼働していればシステム内の供給力はnC[MW]であるが、発電設備はメンテナンス時以外にもトラブルにより停止することがある(これを計画外停止(forced outage)という)。すべての電源の計画外停止率がrであるとし、それらに相関がないと仮定すると、供給力がkC[MW](すなわちn台のうちk台が稼働、残りのn-k台が停止している状態)となる確率は、二項分布により

と表されることになるから、システム内の需要レベルLが発電機k台でちょうどまかなえるレベル(L=kC)である場合に、供給力が需要を下回って不足が生じる確率は、

と計算できる。電力システム工学ではこの確率をLOLP(Loss of Load Probability)と呼んでいる。
 実務上のLOLPの計算はこのように単純ではなく、電源毎のユニット容量・計画外停止率、地域間連系線の制約、出水による水力発電所の出力変動、外気温変化によるガスタービン出力の低下、需要レベルの時間変化、さらに確率的な需要変動など様々の需給変動要因をモデリングしたモンテカルロ・シミュレーションの実施を必要とする。
 LOLPを減らそうと思えば、需要レベルに対する発電設備量の余力、すなわち予備率(上記のモデルでは(n-k)/nに相当)を増やしていけば良いわけだが、多くの国ではLOLPが10年に1日程度の頻度に相当するレベルになるように予備率を設定することが普通であり、これを適正予備率と呼んでいる。
 わが国では需要の大きい1ヶ月間のLOLPが0.3日以下となるように適正予備率を設定してきたが、供給責任を負う一般電気事業者が自主的に設定してきた数値であるため、すべての小売事業者に予備力確保義務を設定する上では、必要なレベルについて社会的な合意形成が必要だろう。理論的には、予備率を小さくすることでの社会的損失(停電コスト)と、予備率を増やす場合に必要となる限界コストが均衡するように適正予備率を決められれば社会厚生を最大化できると考えられるが、停電コストの計量が容易ではないという課題がある。
 LOLPにより電力市場の適正予備率を設定しようとする場合、計算に必要となるすべてのデータ(電源毎の計画外停止状況など)は義務量の設定を行う組織(全国的な予備力管理を担うのが広域機関であるため広域機関が行うのが自然だろう)において管理される必要があることに注意を要する。
 また、新規電源の参入や退出(廃止)によりLOLPは年々少しずつ変わっていくので、PJMなど米国のISOでは毎年LOLPを計算しなおして、適正予備率の値を更新している(図1)。図1のようにPJMで適正予備率の値が自由化開始当初に顕著に減少しているのは、電源の計画外停止率が低下したためである(2000年時点の9.8%から現在では6%程度に低下)。容量メカニズムの制度設計が悪いと、後述するように意図的に電源を停止して市場価格をつり上げる行為が行われ畏れがあるが、PJMの制度設計では後述するとおり計画外停止率を考慮した供給力評価を行うことで容量メカニズムの欠陥によるゲーミングを回避しているものと見られる。

図1 PJMにおける適正予備率の推移