「カーボンフットプリント制度」と「エコリーフ制度」


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 地球温暖化政策として、国の認証・ラベリング制度の利用も一役買っています。今回は、製品・サービスに“排出量の見える化(表示)”をする「カーボンフットプリント制度」と“環境影響負荷の見える化“をする「エコリーフ制度」について解説したいと思います。

カーボンフットプリント(CFP)制度

 カーボンフットプリント(CFP)とは、Carbon Footprint of Productsの略称で、直訳すると“炭素の足跡”という意味です。製品のライフサイクル全体(資源の採取から生産、使用、廃棄、リサイクルに至るまで)を通して排出される温室効果ガス排出量をCO2に換算して表したもので、製品やサービスに「見える化」(表示)する仕組みのことです。カーボンフットプリントの対象となる温室効果ガスは、京都議定書の対象となっているCO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6 の 6 種類です。

 製品へのカーボンフットプリントの表示は国に義務付けられているものではありません。企業などが自社の活動や自社製品・サービスの温室効果ガス排出量を見える化して把握し、さらに削減を訴求していくための有効な手段とされます。企業が自らの社会的責任(CSR)の一貫として、積極的に温室効果ガス排出削減に取り組む姿勢を示すため、本制度を利用する場合もあります。

図1

(図1)出典:CFPプログラム

 2009年度から3年間、経済産業省や環境省など4省庁による「カーボンフットプリント制度試行事業」を経て、2012年4月「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム(CFPプログラム)」が設立され、一般社団法人・産業環境管理協会が運営を行っています。

 本制度を利用する事業者にとってのメリットは、製品のライフサイクル全体のプロセスでのCO2数値を表示することにより、高いレベルの「サプライチェーン管理」を行っていることを、対外的にアピールすることができることです。サプライチェーンとは、製造した商品が、消費者に届くまでの一連のプロセスのことを言います。各企業で製造される製品は、例えば「製品の開発」「製造部品の調達」「製品の製造」「配送」「販売」といった流れを経て、消費者に届けられます。この一連のプロセスでは、温室効果ガスが排出されています。排出量の削減を効果的に進めるためには、それぞれのプロセスの削減対策に取り組む必要があるという考え方に基づいています。

 サプライチェーンの見える化をすると、温室効果ガスの排出が大きいプロセスがどこかを把握することができます。例えば、図2の缶飲料メーカーの例では、流通の輸配送や冷蔵輸送にCO2の排出割合が高いことが把握できます。このプロセスに関わる事業者間でもっとCO2排出削減への行動を促す必要があると見ることができます。一定のルールに基づいて算出したCO2数値(物差し)のことを「CFP算定値」と言いますが、この缶飲料製品の場合はライフサイクル全体を通して排出される CO2 算定値は1㎏あたり120gです。算定値は、カーボンフットプリントのマークの中に入れて表示されますが、数値を入れるか否かは事業者の選択によって決めることができます。

図2

(図2)カーボンフットプリントのイメージ(例:缶飲料)出典:環境省

 現状の課題としては、排出量の見える化ラベル(情報)を見て、消費者が積極的にエコな製品を選んで購入するかどうか、把握しにくい面があることです。カーボンフットプリントの表示を見て、消費者の行動が、より低炭素な消費生活への変革にもつながることが本制度の目指すところです。また、排出量の見える化ラベルを、行政側が温室効果ガス排出削減の取り組みとしてどう発展させていくのかも今後の課題と言えます。

【参考:CO2排出量の計算式】
 CO2排出量は、一般に下の式に従って、製品システム内のプロセスごとに算定され、合算されています。「活動量」とは、CO2 排出量と相関のある排出活動の量を表す指標で、活動により異なりますが、素材使用量、電力消費量、 埋立量等がこれに当たります。「原単位」とは、活動量あたりの CO2 排出量を表す指標で活動により異なります。(図3)

図3(図3)出典:産業環境管理協会[拡大画像表示]

カーボンフットプリントの累計登録数は1200件超

 カーボンフットプリント(CFP)宣言(表示)認定製品の累計数は、試行制度が始まった2009年度の94件から2012年度までの3年間で663件と伸び、その後も順調な伸びを見せ、2015年度は1198件。2016年6月17日現在、CFP宣言認定製品の累計数は1238件になりました。この他、「CFP-PCR認定数注1)」は、107件(使用可能件数69件)、CFP登録公開企業の累計数は196社となっています。(図4)

図4(図4)出典:一般社団法人産業環境管理協会[拡大画像表示]

注1)
CFP-PCR認定数:製品ごとのカーボンフットプリント算定前に、事業者は「カーボンフットプリント製品種別基準(CFP-PCR:Carbon footprint of a Product- Product Category Rule)」を策定する必要があります。
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エコリーフ制度

 一方、もう一つの国の認定・ラベリング制度である「エコリーフ制度」は、カーボンフットプリントと同じくライフサイクルアセスメント(LCA:製品やサービスに対する環境影響評価の手法)により、製品のライフサイクル全体(資源採取から製造、物流、使用、廃棄・リサイクルまで)にわたる定量的な環境情報を、インターネットなどを通じて公開している環境ラベルです。(図5)

図5

(図5)エコリーフマーク 出典:産業環境管理協会

 日本生まれの環境ラベルで、もともと米国での公共調達の基準として国際標準化機構(ISO)に対応した環境ラベルの必要に迫られ、つくったと言われています。エコリーフ環境ラベルは、ISOで規定する「タイプIII環境ラベル」に属します。(図6)カーボンフットプリントは、地球温暖化対策に主眼を置き、温室効果ガスの排出量をわかりやすく表示する環境ラベルですが、エコリーフは温室効果ガスの排出量だけではなく、多くの環境負荷指標を用いて、製品の環境負荷を多面的に評価できるようになっています。評価はある基準をつくって合否判定するのではなく、客観的な環境情報やデータをインターネットなどで公開することに止めています。評価は製品の購買者や消費者の判断に任されています。

図6

(図6)ISOタイプⅠ、Ⅱ、Ⅲの特徴 出典:産業環境管理協会

 エコリーフは、事業者(メーカー)がグリーン購入・調達に活用し、環境負荷のより少ない製品を開発・製造・販売していくための動機付けとなることが狙いです。2002年に制度が開始され、カーボンフットプリント制度と同じく一般社団法人・産業環境管理協会が運営しています。(※カーボンフットプリントは、エコリーフでの経験を踏まえ、制度設計が行われました)

 登録・公開が可能になったエコリーフ環境ラベルは、製品登録番号が付与され、産業環境管理協会のホームページで公開されます。エコリーフのURLと製品登録番号から、誰でもエコリーフ環境ラベルのすべての情報を入手することができます。各製品のエコリーフの環境情報は、①製品環境情報、②製品環境情報開示シート、③製品データシートという3種類の様式で提供されています。(図7)

図7(図7)出典:産業環境管理協会[拡大画像表示]

 2002 年4 月より制度を開始して以降、順調に登録数は増えており、2016年6月17日時点で登録・公開したラベルの累計は 1743件を超えています。そのうち425件が海外輸出製品となっています。エコリーフ作成の基準となる、製品分類ごとに取り決められる製品分類別基準(PCR:Product Category Rule)は、82件が制定・公開されており、複写機や複合機をはじめ、パソコンやそのディスプレイ、食品用金属缶、自動販売機、紙製飲料容器、タイルカーペット等、製品は多岐に渡っています。(図8)

 ISOに対応したエコリーフ環境ラベルは、積極的に自社の環境経営をアピールでき、企業イメージの向上に貢献する期待があります。また、地方公共団体の物品購入指針に採用され始めたことから、エコリーフの登録・公開が販売力の強化につながってきています。ただ、エコリーフ環境ラベル自体についてまだ知らない消費者や事業者も多いことから、認知度を高めることが当面の課題とも言えそうです。

図8(図8) 出典:一般社団法人産業環境管理協会[拡大画像表示]

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