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新型コロナで低迷、再エネ支援策は 米大統領は敵意むき出し


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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(「サンケイビジネスアイ」からの転載:2020年5月13日付)

 新型コロナウイルスが中国で蔓延した際、世界の再生可能エネルギー業界が懸念したのは、中国における太陽光モジュール生産が停止され、太陽光発電の設備導入が遅れることだった。

 その後、風力発電設備製造の大きなシェアを持つシーメンスガメサのスペイン工場で感染者が見つかり工場が閉鎖された。また、洋上風力設備を三菱重工業と合弁で製造している世界最大手、デンマーク・べスタスは解雇を行い、2020年の業績見通しを白紙にした。新型コロナの影響は、太陽光だけでなく風力発電設備の製造にも拡大した。

 中国での設備製造は徐々に再開されつつあるものの、感染が広がった欧米諸国では家にとどまることを要求され、必要不可欠の仕事に従事している人以外の外出が制限されることになった。必要不可欠な事業の定義は、国・地域により多少の違いがあるものの、医療、食品、金融、電気・ガスなどは、どの地域でも必要不可欠とされている。太陽光・風力発電事業者は働けるが、家庭用太陽光発電設備の営業、発電設備設置工事などは、多くの地域で行うことが認められなかった。

停滞する設備導入

 再エネ事業のコンサルタントからは、今年の再エネ導入量は新型コロナ感染前の予想より大きく落ち込むとの悲観的な予想が出され、米国市場で上場されている太陽光発電関連企業の株式は軒並み市場平均を上回る幅で下落した。多くの製造業が操業を中止し、在宅勤務となったことから、欧米諸国では商業、製造業を中心にエネルギー・電力需要も大きく落ち込んだ。さらに、需要の落ち込みにより原油価格が大きく下落したことから、再エネの相対的なコスト競争力が失われ、将来の再エネ導入が落ち込むとの声も出てきている。

 だが、原油価格の下落は再エネ導入を促す方向に働く可能性も高い。投資理論上の投資のリスクとリターンを考えれば、個別企業の投資はリスクが高まった原油から再エネに向かう可能性が高いからだ。

 一方、経済政策を考えれば、大きな国内総生産(GDP)の落ち込みに直面し、コロナ対策支援に巨額の財政出動を必要とする先進国政府は、今までのような再エネ支援を行うことができるのだろうか。

 米国政府は、再エネ業界からの要望にもかかわらず、コロナ対策予算の中に再エネ支援を盛り込まなかった。企業の意思決定を政策はどう支援できるのだろうか。

 太陽光モジュールの生産企業は中国に集中して立地している。19年の太陽光モジュール生産企業世界ランキングを見ると、6位ハンワ-Qセルズ(00年代モジュール生産量世界1位をシャープと争っていた独Qセルズを破綻後に買収した韓国企業)とマレーシアなどに生産拠点を持つ8位米ファーストソーラを除き、全て中国企業だ。今年の太陽光パネル供給量は、減少する可能性が高いだろう。

 加えて、欧米の多くの国ではソーラーパネル設置工事が行えなくなっている。このため今年の世界の太陽光パネル導入量は、当初見込みの1.3億~1.4億キロワットから1億キロワット強にとどまると下方修正され始めた。

 欧米諸国では終息に時間が掛かると見込まれることから、この予測もさらに下方修正される可能性が高い。

 風力発電も同様だ。ドイツで昨年、洋上風力設備導入量が初めて陸上設備導入量を上回った。今年は洋上風力が各国で増加すると見込まれていたが、その予測も修正されるだろう。

 米エネルギー省は、今年の米国の風力導入量を1940万キロワットと当初予測から5%、大規模太陽光発電設備を1260万キロワットへ10%引き下げている。ただ、再エネに力を入れ始めた国際石油資本の動きが止まることはないだろう。

 原油価格の下落により再エネが相対的競争力を失う側面はあるが、投資理論からすれば原油投資リスクが高まったため、再エネが相対的に有利な投資になる可能性が高い。

 問題は再エネへの各国の政策支援だ。米国政府は新型コロナ対策として3月末に2.2兆ドル(約240兆円)の景気対策を打ち出し、その後も追加対策を進めているが、この経済対策には再エネ支援策が織り込まれていない。

欧州意欲も不透明

 再エネ業界は、現在の太陽光と風力発電に対する税額控除の延長(太陽光は今年26%、21年に22%、22年に大規模設備のみ10%、23年にゼロ、風力60%は今年で終わり)を対策に織り込むように要請していたが、トランプ大統領は3月24日のツイッターで「この予算は、ばかげたグリーンディールのためではない、米国の偉大な労働者と企業を再度仕事に戻すためのものだ」とつぶやき、民主党左派が打ち出しているグリーンディールに敵意をむき出しにした。再エネ業界が、トランプ政権の下で支援を受けられる可能性はなさそうだ。

 トランプ大統領にけなされるグリーンディールの欧州版により経済再生を目指すのが、欧州委員会だ。しかし、この道のりは平坦ではなさそうだ。温暖化・環境問題対策への支持が強かったドイツでも英国でも新型コロナの蔓延により、国民の関心は急速に経済に移っている。両国の世論調査の結果はの通り。ドイツでは昨年7月の調査で37%、第1位だった気候変動問題は今年3月調査では9%に、英国では昨年7月28%だった環境問題は21%になっている。代わりに登場したのは新型コロナ・健康問題と経済問題だ。

 欧州連合(EU)加盟国からも、グリーンディールよりコロナ対策を優先すべきだとの声が出ている。欧州委員会は二酸化炭素(CO2)削減策の一つとして航空機から鉄道に利用者を移すことを狙っており、欧州主要国では航空運賃への新規課税が検討されている。新型コロナにより大きな被害を受けたのは、交通、宿泊、外食に代表される観光業だった。乗客の急減に直面した航空業界では3月、英国フライビーが破綻した。5月末までにさらに航空会社が破綻すると見られている。米政府は大手10航空会社を支援するため250億ドル(約2.7兆円)の支援を決めた。

 インフラなどへの投資を行う欧州グリーンディールの一部は先送りされる見込みだが、グリーンディールを実施しても、例えば新型コロナに苦しむ航空業界を助けることにはならない。航空業界への支援はグリーンディールが対象とする気候変動対策とは矛盾するが、当然、支援は必要だ。そのためEU内では原油価格を課税により高止まりさせ、その資金を対策に利用する、と同時に相対的に競争力が付く再エネ事業も資金を集められるとの意見も出てきた。まだ政策には紆余曲折がありそうだ。

 個別企業が投資理論上、再エネ投資へのシフトを図っても、再エネへの政策支援は当面不透明なまま推移する可能性もあり、再エネが再度の成長路線に戻るには時間がかかるかもしれない。



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