中国によるレアアース輸出規制の驕慢を断じる!
~一層の危機管理と同志国との強靭なマインドセットの共有を!~
針山 日出夫
エネルギー問題に発言する会
(エネルギー問題に発言する会 提言/公開発言 2026/9/9)
レアアース(*)は産業のビタミンと言われるが、今や医療・防衛・通信・電気自動車などのハイテク製品の一層の高性能化の必須品で経済安全保障・エネルギー安全保障上の基盤的鉱物である。一方、中国による日・米・EUに対するレアアース輸出規制は安全保障の観点から看過できない状況であり、今年1月から6月までの日本の中国からのレアアース輸入量は、24年同期と比較して2割程度に激減している。中国の傲慢な驕りは容認できないレベルである。
中国が握る「鉱物覇権」を日・米・EUが奪還しようと血道をあげているが容易でないチャレンジである。輸出規制に対する即効性ある有効策は現在無い。時間は掛かるが徹底的な危機管理と同志国との緊密な連携による代替確保先等の実現を全速で進めるしかない。まさに、国の覚悟と決意が問われている。本小論では事実関係を整理しつつ今後の注力ポイント等について検討する。
- (*)
- レアアースとは、周期表のスカンジウム、イットリウム、ランタノイド系の15元素を合わせた17元素の総称で希土類と称するが、ここでは「レアアース」と呼称する。
1.中国のレアアース戦略と輸出規制の主要経緯
レアアースの戦略性を見抜いたのは鄧小平で、1992年の南巡講話で「中東に石油あり。中国にレアアースあり」と精錬から精製、製品化までの産業化に道筋をつけた。やがて圧倒的な低コスト・物量で世界市場を制覇した。2010年以降は外交的カードとして、或いは威圧のツールとして常態化している。中国のレアアース事業統制は、4大集団の再編が進み、2024年初頭には実質的に「北方稀土」と「中国稀土」の2大体制へ収斂している。(付図①参照)(出所:「金属鉱物資源をめぐる状況」JOGMEC、2024年)
中国による本格的なレアアースの輸出規制は2010年9月に尖閣諸島沖で起きた漁船衝突事件を契機として、日本向け輸出が事実上停止された。以下に主な動きを要約する。
<2010年ごろの輸出規制の動き>
■輸出枠の大幅削減:
2010年7月、レアアース輸出割当を前年比で約4割削減すると発表。
■事実上の対日輸出停止:
2010年9月に発生した尖閣諸島沖での漁船衝突事件の後、税関手続きの厳格化などを理由に日本向けの輸出が事実上ストップ。
■価格の高騰:
供給不足への懸念からレアアースの国際価格が数倍に急騰。
■WTO提訴:
日本・米国・EUは、中国の輸出制限(割当や関税など)が世界貿易機関(WTO)のルールに違反するとして提訴し、2014年に日本側の勝訴(対中是正勧告)が確定。
<最近の輸出規制の動き>
■2023年8月:
ガリウムとゲルマニウムを皮切りに、重要鉱物に対する輸出管理を強化。
■2025年4月:
重レアアース7種に対する輸出管理措置を実施。
■2025年10月:
中国産レアアースを含む製品の再輸出規制やレアアース及び電池の生産設備・材料・技術の輸出規制等の輸出管理措置を発表。(米中協議で1年間の停止措置発動)
■2026年1月:
日本向けデュアルユース品目の輸出管理の強化に関する公告を発表。
■2026年7月:
中国商務省は7月24日、中国の「輸出管理法」および「輸出管理条例」などに基づき、EU加盟国の14の企業・団体を輸出管理対象リストに加えることを決定と発表。
2.中国に狙い撃ちされる日本の重要分野
中国は2023年にガリウム・ゲルマニウムを皮切りに黒鉛・アンチモンへと規制品目を広げ、更にサマリウム・ガドリニウム・テルビウム・ジスプロシウム・ルテチウム・スカンジウム・イットリウムなどレアアース7種について輸出許可を取得するよう求めた。今年1月に軍民両用(デュアルユース)条例を根拠に対日輸出を事実上の輸出禁止とした。中国が輸出を規制するレアアース7種の対日輸出が3月に前年同月比88%、4月に82%それぞれ減少したと報じた。全般的なレアアース輸出規制の中でも特に日本の重要分野への狙いが集中したといえる。参考までに影響度大のレアアースについて以下に特記する。(出所:日経2026年8月9日付け)
■ジスプロシウム、テルビウム
輸出が急減したのはジスプロシウムとテルビウム。今年1月以降の対日輸出は0と集計。ジスプロシウム・テルビウムはEV駆動モーターや風力発電機の他、高温環境で作動するミサイル誘導装置や戦闘機部品などに使われるネオジム磁石を作る核心原料。ネオジム磁石は磁力が強いが温度が上がると磁力を失いやすく、モーターやミサイルのように高温環境で作動する機器に使うには耐熱性を高めるジスプロシウム・テルビウムを少量添加する必要がある。
■イットリウム
レーザー医療機器や半導体製造装置、航空・宇宙分野に使われるイットリウムの1〜4月の対日輸出は前年同期比90%超減少した。
3.中国のレアアース輸出規制に係わる国際機関(WTO,IEA,IMF)他の見解と警告
■WTOの見解(出所:ロイター通信2014年8月8日付より抜粋)
WTOは、中国によるレアアースなどの輸出規制について「WTO協定違反」であるとの判断を下している。日米欧が提訴した紛争において、2014年にWTOの上級委員会(最終審)が中国側の敗訴を確定させた。
<WTOの主な判断内容>
―正当性の否定:中国は「環境保護や資源の枯渇防止」と主張したが、WTOは認めず。
―原則違反:輸出税の賦課や輸出数量の制限が、WTOルールに抵触するとされた。
―市場歪曲の指摘:輸出制限が市場における価格や供給に悪影響を与えていると指摘。
■IEAの見解と警告(出所:東京新聞2026年7月16日付より抜粋)
国際エネルギー機関(IEA)は重要鉱物に関する報告書で、重要鉱物が「各国の安全保障で最優先の課題になっている」と指摘し、中国など特定国に偏っている供給源を多角化する必要性を訴えた。報告書は、世界的な輸出規制の拡大で、重要鉱物の供給源集中への懸念は「経済安保上の緊急の課題に変化した」と指摘した。ビロル事務局長は 「われわれの最新の分析によると、膨大な経済的価値が比較的少量の重要鉱物に依存しており、サプライチェーンは依然として高度に集中しているため、脆弱な状態にある」と述べた。
■IMFの見解(出所:日経2026年7月29日付より抜粋)
IMFは供給量が80%減りすぐに代替できないという条件で、日本、米国、ドイツ、英国、フランス、インドへの経済的影響を試算した。各国の自動車産業は減産を余儀なくされ減少率は米国が9.0%と最大で、8%台半の日本が続く。GDPの下押し幅をみると、日本が2.3%減と最も厳しい。部品メーカーを含め自動車産業の存在感が大きいためだ。自動車産業が強いドイツは.1%減となった。米印が1.5%前後、英仏が1%台前半の落ち込みとなった。
■G20財務相・中央銀行総裁会議(出所:時事通信2026年9月2日付け抜粋)
アメリカで2026年9月1日に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議は、中国の反対により今回も共同声明の採択を見送る結果に。しかし、中国を除く各国は、貿易のゆがみ(過剰生産・輸出偏重・重要鉱物輸出規制)の是正に向けた対応で一致し、中国側の反論は国際的に支持を得られない結果となり中国の孤立が浮き彫りとなった。
4.我が国の対応戦略と同志国との連携の取り組み
我が国のレアアース安定確保戦略は以下の3方針に集約される。(出所:「マテリアル分野の課題と方向性」2026年2月19日経産省より抜粋)
【国の方針①:自立性の確保】
レアアースをはじめとする重要鉱物や永久磁石等の高品質な金属部素材等は、自動車や半導体等の我が国の産業活動に必要不可欠であるが、そのサプライチェーンの多くを特定国に依存しており、輸出管理措置等により供給が不安定化。リスクの大きさや生産コストの差などの課題に対処し、代替供給源を確保し、サプライチェーンの強靱化に取り組む必要。
【国の方針①:不可欠性の確保】
部素材産業においては、国際的な社会課題解決に資する、付加価値の高い高機能部素材(データセンター・半導体、航空宇宙、エネルギー、医療介護、防災減災等)やグリーン素材への重点化が必要。高機能部素材の技術力の持続的な向上に向け、基礎部素材の生産能力の適正化等を通じた収益性確保も必要。
【国の方針①:レアアースの供給網の強化】
■脱中国依存:採掘だけでなく付加価値の高い「分離・精錬」工程を非中国圏で確立。
■リサイクル推進:使用済み磁石などを活用し、域内での循環エコシステムを構築。
■公的資金の活用:JOGMEC等の機関を通じた民間企業への出資や債務保証、共同調達長期契約。
<同志国との主な連携(2国間・多国間)の取り組み>
日本は、レアアースの安定確保と中国への依存度低減に向けた枠組の構築に向けて精力的な資源外交を展開している。以下、時系列で取組み概要を要約する。
■G7:
2025年6月のG7サミットにて、基準に基づく重要鉱物市場の形成、プロジェクト及び現地での価値創造への投資の奨励、並びにイノベーションの促進に重点を置いた「重要鉱物行動計画」を策定。その後、本計画に基づき作成された「重要鉱物における基準に基づく市場の促進に向けたロードマップ」も踏まえ、案件形成等の協力を進めていく。
■日・米・EU他「資源の戦略地政学的関与に関するフォーラム」:
2026年2月にワシントンで開催された「重要鉱物閣僚会合」にて立ち上がった米国主導の新たな国際イニシアティブ。日本他50カ国以上が参加し供給網の多角化・「貿易圏」構想を推進。国境調整型のプライスフロア(*)や基準市場、価格差補助金などを含む重要鉱物の多国間貿易イニシアティブの検討を進める戦略的パートナーシップ構築に関するステートメントを発出。
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- 国境調整型のプライスフロア:特定産品の取引価格に最低保証価格(プライスフロア)を設定し、それより安い価格での輸入に対して国境で差額を課税などして調整する貿易政策。
■日米連携枠組み:
「重要鉱物サプライチェーン強靱性のための日米アクションプラン」は、2026年3月19日の日米首脳会談に合わせて日米両政府が取りまとめた文書で、非市場的政策によるサプライチェーンの脆弱性を是正し、採掘から加工・リサイクルに至る重要鉱物の安定供給と経済安全保障の強化を目的としている。
■日仏連携:
2026年4月1日レアアースなど重要鉱物に関し、日仏が共同で進める重レアアースの精錬事業で、レアアースの調達先を多角化することで合意。フランス南西部でのレアアースリサイクル工場(カレマグプロジェクト)に対し、日本(JOGMEC、民間)やフランス政府が巨額の資金・技術協力を実施する。
■日本・ベトナム原油・鉱物資源に係わる合意:
高市首相は2026年4月2日、ハノイでベトナムのレ・ミン・フン首相とおよそ50分間、会談。中東情勢を踏まえ、原油やレアアースなどの重要鉱物の確保に向けた協力で合意。
■豪州・その他の資源国、中南米(ブラジル、チリ)との協力:
豪州の有力企業や北欧・アフリカなどにおける新規鉱山開発・権利確保、マレーシア等との精錬プロセスの多角化を目論む。豪とは2026年5月2日の日豪首脳会談で合意。
2026年5月にブラジル、8月にチリの外相とそれぞれ外相戦略対話・会談を行い、重要鉱物のサプライチェーン多角化・強靱化に向けた提携を確認。
5.纏め
中国の「鉱物覇権」、「資源武器化」カードは機能しており、その牙城を覆すのは容易でない。米・欧・豪・アジア・アフリカ諸国との同志国連携が結実するまでには時間を要す。同志国との互恵関係を維持しつつ強靭なマインドセットを共有して中国の輸出規制に屈しないことが肝要である。以下に今後の打ち手について意見を述べる。
■同志国との個別連携並びに関係国との広域的一体連携枠組の構築
各国との個別連携は重要であるが、米・豪・EU・アジア・アフリカ諸国と一体となったサプライチェーン強靱化のための広域連携の枠組構築が一層重要である。日本は危機管理レベルを上げ同志国と一体になり求心力を高めて対中戦略を完遂すべし。
■日中関係改善努力
「戦略的互恵」は日中関係の基軸であり、日本からこれを反故にすることはない筈。対中レアアース対抗戦略は進めるとして、一方では水面下を含めてあらゆる機会を捉えて日中の関係改善努力の為の手練手管を弄すことが肝要。土下座外交だけは禁じ手である。
■レアアースの更なる権益確保と備蓄・リサイクル
政府は民間企業或いはJOGMEC等の公的組織に対してレアアースの権益確保を強力に支援しつつ、官民の役割分担を決めて危機管理の一貫としてレアアースの備蓄を進めよ。政府は備蓄量の詳細を公表していないが、備蓄必要量・対象鉱種・備蓄期間について不断に検証することが重要である。
又、日本メーカーは、モーターなどのレアアース使用を減らす技術の開発を加速させている。特に電気自動車用モーターに欠かせない磁石ではレアアースの一種「ネオジム」を原料に使用した磁石からの代替を狙う技術開発を推進中。又、廃磁石と「クリーンな分離・精錬技術」を組み合わせたリサイクル技術を開発し、リサイクル市場を創出せよ。
■大使館付「エネルギー鉱物資源専門官」の拡充
外務省では石油、天然ガス、石炭及び戦略的鉱物資源に関する情報を収集集約する目的で「エネルギー・鉱物資源専門官」を53か国に設置。各専門官は民間企業、関係機関等との連絡・調整窓口であるが、一層の人員拡充を図り緊密な連携動作を進めるべし。
■南鳥島の深海鉱物資源の実用化
希望の星となる可能性はあるが、採掘・精練の量的・質的・経済性で国際的競争力の獲得を目指して今後の開発努力に注力されたい。壁は高いが焦らず・果敢に挑戦すべし。
■レアアース製造過程に於ける環境汚染ヘの対応
レアアース開発による環境汚染は各地で報告されている。豪は2023年に公表した重要鉱物戦略で「高いESG(環境・社会・企業統治)の基準が世界市場へのアクセスを可能にする」と明記。環境基準に適合した採掘・精錬工程の開発に日本は積極的な技術支援を惜しむな。











