一般海域の占用ルールを整備へ!

洋上風力の本格拡大へ大きな一歩


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年6月号からの転載)

 政府は3月9日、一般海域で洋上風力発電事業などを行う場合の占用ルールを定めた「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律案」を閣議決定しました。すでに国会に提出され、今国会での成立を目指して審議される見通しです。この法案が成立すれば、洋上風力発電プロジェクトを強力に後押しすることになります。

一般海域の利用ルールを定める法案

 沿岸から近い港湾区域については、2016年に港湾法が改正され、地方公共団体などの港湾管理者が公募で洋上風力発電事業者などの占用計画を認定(事業者を選定)し、長期にわたって占用できるようになりました。
 しかし、一般海域(領海・内水のうち、漁港、港湾区域などを除く海域)については、長期占用のための統一的なルールがありません。都道府県条例に基づく一般海域の占用許可は、期間が3~5年程度と短く、洋上風力発電のような中長期にわたる事業を実施するのは難しい状況でした。
 一般海域の占用ルールを定めた今回の法案では、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の認定を受けて、最大で30年間占用できるようになっています。
 法案では、まず政府が基本方針を策定します。その後、経済産業省と国土交通省が、農林水産省や環境省などと協議するとともに、関係者からなる協議会などの意見も聞いた上で、洋上風力発電事業の「促進区域」を指定し、地元との調整の枠組みを定めます。占用事業者を公募で選定するための公募占用指針の策定も行います。
 経産省と国交省から公募占用計画(発電事業の内容や供給価格など)が認定された事業者は、発電設備のFIT認定を受けることになります。促進区域については、地域や関係者の理解を得て、2030年度までに5区域を指定する方針です。
 昨年12月末時点で、国内の洋上風力発電の導入実績は、国の実証事業で建設された6基(計約2万kW)と、FIT認定を受けた7件(計約13万kW)にとどまります。一方、環境アセスメント(環境影響評価)の手続きが進められている案件は、港湾区域で計57万kW、発電ポテンシャルがより大きい一般海域では計376万kWと増えています()。

図 国内の洋上風力発電の導入状況と計画、出所:発電所環境アセスメント情報サービス(経済産業省 HP)から作成

図 国内の洋上風力発電の導入状況と計画
出所:発電所環境アセスメント情報サービス(経済産業省 HP)から作成

世界の洋上風力の状況

 新エネルギー財団によりますと、世界の風力発電の累積設備容量は2017年末時点で518GW。このうち、洋上風力は16GW(3.1%)です。英国5.8GW、ドイツ4.8GW、中国1.9GW、デンマーク1.3GW、オランダ1.1GW、ベルギー0.9GWと、欧州を中心に導入が進んでいます。
 欧州では政府が洋上風力の導入計画を明確化して、環境アセスや系統接続などの立地調整を主導し、発電事業者のリスクを低減させ参入しやすい環境を整えています。その欧州では最近、洋上風力の入札の落札価格が10円/kWh未満の案件や、補助金ゼロの事例も出るなど、事業者間の競争激化で価格が急激に下がっています。日本の洋上風力のFIT買取価格は36円/kWh(2018年度)です。
 風力発電に関する政府の審議会の委員長を歴任する足利大学の牛山泉理事長・特任教授に、洋上風力の世界情勢をうかがいました。
 「欧州の海域は遠浅で安定的に強い風が吹きますので、着床式の洋上風力が大規模導入されています。政府主導で開発可能海域のゾーニングや入札制度導入を進め、買取価格が短期間で急速に下がりました。技術面でも、風車の超大型化が進んで建設台数が削減され、運転保守コストの削減に貢献しています。現在は7~8MW機が主流ですが、風車メーカー各社は10MW超級の洋上風車の開発を進めています。先日も米GEが2021年の市場導入を目指し、12MW風車(ローターの直径220m、ブレードの長さ107m)の開発を発表しています」
 「欧州では、洋上風力の建設現場近傍の港湾で風車などの組み立てや関連機器の保管・積み出しを行うなど、コストがかかる洋上での据付工事の最小化と建設期間の短縮化を進めています。洋上風力が主力電源の地位を築きつつある欧州と比べると、日本は大きく遅れている状況です。しかし、日本には風車メーカーとして日立製作所や、ヴェスタス(デンマーク)と組む三菱重工があり、独自の技術力を活かせる場が広がる可能性があります。海洋大国の英国が洋上風車で輝きを取り戻したように、排他的経済水域が世界6位の日本は大きな可能性を秘めています」

普及への課題と展望は?

 本格普及に向けた日本の課題と展望について、牛山氏にうかがいました。
 「日本では秋田や青森、茨城・鹿島港沖、千葉・銚子沖、北九州などの海域で安定的に強い風が吹き、洋上風力の導入が期待できると思います。ただ、港湾を拠点港として整備する必要があり、巨大クレーン設置のための地耐力強化など、コストがかかります」
 「日本の洋上風力計画は、海岸から比較的近く、1サイト当たりの設置基数が数十基程度と、欧州と比べると規模が小さい。建設工事には、大型クレーンを搭載した自己昇降式台船(SEP)を使いますが、日本ではこの種の船が希少なうえ、傭船料が1日当たり数千万円です。日本の開発規模に適合するSEPの開発が望ましい。また、台風、地震、雷など類似した気象条件や海象条件を有する近隣の国や地域と協力して洋上風力を開発するなど、国策として進める必要があります」
 このほか、環境アセスの手続き迅速化や電力網への接続問題など、政府の制度面での支援も必要です。課題も多いですが、一般海域の占用ルールを整備する法案は大きな一歩!洋上風力の開発動向に注目したいと思います。

響灘風力発電施設=北九州市若松区

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福島浮体式洋上ウインドファーム実証研究事業のもとで設置された5MW の「ふくしま浜風」

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