海の波力を利用した風力発電


YSエネルギー・リサーチ 代表

印刷用ページ

 この4月19日にも海洋エネルギーの利用について本コラムで述べたが、新たな発電方式が実証試験中だと知り、その紹介をしたい。

 海に囲まれている日本は、海に起きる潮流や波のエネルギーを利用して発電する潜在量は多い。海に囲まれた同じような地理条件である英国では、潮流発電が実用段階に入りつつあるが、日本ではまだ実証段階だ。しかし、2050年カーボンネットゼロを目指す日本としては、国内にある再生可能エネルギーを可能な限り開発利用する必要がある。その中に海洋エネルギーの利用が含まれることは確かだろう。

 波力発電とか潮流・潮汐発電は言葉としてはよく知られているが、世界での設置量はそれほど多くはない。例外的に規模が大きいものには、フランス・ブルターニュ地方のランス川河口にある1967年に運用を始めた潮汐利用の発電所だ。フランス電力(EDF)が運用しているが、定格出力は24万kW。ただ、河口にダムを作って満潮時に海水を貯め、干潮時に放水する方式で発電しているため、河口付近の環境を大きく損なっている。

 韓国にも同方式の始華(シファホ)潮力発電所があり、フランスのものより大きい25.5万kW。入江を淡水湖にしようとしてうまく行かず、発電に切り替えた経緯もあるが、2011年から稼働している。

 他には、2003年から発電を始めたノルウエーのクバルスン(Kvalsund)発電所が知られている。流れの速い潮流で水中のプロペラを回して発電する方式で、定格出力は300kW。この方式は、自然の潮流を利用しているため、海洋環境や漁業に与える影響は小さい。

 潮流ではなく波の上下を利用した波力発電もある。上下運動を回転運動に変えて発電機を回す方式や、空気の圧力変化に変えて小規模風力発電をするものなどで、後者の方式は航路標識に使うブイの小規模電源として世界で数千基実用化されている。

 さらに、波を利用した新しい方式の発電設備がオーストラリアのタスマニア沖にあるキングアイランドで開発され、実証運転中のようだ。この新方式は波を細長いコンクリートの空洞にぶつけて受け止め、その空洞内の空気の圧力が高くなるときに、その空気を外気に放出させて風力タービンを回すというものだ。波が引くときには空気圧は減圧されるから、その圧力差の利用も原理的にはありうるが、いま実験中の物では、両方をしようとすると、構造が複雑になるし、全体の発電効率が落ちるので、圧力上昇の時にだけ発電させているそうだ。


キングアイランドの波力発電設備
出典:https://newatlas.com/energy/blowhole-wave-swell-energy-generator-online/

 いま実験中のものの発電容量は200kW。発電コストは石炭火力より安いとのこと。最近系統に接続された筈だ。これを並べることによって、1,000kW規模程度の物を作ることは、地理的な条件はあるだろうが難しいことではないだろう。一方、港などで波が出やすいところなどに小型、例えば数百ワット~1kW位の物を設置することも出来るはずだ。それを幾つか並列に設置すれば、港の照明用の電源などに利用できるのではないだろうか。波が入り込む空洞の形状はあまり影響しないから、周りの景観と調和する形の設備に設計すれば、利用範囲は広いかも知れない。この発電設備の実証運転の結果にもよるが、日本への導入を検討しても良いのではなかろうか。

 瀬戸内海は大きなダムのようなもので、そこを出入りする潮の流れが速いところが多い。太平洋岸は波も高い。このエネルギーを妥当なコストで利用できるようにすることがこれから重要になると思っている。