再エネ余剰電力の新しい蓄電方式


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 風力発電や太陽光発電は、伝統的な火力発電のように電力需要に対応して発電量を制御するのではなく、風の強さや晴れか曇りかなどの気象条件によって発電量が左右される。例えば風力発電の場合、深夜のように電力需要が落ち込んでいるときでも、強風が吹けばそれに応じた発電をする。それをそのまま送電系統に投入すると供給電力過剰となり、広域停電の可能性も出るため、余剰分を蓄電するか捨てるかしなければならない。せっかく発電した再エネだが、出力制御することもあった。蓄電することもあるのだが、これまでは蓄電池を使うのが標準的だった。だが最近、余剰電力で水を電気分解して水素にして高圧タンクに貯蔵し、それを使って水素燃料電池で発電したり、化学原料にする方式も始まった。

 だが、蓄電池や水の電気分解には、その主要設備に稀少金属が使用されているために、日本のようにほとんど稀少金属資源を国内に持たない場合、海外から大量に輸入しなければならず、国産化にも制約が出てくる。だが最近、稀少金属を使わない蓄電方式が開発されたと報じられている。

 風力発電事業者であるHighview Power社(英国)とOrsted社(デンマーク)が共同開発中のものだが、余剰電力を使って空気を圧縮・断熱膨張を繰り返して冷却する工程を重ねて液化(-196℃)させ、断熱したタンクに液状で保存し、電力需要が大きくなってきたときに、その液体空気を高圧空気に戻して噴出させ、タービンを回して発電させるというものだ。空気に含まれる炭酸ガスが排出されるのは避けられないが、脱炭素には当然有効となる。圧縮に電力は必要だが、再エネ余剰電力を消費するだけだから脱炭素そのものとなる。通常のタービン発電設備だから、稀少金属は殆ど使われていない。

 この新方式は現在小規模なものが英国で実証運転され、間もなく実用規模のものがスペインに設置されるようだ。圧縮空気を使った発電となるために、排出される気化ガスには、通常の空気と同じ量の炭酸ガスが含まれるだけだし、稀少金属も使わないから設備コストも大きくならず、大容量の洋上風力発電の出力変動を吸収するのに最適のシステムになると考えられている。

 英国は2050年迄に100GWhの蓄電設備を洋上風力発電向けに設置する計画を持っているが、この空気圧縮液化蓄電方式が採用されると見られている。海に囲まれた日本でも、これから洋上風力発電の設置が進展することは確かだが、その出力変動を吸収するために、この空気液化方式の採用は検討されているのだろうか。天然ガスを液化したLNG(-162℃)を日本は大量に輸入・利用しているだけに、空気の断熱膨張液化や液体空気を気化させる技術の導入に課題はないと言えるだろう。

 英国では、2022年の発電量の4分の1強が、風力発電で占められている。電源別で見ると、天然ガス火力に次ぐ2番目の電源の座を占めているから、風力発電の出力変動の影響は大きい。一方日本では、2020年末時点で2,554基の風力発電機が導入されており、うち3割は東北地方が占めている。 だが、生産されているエネルギー全体のうち、風力発電は1%にも満たない。とは言え、日本に空気圧縮低温液化貯蔵方式を導入するかどうかが検討課題となる可能性はあるだろう。