重力を利用した蓄電システム


YSエネルギー・リサーチ 代表

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出典:https://www.energyvault.com/(EV1 CDU Castione, Switzerland 136)

 本欄で2019年7月8日に、表題のシステムを開発したEnergy Vault社を紹介した。同社の蓄電方式を簡単に説明すると、回転機(電気モーター、発電機)から重りをぶら下げ、発電するときには重りを下げて発電機を駆動し、電力を消費する時には重りをモーターで引き上げる、という方式で、蓄電と放電を行う。通常の蓄電池とは異なり、化学反応を利用しないので、リチウムなどの稀少金属を使う必要がない。極端に言えば、ゴミを固めて重りにすることも考えられる。従ってコストは低くなる。

 同社は、このシステムの実証試験を数カ所で行った後、昨年11月に、米国カリフォルニア州にあるPG&E社(電力・ガス事業)と、293MWh(計画停電時に最長48時間放電可能)の系統用蓄電池の設置について合意し、これを近い将来700MWhにまで拡張することとして州に申請したが、まだ認可は下りていない。認可があれば、今年の第4四半期には着工し、少なくとも10年の利用を想定している。

 CPUC(カリフォルニア公益事業統制委員会)は、2000年6月に、州内の民営電力事業者にマイクログリッドを実現させることを要請しているが、PG&Eは、このEnergy Vault社の蓄電システムを使って、既存の送配電網をマイクログリッド化しようと考えている。

 米国に続いてEnergy Vault社の蓄電システムが設置されるのは、風力発電の設置が進む西欧州ではないかと思っていたが、この8月に報じられたのは、実用システムを中国の上海郊外に設置することが決まり、既に6月に蓄電設備は完成し、間もなく電力系統に接続される段階に来ているということだ。その規模は25MW/100MWh(出力/蓄電容量)で、重力利用蓄電池では世界初の実用化となる。中国側の事業者はAtlas Renewable と China Tianying (CNTY)。風力発電設備の近くに設置され、その出力変動に対応する。

 中国の電源構成の半分ほどが柔軟な出力制御をしにくい石炭火力発電であり、一方では、不規則な出力変動をする風力・太陽光発電が急増している。これまで出力変動の平滑化に貢献してきた揚水発電だけでは対応し難くなっており、出力変動の抑制効果が高い蓄電システムの導入を急増させることが必要になっている。リチウムイオン電池設置量も増加しているが、それに伴って稀少金属であるリチウムの使用増加が避けられない。

 この状況の中で、化学物質を使わない、かつ、コストもかからず、建設に時間を要しない重力蓄電池は、貴重な存在になってくる。中国の系統用蓄電システム増強過程で、Energy Vault社の重力蓄電池の設置数は急増するのではないだろうか。

 日本もこのシステムの導入を検討する必要があるのではないか。太陽光発電の設置容量が増加する中で、東京電力以外の大手電力事業者が太陽光発電の出力抑制を行う現状は、脱炭素を目指すエネルギー政策として望ましい姿ではない。国内にリチウム資源を持たない日本は、リチウム金属、あるいは、リチウムイオン電池の輸入を余儀なくされる状況にあるが、それに代わるものとして、NAS電池(ナトリウムと硫黄)、レドックスフロー電池(バナジウムなど)もあるとはいえ、化学物質を使わないEnergy Vault社の重力蓄電池導入を検討してほしいものだ。