「再エネ固定価格買取制度の見直し」でなく、「廃止」を訴えて欲しかった

書評:産経新聞 金曜討論「固定価格買い取り制度見直し 国民負担の抑制が必要」


東京工業大学名誉教授

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 もともと、FIT制度は、EUにおいては、地球気候変動対策として、化石燃料の代替としての再エネの利用を目的としてはじめられた。ということは、世界各国の協力がなければその効用が得られない(EUでは、ドイツをはじめEU内の諸国が協力しているようだが)。それが、CO2排出量が世界の4 %程度の日本で、特に産業界の反対のために、このFIT制度の法案化が遅れた(EUに比べ 12 年も)理由であろう。日本で、FIT制度の法案化の閣議決定が行われたのが、奇しくも、3.11の原発事故の日の午前中であった。その後、この制度の法案化の目的が、原発事故後、脱原発に転じた当時の管直人元首相の強い要請で(自分の首とのすげ替えで)原発代替に変更され、その退陣直前の2011年8月に法案化された。しかし、現状で、もし、原発代替を目的として、このFIT制度による再エネ電力を普及・拡大させなければならないとしたら、電気料金の値上げによる国民の負担金額は相当大きくなるはずだが、実際には、そうはならない。というのは、現状の経済性を考慮した再エネ電力の導入可能量(ポテンシャル)が小さいから、火力発電用の原油やLNGの輸入金額が日本の貿易赤字を長期継続させることになるからである。それを避けるためには、原発を再稼動させるか、それがいやなら、少し時間がかかるが石炭火力の新増設を急がなければならない(文献1 )。
 さらにまた、FIT制度制定の目的を、もともとの地球気候変動対策に戻して「費用対効果」を考えた場合にも、実は、再エネ電力の利用量と、化石燃料使用の継続に伴う地球温暖化による被害金額の関係が定量的に明らかにされない限り、また再エネ利用での世界各国の協力が保証されない限り、国民の負担費用の適正額は算出できない。一方、再エネの利用を、やがて枯渇する化石燃料の代替と考えるならば、それは、化石燃料の全量を輸入しなければならない日本にとっては、近い将来、何としてでも実現させなければならない重要な課題として浮上してくるであろう。とは言っても、この実行のために、いま、国民に経済的な負担をかけるFIT制度を適用する必要性は何処にもない。化石燃料資源が枯渇に近づき、その輸入価格が上昇すれば、FIT制度を適用しないでも、市場経済原理により、再エネの利用・拡大が推進される。もし、国による政策的な促進を考えるなら、それは、再エネの利用による輸入化石燃料の節減金額に相当する分を再エネ電力生産事業に補助金として付与すればよい(文献 1 )。
 要するに、再エネの普及拡大の目的が何であっても、「費用対効果」の視点から、FIT制度には、何の効用(効果)もないことは明らかである。今回の転載で、竹内氏が引用しているように、ドイツ政府の諮問機関が言う「再エネ法は電気料金を高騰させ、気候変動対策にもイノベーション(再エネ生産の技術開発?)にも貢献せず、同法を継続する妥当性はない」との結論がいま、貿易収支の赤字に苦しむ日本にもそのまま当てはまらなければならない。すなわち、「費用対効果」の視点からの日本のFIT制度は、竹内氏が言われるように単なる「見直す」べき対象ではなく、もともと、存在すべきではなかったのである。実は、このことは、最近の竹内氏の著書「誤解だらけの電力問題(文献3)」のなかでも明確に記されている。すでに、科学的にその存在の合理性が失われてしまったこの不条理なFIT制度について、私が主張している「即刻、廃止すべき」の主張を、竹内氏にも、是非、支持して頂くことを切に是非お願いしたい。
 なお、もう一つ付記したい。それは、いま、政府が進めている電力の自由化、これが実施されれば、消費者は、最も安価な電力を自由に選ぶことができるようになるとされている。竹内氏も指摘しているように、種々問題の多い自由化制度である(文献3 )が、もしこの制度が実施されると、電力料金の値上げにつながるFIT制度で再エネ電力を買わされている現存の電力会社はどうなるのであろうか?いま、電力自由化が議論されているなかで、誰も、この矛盾を指摘する人がいないことの不思議を敢えて指摘したい。

<参考文献>

1.
久保田 宏:原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
2.
日本エネルギー経済研究所編:「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2013年版」、省エネルギーセンター、2014 年
3.
竹内純子:誤解だらけの電力問題、ウエッジ、2014年

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