日本の総力をあげ総合的な水管理システムを


富士常葉大学社会環境学部教授

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 21世紀は「水」の時代と言われ、10年が経過した。上水の供給や排水処理、処理施設の管理運営などの総合的水管理市場は、2025年には100兆円規模になると試算されている。その背景には、水が得られない人口が約11億人、トイレや排水処理がないか実施されていない地域の人口が約26億人も存在している。また、循環型社会を構築するうえで、水処理分野においても二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)といった温室効果ガスの発生抑制やエネルギー回収が急務となっている。

 2008年度に下水道から排出された温室効果ガスの総量はCO2換算で674万tあり、日本の総排出量の0.5%に達している1)。こうしたなかで、小規模分散型生活排水処理システムとして活用されている浄化槽は、最小規模の5人槽で、生物化学的酸素要求量(BOD)1kgあたりのCO2排出量が8.7kgとなり、西村ら2)は人口密度が1040人/km2以下の集落では、下水道による整備よりもCO2排出量が少なくなると報告している。

 これまで、わが国の生活排水処理システムにおける低炭素化対策は、処理施設がエネルギー面で完全に自立したうえで、新エネルギーの活用とエネルギー回収、物質循環を目標とし、現在では省エネ技術の導入を中心とした施策が実施されてきた。しかし今回の震災により、さらなる省エネや節電が求められており、排水処理の分野においても、一層の省エネ技術開発が直近の課題になっている。

省エネだけでは世界市場で生き残れない

 著者は30年前に、嫌気性処理を導入した無動力小規模排水処理装置の開発に一部関与したことがある。当時、一定の処理性能を保持するためには有効容量が過大になることから実用化を断念したが、現在、再考の余地があるのではないかと思案している。

 今後の生活排水対策は、都市部よりも人口5万人以下の自治体が主な対象地域となる。一方で、地方財政は逼迫しているため、低炭素化と併せて低コストで、かつ高度な処理能力を有する汚水処理技術の導入が求められている。

 現在、排水処理分野では、今後の生活排水対策として集中型の下水道あるいは分散型の浄化槽のどちらを適用すべきか議論されている。もちろん、地域の特性に見合ったシステムの採用が最適であるが、いずれにおいても省エネの達成は必須の課題であり、自然エネルギーの活用が検討されている。また、処理水や発生汚泥のリサイクルと資源化、総窒素および総リンの効率的除去、処理施設と下水道管路の補修や耐用年数の拡大、管理運営を円滑にするための事業実施地域と使用料の見直しなどが検討されている。

 低炭素社会構築のための技術開発は、わが国のみならず、排水処理の導入を必要とする途上国においても求められている課題である。研究者、技術者だけが取り組むのではなく、日本の総力をあげて総合的水管理システムを確立していくことが期待される。

参考文献

  1. 森田弘昭:下水道における低炭素社会づくりへの取組み、用水と廃水、52(10)、798-806(2010)
  2. 西村修、濱中俊輔:低炭素社会を目途とした生態工学の活用技法、用水と廃水、52(10)、827-834(2010)

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