第一線の企業人こそ環境メッセージを発信すべきだ
小谷 勝彦
国際環境経済研究所理事長
以前、中国に駐在していた時、帰国するたびに感じたのは、日本の美しさ、環境の素晴らしさだった。日本を訪ねる中国人も同じ印象を持っているようだ。
もっとも、その日本も1960年代には公害に悩まされた。しかし、政府の環境政策と企業の技術開発、環境投資の努力が相俟って、今日の素晴らしい環境を達成できたのである。
環境政策は大気や水などの伝統的な環境規制に加えて、地球温暖化、廃棄物処理など多岐にわたる。政策立案にあたっては、環境省の中央環境審議会、経済産業省の産業構造審議会などで審議される。さらに、下部機関として専門委員会が環境基準等を定める。
その専門委員会について、経済産業省は学識経験者、NGO(非政府組織)、産業界の委員が入り、実現可能性のある制度設計を行う傾向にある。一方、環境省の専門委員会は、「あるべき基準値を決める」というスタンスから、専門知識を持った学識経験者を中心に構成される。過去に「産業界の人たちは偏っている」という批判があったためか、産業界出身の委員がまったく議論に加わらないことも多い。
産業界代表の参加はたったの1割程度
審議会になると、各分野の意見を徴する必要から、環境省の所管の場合でも、学識経験者やNGOなどとともに、産業界からも委員が入るようになる。ただし、経産省が所管する産業構造審議会の委員がバランスよく配置されているのに対して、中央環境審議会では約30人の委員のうち、産業界代表は2、3人にとどまっている。一方で、学識経験者やNGOの委員は、長年にわたり顔ぶれが変わらないことも多い。
環境保全は、「あるべき環境基準」を定めると同時に、これを実行する企業の技術力、経済合理性がバランスして初めて実現する。国際レベルとかけ離れた規制が行われたり、技術力や経済合理性などのために企業の実現可能性が伴わなかったりすれば、効果的な環境政策とはなりえない。
今回、NPO法人国際環境経済研究所を設立した目的は、産業界、研究機関、行政、NPO、メディア等の環境問題に精通した有識者に、環境問題に関する発言の機会を広く提供するものである。とりわけ企業の現場で、科学や技術の豊富な知見を持ちながら「なぜ、こんな実態に合わない規制値が決められたのか」と悩みながら環境対策に取り組んでいるビジネスマンには是非、積極的に発信してもらいたい。
環境と経済の両立を目指す企業人の参画を期待する。