2050年カーボンニュートラルに向けて

- 建前論脱却を目指して -


国際環境経済研究所理事長

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週刊「世界と日本」より転載:2022年12月19日号)

 昨年(2021年)のCOP26では、産業革命以来の温度上昇を1.5度以下に抑えるための温暖化ガス削減が合意されるとともに、石炭火力の段階的逓減も打ち出され、環境推進派の人たちに高揚感があった。

ロシアのウクライナ侵攻

 ところが、今年2月のロシアのウクライナ侵略により、欧州へのロシア産ガス供給途絶の危機感が高まり、世界では温暖化対策からエネルギー確保に大きく舵が切られた。
 脱原発のドイツが廃止を延長、英仏でも原発新設の動きが起こり、わが国の岸田首相も原発再稼働を指示した。
 ロシアの低廉な天然ガスに頼っていたドイツがLNGの確保に走り出し、発展途上国は高騰するLNGにアクセスできなくなった。
 あれほど「悪者」扱いされた石炭確保にEUが走り出した。
 日本で「温暖化対策の模範生」と褒め称えられるドイツは、国内の褐炭火力を再稼働する。
 温暖化対策は、S(Safety)+3E(Environment ,Economic Efficiency, Energy Security)のバランスが大切と言われてきたが、環境(Environment)に軸足が乗っていた。
 厳しい冬を迎え、欧州はエネルギーセキュリティーに重点を移した。

金融の功罪

 金融の役割は産業の潤滑油である資金供給であるが、「ダイベストメント」(特定産業の資金剥がし)の旗が振られている。
 英国イングランド銀行前総裁のマーク・カーニー氏の提唱で2021年に発足したGFANZ(温暖化ガスネットゼロを目指す金融同盟)は、化石燃料への投融資を厳格化する。
 CO2排出が多い石炭等の化石燃料を一刻も早く全廃すべきと考え、化石燃料資源を保有すると無価値な座礁資産になると主張する。GFANZ参加の金融機関は、石炭をはじめ化石燃料の資源開発に投融資しない。
 その結果、化石燃料の資源開発は抑制され、今回のエネルギー危機に石炭、LNGの供給が追いつかなかった。
 さらに、株主総会においても、環境団体が株主提案で企業に圧力をかけている。
 2022年6月のわが国の株主総会で、気候ネットワーク等の環境NGOは、Jパワーなどに気候変動対応に定款変更する株主提案を行った。(これは否決されたが)
 金融は神様の役割を担うのか。

時間軸をどう捉えるか

 世界は、温暖化対策よりもエネルギー確保に走り出している。
 しかし、スウェーデンの少女グレタ・トォンベリさんから「大人は恥を知れ」と言われ、新聞でも「気候危機」と煽られる我々にとって、カーボンニュートラルは大丈夫か。
 2度目標は今世紀末までに実現したいと言われていた。ところが、COP26で1.5度とより厳しい目標が合意され、2050年カーボンニュートラルと前倒しになった。
 これは実現可能なのか。
 エネルギー供給面では、原子力、水力、風力、太陽光、地熱、化石燃料と様々な代替手段があり、コストが安くCO2原単位の少ない電源を選択できる。
 需要面の鉄鋼、化学、セメントなどの製造は化学反応であり、現状プロセスを脱炭素化する代替技術は未だ確立していない。
 鉄鋼では、炭素に替えて水素を還元剤とする技術革新を行うとともに、実用化に向けて水素を大量かつ安価に調達できるインフラ整備が必要だ。
 しかも、水素還元した製品は、従来品と同等であり、膨大な研究投資に見合った製品価格を消費者が払う保証はない。
 CO2を垂れ流す製造国の「悪貨が良貨を駆逐する」かも知れない。

日本の立ち位置:多様性を

 温暖化先進国EUと比べて「日本は遅れている」と言われてきた。
 「今すぐ再エネ100%を目指せ」と言われても、英国や北ドイツは偏西風が年中吹くが、我が国の風力発電適地は少ない。(2022年冬に英国で風が止まり、ウクライナ侵略以前にエネルギー危機は始まっていた)
 太陽光も、わが国は国土面積あたりの太陽光設備はドイツを抜いて既に世界一位である。(メガソーラーについて、土石流等の環境被害を危惧する自治体も増えている)
 「再エネ100%」には、太陽が陰ったり風が止まった時のバックアップ電源が必要となる。(揚水発電や火力発電が待機する)
 欧州は各国間に電気やガスの融通ネットワーク網があるが、わが国は孤立した島国であり、エネルギーセキュリティーは自ら確保しなければならない。
 「再エネ一本槍」と一つのエネルギーに決め打ちするのではなく、多様なエネルギーが必要である。

日本の立ち位置:地球レベルの主導を

 地球温暖化対策は、世界の国々が手を携えて実施する性格のものである。
 京都議定書(1997年)は先進国のみの責任であったが、パリ協定(2015年)は発展途上国も含めた地球レベルの努力を謳った。
 今後の主役は、成長する発展途上国が、エネルギーを活用しつつカーボンニュートラルを実現することが大切だ。(図:CO2が増えるアジアがカギ)
 COP26で、石炭廃止を迫られたインド、中国は、「いまだ電気の通わない国民のために国内資源の石炭火力は止められない」と反旗を翻した。
 世界人口の8割を占める発展途上国にとって、エネルギー確保は成長にとって不可欠である。
 日本は、世界のわずか3%のCO2排出国であり、自虐的に「反成長」を目指す必要はない。むしろ、世界をリードする省エネ技術を移転し、発展途上国の温暖化対策に貢献すべきだ。
 来年はG7の議長国であり、かつて後進国であった経験からも、発展途上国の代弁者としての発信が期待される。


図:CO2が増えるアジアがカギ

建前論脱却を目指して

 2030年46%削減は、官民で積み上げた26%を根拠なく上乗せした目標である。(週刊「世界と日本」昨年10月18日号に掲載)
 辻褄合わせとして、鉄鋼は1億トンから9000万トンと規模縮小させるなど、成長しない産業構造を前提としている。
 円安の下で貿易収支が悪化し、購買力が低下した衰退国家で良いのか。
 企業は国際競争に打ち勝つ成長戦略を自ら構築するとともに、国家もこれを支える産業政策でサポートすべきだ。
 1980年代、「日本の産業政策を非難していた」米国がグリーン産業政策を打ち出し、EU、中国も産業競争力強化を最優先している。

最後に

 ドイツのロシア天然ガス依存は、ロシアのウクライナ侵略で非難されている。
 戦後の冷戦下において、NATOは、強力なソ連地上戦車隊の西欧侵略を阻止すべく、ドイツを戦場にして核兵器で防衛する戦略を持っていた。
 西ドイツのブラント首相の東方外交は、ソ連と西ドイツをガスパイプラインで直結し、緊密な経済協力により自国の安全を確保するとともに、LNGと比べて安価な天然ガスを活用したドイツ産業競争力強化であったことを忘れてはならない。