政策の混迷と課題、震災前に指摘

書評:山地憲治編・原子力未来研究会著「どうする日本の原子力」


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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電気新聞からの転載:2014年9月26日付)

 この本の初版は1998年11月。まだ東日本大震災が日本を襲い、福島原子力発電所事故が起こることなど誰一人として想起していない時期である。しかしページをめくっているうちに、現在の原子力政策を巡る混迷を踏まえて書かれたのではないかとの錯覚にとらわれるほど、我々が直面する課題を的確に指摘し、その解決案を提示してくれている。
 これはすなわち、わが国の原子力政策が相当以前から行き詰まりを見せていたにも関わらず政策の現状維持が続いてきたことの裏返しでもある。原子力発電は単なる発電の一方途ではなく、核物質管理やエネルギー安全保障など国家レベルでの政策全体の中で考えなければならない複雑さを有しており、また、特に核燃料サイクル政策において顕著であるが政策の各ステージが密接にリンクしているために、全体像の見直しが極めて難しかったため、個々の政策について見直しの必要性が唱えられることがあっても、全体的な政策見直しには至らなかったのであろう。しかし福島第一原子力発電所事故やその後のシステム改革議論の進展によってそれらの課題はもう目をつぶってやり過ごすことができなくなっている。
 この書は、FBR、使用済み燃料、プルトニウム、放射性廃棄物、原子力発電所立地、原子力外交、核融合、原子力政策それぞれについて「今後どうすべきか」の提言を述べている。真摯な歴史認識と的確な現状把握、そして時間軸を明らかにした前向きな提言だ。
 執筆に参加したメンバーが書いた前書きにも、我々の足元を照らしてくれる言葉が数多くある。「原子力推進の妨げは推進側の中にある」、「多様な意見を自由に発言できる機能を組み込まねば原子力の未来は暗い」、「問題点の指摘と比較して、解決策の提案がいかに難しいか」、といった執筆者たちの生の声が私達に改めて原子力と真剣に向き合う必要性を伝えてくれる。
 原子力の必要性あるいは脱原発を唱える書籍は数多くあるが、日本の原子力が今後どうあるべきかを現実感をもって書いた稀有の書である。原子力に対する立場を問わず、一人でも多くの方に手にとっていただきたい。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

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「どうする日本の原子力」 
著者:山地憲治編・原子力未来研究会著(出版社: 日刊工業新聞社)
ISBN-10: 4526042641
ISBN-13: 978-4526042645

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