世界銀行は気候ファイナンスの目標を撤廃すべき時が来た

過去10年にわたり開発資金を気候変動緩和へ振り向けたことは、何の成果もないまま援助プログラムを空洞化させた

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2026年6月20日
ヴィジャヤ・ラマチャンドラン、テッド・ノードハウス
https://www.breakthroughjournal.org/p/its-time-for-the-world-bank-to-scrap
を許可を得て邦訳。
監訳 キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 杉山大志    訳 木村史子

6月22日、世界銀行の経営陣は、同行の年間融資の少なくとも45%を気候変動に充てるという目標を撤廃するかどうかを決定する。この目標の廃止は、早ければ早いほどよい。

世界銀行の気候支出目標は、同行の中核的な開発使命を歪めている。官僚的なインセンティブは、貧困削減への影響よりも、気候変動会計の基準を満たすことに偏っていた。支出の判断は、ときに不条理と紙一重だった。1人当たりの二酸化炭素排出量が0.1トンという極度の貧困国であるギニアビサウにおいて、排出量を30%削減しようと試みるために、貴重な資金が費やされた。貧しい国々に必要なのは成長計画であって、「ばかげた脱炭素化」ではない。

こうしたきわめて現実的な懸念は、せいぜい疑わしいと言うほかない気候ポートフォリオを優先するために無視された。世界銀行では、医療、教育、統治、決済システムに関するプロジェクトに対し、明確な説明も、適切な文書化も、脱炭素化の測定可能な証拠もないまま、気候便益スコアが割り当てられていた。今なお、気候変動ファイナンスの会計処理には透明性、標準化された指標、独立した検証が欠けており、報告されている気候変動関連支出が、気候変動に対して有意義な形で対処しているかどうかを評価することは困難である。精巧な気候スコアカードも、気候ファイナンスと成果とのつながりを明らかにするものではない。その勘定合わせは、ほとんどが見せかけの数字操作である。

世界銀行の融資ポートフォリオが気候目標によって本当に変わったのか、それとも単にプロジェクトの分類の仕方が変わっただけなのか、私たちには分からない。しかし、すでに多くの損失は生じている。世界銀行は、アフリカの工業化や電化に不可欠な化石燃料エネルギーシステムへの資金提供を拒否してきた。化石燃料は、強靭なインフラを構築し、安定した電力を供給し、交通網、空調、冷蔵施設、そして経済成長をもたらすその他の実用的な投資を行うために欠かせない。また天然ガスを使うことで最も安価に作られる肥料は、農業収量を高め、飢饉を防ぐために不可欠である。信頼性が高く安価なエネルギーは依然として開発に不可欠であり、再生可能エネルギーシステムだけでは、低所得国の産業やインフラのニーズを満たすことはできないのである。

アフリカの市民が世界銀行の優先事項に懸念を示すことは、事実上不可能だった。アフリカの著名な政策立案者であり交渉者であるファテン・アガドは、最近LinkedInで次のように説明した。

「アフリカ以外の友人たちからのメッセージを読んで、矛盾を暴くような疑問を投げかけるたびに、私たちの多くが受けた『ガスライティング(精神的支配)』を思い出す。再生可能エネルギーへの資金提供が不十分な状況や主権の問題を踏まえ、化石燃料の埋蔵量に恵まれた国々がどのように化石燃料から脱却すべきかについて質問すると、あなたは化石燃料ロビーや「石油産出国」(それがどういう意味なのかはさておき!)の立場を擁護していると言われる。ネットゼロ・フレームワーク(NZF)と、それがアフリカにもたらす費用上の影響について問えば、あなたは反NZFロビーを支持しているのかと言われる。炭素国境調整措置(CBAM)の適用や、それがアフリカに悪影響を及ぼさないようにする方法について質問すれば、あなたは汚染産業のロビイストだというレッテルを貼られる。そしてその過程で、『アフリカの利益をいかに守るべきか』という真の問いには、決して答えが得られず、真剣に向き合ってもらえることもないのである。」

45%の気候目標を撤廃することは、トランプ政権がUSAIDのような米国の開発・対外援助プログラムを空洞化させたことを受け、これまで以上に重要である。予算削減前、USAIDは米国連邦予算の約1%(2023年には670億ドル)を、妊産婦・小児の保健、経済開発、食糧援助などのさまざまなプロジェクトに充てていた。

トランプの援助削減は、バイデン時代の官僚や外交政策指導者たちから非難を浴びた。元国務長官アントニー・ブリンケンは、「米国が退けば、他国がその空白を埋める―多くの場合、私たちの利益や価値観を前進させない形で」と警告した。また元USAID長官のサマンサ・パワーは、開発援助は慈善ではなく、世界の安定と米国の安全保障への戦略的投資だと主張した。彼女をはじめとする関係者らは、USAIDの閉鎖により、低所得国における飢餓、母子保健、清潔な水の確保、教育に取り組む進行中のプログラムが中断または終了してしまったと指摘した。HIV治療薬を配布していた診療所が閉鎖され、エイズによる死者数が再び増加しているという。

しかし、これらの当局者たちは、貴重な開発資金を気候変動緩和プログラムに振り向けることを積極的に支持してきた。10年以上にわたり、富裕国は、援助を受ける国のニーズや要望ではなく、援助国における国内の環境団体の意向に沿って、開発援助を貧困国における気候変動緩和策へと振り向けてきたのである。西側の指導者たちは、気候ファイナンスを、自国の将来に向けた戦略的投資であると位置づけたのであった。

「気候変動は、今日、世界が直面している最大の共通の脅威である」と、2021年当時USAID長官だったまさにそのサマンサ・パワーは述べた。バイデン政権下でUSAIDの気候担当責任者を務めたジリアン・コールドウェルは、自分が「世界最大の政府開発機関を『気候機関』に変貌させ、300億ドル超の予算が気候危機によって方向づけられ、場合によっては気候危機によって主導されるようになった」と誇った。欧州の政治家たちもこうした見方に同調した。欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエンは、「世界的な化石燃料危機は、流れを変える出来事でなければならない。だから、『地獄へのハイウェイ』を進むのではなく、天国へのクリーンな切符を手に入れようではないか」と述べた。そしてドイツのオラフ・ショルツ首相は、気候政策を欧州の経済と安全保障の将来にとって極めて重要なものと位置づけた。またオランダのマーク・ルッテ首相は、気候変動が、移民、不安定化、紛争に関するNATOや欧州の安全保障議論において、脅威を増幅させる要因であると繰り返し警告した。

貴重な開発資金の気候変動緩和への転用は、トランプの2期目が始まるはるか前から、すでに西側の援助プログラムを空洞化させ始めていた。最近の削減は、貧しい国々のニーズが無視されてきた傾向を加速させたにすぎない。こうした動きは、排出量に目に見える影響を与えることなく、貧困削減の取り組みと、開発途上国における米国の国益の両方を損なう結果となってしまった。

米国やその他の西側諸国が化石燃料に関連する開発資金提供から手を引き、その空白を中国とロシアが埋めた。一方で、気候ショックに対処するために西側諸国が提供した開発資金は、目新しいものでもなければ、特に効果的なものでもなかった。富裕国政府は、気候ファイナンスの誓約を満たすために、主に医療、教育、農業、インフラといった従来の開発援助予算から資金を振り向けたにすぎなかった。

ケア・インターナショナル(CARE International)の調査によれば、長年の開発援助コミットメントを超えて真に「新規かつ追加的」だった気候ファイナンスは、ごく一部にすぎなかった。フランス、ドイツ、米国、英国のように、絶対額で見れば上位10位に入る気候ファイナンスの拠出国であっても、明確に追加的といえる資金はほとんど、あるいはまったく提供していなかった。フランスと米国は、国民総所得の0.7%を開発援助に配分するという既存のコミットメントを超える資金を一切提供しなかった。そしてドイツが真に新規の資金として拠出したのは約3%にすぎず、英国も約5%にとどまった。

追加性の基準を緩和して評価した場合、一部の国ではやや良好な結果が得られた。たとえばドイツは、2009年時点の開発金融水準を約540億ドル上回る額を支出した。しかしフランスでは改善はほとんど見られなかった。2011年から2020年にかけて同国が支出した470億ドルの気候ファイナンスのうち、2009年の開発援助ベースラインを上回ったのは48億ドル(10%強)に過ぎなかった。米国は同期間に178億ドルを支出したが、パリ協定締結後の数年間は、新規資金の提供がさらに減少した。英国では、国民総所得比0.5%の援助目標が固定的な支出上限として扱われたため、援助として計上された気候資金は、従来の開発プログラムを犠牲にして拠出されることになった。

さらに悪いことに、排出削減や気候レジリエンスとのつながりが薄いにもかかわらず、プロジェクトが気候関連として分類されていた。「気候ファイナンス」として資金提供されたプロジェクトには、空港、ホテル、映画、チョコレート店、さらには民間企業による商業投資まで含まれていた。

世界銀行やその他の開発金融機関が、気候変動への「対処」を名目にどれだけの開発援助を流用したのか、また気候目標を達成するためにどれだけの開発プロジェクトが棚上げされたり変更されたりしたのかは、それは私たちにはわからない。しかし、開発銀行と富裕国が「気候」の名のもとに自らのプログラムを食いつぶしてきた10年、さらに米国政府や他の西側諸国による対外援助削減を経たいま、世界銀行が気候目標を退け、貧しい人々に明確な経済開発上の便益をもたらすプロジェクトへと、その取り組みと資金を再び優先配分するには、まさにふさわしい時である。

イラン危機を受けて燃料や肥料の価格が上昇する中、景気悪化を下支えする貸し手としての世界銀行の役割は、これまで以上に重要になっている。自然災害や人為的なショックが増加するにつれ、最も苦しむのは貧しい人々である。気候変動関連の支出額を数え上げることは、ローマが燃えている間にバイオリンを弾くようなものだ。45%という目標を撤廃することによって、世界銀行は農業、エネルギー、インフラへの投資に注力し、家計や企業のニーズに応え、貧困国が切実に必要としているサービスを提供できるよう支援することが可能になるであろう。