ドイツの電力事情⑭ ドイツの温暖化対策はどう動く(その1)


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 2020年以降の世界の温暖化対策のあり方について合意することを目指している今年のCOP21は、パリで開催される(厳密にはパリ郊外)。フランスがホストを務めるとあって、EUにとっては今回のCOPはなんとしても成功させなければならないものと認識されている。2009年のCOP15は、その内容如何の前に、デンマーク政府のロジスティクスが極めて貧弱であったため、今でも気候変動関係者の語りぐさになっているほどであり、EUの一員であるデンマーク政府の失敗のイメージを払拭するとともに、全ての主要排出国が参加する2020年以降の枠組みを取りまとめることで、最近の気候変動枠組条約交渉の場で低下してきているEUの存在感を取り戻したいと考えることは当然であろう。
 ホスト国フランスは、EU最大の経済大国であり最大の排出国であるドイツとの連携を強めており、5月18〜19日にベルリンで開催された気候変動に関する閣僚級会議において、仏オランド大統領と独メルケル首相が共同で声明を発表している注1)
 ドイツのメルケル首相は、「世界の長期目標は2010年と比較して少なくとも60%、1990年比であれば50%の温室効果ガスを削減することである。それは大変野心的な目標であるが、協力すればなんとか達成できるものと信じている」と力強いメッセージを発信し、さらに続けて先進国が途上国に対する資金支援により積極的に貢献すべきであると述べた。その力強い言葉とは裏腹に、ドイツ国内の状況を見るとどのように温室効果ガスを削減するのか、その方策は見えてこない。

 ドイツの温室効果ガス排出削減が進んでいないことは以前にも指摘した通りであるが、改めて整理しておくと、2012年は前年比1.6%増加、13年も前年比1.2%増加となった。14年は減少に転じたものの、暖冬の影響が大きいと指摘されており注2)、それをヘンドリクス環境大臣も認めている注3)。温室効果ガス排出量は景気の影響を強く受けるので、単純に増減を見るだけでなくその要因分析が重要であるが、増加傾向が続いた原因の一つとして、褐炭火力発電所の稼働増があるとアルトマイヤー前環境大臣はコメントしている。実際、13年には東西ドイツ合併後、褐炭火力発電所の稼働が最大となった。
 ドイツにおいて再生可能エネルギーの導入は順調に拡大し、14年には全発電電力量の25.8%が再エネによるものとなっている。しかし、再エネの不安定性を調整する火力発電所は自由化された市場にある。さらに、再エネが発電している時には再エネの電気を優先的に利用することが義務付けられているので、火力発電所にとっては「稼げる時間」は短い。コストの安い電源しか生き残れないなかで、結局、褐炭の可採埋蔵量世界一であるドイツで、褐炭火力発電所の稼働が増えたことは、当然であろう。水分や不純物が多く、熱量(カロリーが低い)褐炭は低品位炭と呼ばれる。この褐炭を利用した発電が増えて火力発電の中での低炭素化が進まなければ、全体としての温室効果ガス排出量は増える。再エネの導入量が増えても温室効果ガス削減が進まない理由はここにある。

 ドイツは2020年までに1990年比で40%の温室効果ガスを削減するという目標を掲げているが、2014年の調査によれば2020年の削減率は33%にとどまり、目標未達となる可能性が示された注4)。ドイツ連邦政府は「2020年行動プログラム」を策定して、再生可能エネルギーの拡大、エネルギー効率の向上をさらに強化などにより、ドイツの温室効果ガスの40%を排出する電力部門からの削減を強化することとしている。
 具体的な手段として、2020年までの発電分野からの排出をさらに2,200万トン削減するため、老朽火力発電所を対象としたCO2排出課税案を検討している。しかし、褐炭火力発電所を多く抱える電力会社や褐炭採掘に従事する労働者等から激しい反発を受けており、4月25日のロイターの報道注5)によれば、ベルリンで13,500人(警察発表)の大規模デモが行われたという。石炭産業では10万人の雇用が危機にさらされるとして反発しており、ドイツ最大手の電力会社RWEは、この新税が導入されれば所有する褐炭火力発電所を直ちに閉鎖せざるを得ないとコメントしている。しかしこれが一方的な世論になっている訳ではない。環境保護派6,000人が、褐炭・石炭の環境ダメージを訴え「人間の輪」を作るなど、褐炭を巡っては激しい対立が生じている。
 CO2排出課税案に対する激しい反発を受け、連邦経済エネルギー省は課税を緩める方向で調整している注6)。新たな課税によって、発電分野で2,200万tの追加的削減を目指すこととしていたが、これを1,600万tとし、 600万tはコジェネ設備の利用促進等によって削減するとしている。コジェネ設備の利用促進に必要とされる補助金は年間10億ユーロから15億ユーロに増えるとの見通しだ。

 温暖化対策を考えれば脱褐炭・石炭は図らねばならないが、しかし、電力安定供給や国内の雇用も守らねばならない。褐炭・石炭を捨てられないというジレンマに悩んでいる状況は、ドイツの政府系金融機関(KFW。イメージとしては、政策投資銀とJBICとJICAの合体版)の石炭火力支援の方針改訂注7)にも現れている。このペーパーは、基本的には海外での火力発電所に対する融資方針である。輸出信用に関しては、「気候変動の緩和政策や戦略として位置付けられていて、温暖化政策と合致する場合に限定する。」として、プロジェクトが新設の場合には、熱効率の条件やCCS付設のための技術的および土地要件を満たすことなど等を条件づけているものだが、既存の石炭火力についてもその改修が環境ダメージを著しく貢献するのであれば支援が認められるとも述べている。国内においても高効率化を進めることで褐炭・石炭の利用を継続したいという意図が見て取れるのである。
 いまでもドイツの電源の4割以上(2014年実績で43.6%)の電源が褐炭・石炭いによるものである。この利用を抑えて温暖化対策に有効な貢献をしうるのか。メルケル首相の勇ましい言葉だけでなく、ドイツの国内削減の具体的進展について今後注目していく必要がある。

注1)
http://www.euronews.com/2015/05/19/merkel-and-hollande-pledge-action-on-climate-change/
注2)
http://www.euractiv.com/sections/energy/germanys-co2-emissions-decrease-first-time-3-years-313430
注3)
http://www.bmub.bund.de/presse/pressemitteilungen/pm/artikel/uba-emissionsdaten-2014-zeigen-trendwende-beim-klimaschutz/?tx_ttnews[backPid]=1&cHash=af15bf39e23ab55f79891ce8abd141df
注4)
http://www.dw.de/germany-unlikely-to-meet-carbon-reduction-targets-for-2020/a-17802417
注5)
https://ca.news.yahoo.com/thousands-coal-workers-march-berlin-protest-against-climate-164646853.html
注6)
http://www.cleanenergywire.org/news/minister-set-ease-climate-levy-burden-old-coal-plants-draft-proposal
注7)
https://www.kfw.de/KfW-Group/Newsroom/Press-Material/Themen-kompakt/Kohlekraftfinanzierung/
参考記事:
 
http://www.dw.de/climate-countdown-200-days-to-paris/a-18461911
http://www.cleanenergywire.org/news/minister-set-ease-climate-levy-burden-old-coal-plants-draft-proposal
http://www.germanenergyblog.de/?p=18638#more-18638

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