米国の石炭生産は復活するのか

トランプ政権の石炭支援策始まる


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


印刷用ページ

(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年4月号からの転載)

 1990年代まで米国東部の炭鉱地帯では、米国炭鉱労働者組合(UMWA)が圧倒的な力を持っていた。日本でも1959年の三井三池大争議に見られるように、炭鉱労働者の結束力は強い。坑内という特殊な職場環境のためでもあるのだろう。
 米西部の産炭州は非組合の労働者が多く歴史的に共和党の天下だが、UMWAの力が強かった時代、東部の炭鉱地帯は労働組合が支持する民主党が強かった。ウエストバージニア州の上院議員は、UMWAの支持を受けた民主党のジョン・D・ロックフェラー氏(石油王ロックフェラーの末裔)が2015年まで5期30年間務めた。
 大統領選の得票率をみると、1990年代までは産炭州のウエストバージニア、ケンタッキーは民主党が勝っていた。しかし、UMWAの組織力が弱まり始めた2000年ごろから共和党が強くなり、選挙を重ねるごとに同党が票を伸ばすようになる。今では、共和党の得票数は民主党の約2倍にまでなっている。
 UMWAの弱体化に加え、オバマ前大統領が地球温暖化対策のため、二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電所の抑制策を採ったことも、民主党の得票率減少につながった。同党支持のUMWAは、2008年の大統領選ではオバマ前大統領を支持したものの、12年の大統領選では民主党も共和党も支持しなかった。
 この石炭票の取り込みを狙ったのが、トランプ大統領だった。石炭生産増を訴え、石炭復活を公約の1つにした。この効果は大きく、12年の選挙時に民主党がかろうじて勝った産炭州ペンシルベニア、オハイオ州でトランプ大統領が勝利することになった。両州でヒラリー・クリントン氏が勝っていれば、大統領になっていた。
 トランプ大統領は公約を着実に実行すると述べているが、石炭生産増をどのように実現するのだろうか。その第一歩はオバマ政権末期に強化された湧き水保護法を反故にすることから始まった。

石炭復活の手続き開始

 米国には、省庁が定めた法の発効後、両院が議会開催日60日以内に見直し無効にする議会評価法(Congressional Review Act)がある。大統領は拒否権を持っており、拒否権を覆すためには、さらに議会の3分の2の賛成を必要とする高いハードルがある。
 オバマ前大統領は、気候変動対策の柱として既存の石炭火力発電所からのCO2排出量を削減するクリーン・パワー・プラン(CPP)導入を決めた。共和党が多数を占める議会の承認を得る必要がない、環境保護庁(EPA)所管の大気浄化法の条文を活かす形で導入したが、導入時、議会評価法により法案の無効化を共和党が図るのではないかとの噂が流れた。オバマ前大統領が拒否権を行使するのは間違いないとみられたため、共和党は議会評価法での無効化を諦め、法廷闘争に持ち込んだ。
 それもトランプ大統領の誕生により事情は変わった。オバマ前大統領の辞任直前、EPA、内務省などは駆け込みで新法を施行したが、共和党多数の議会は議会評価法を利用し、新法を無効にしている。昨年6月13日以降に導入された法は、見直しの対象になるとされ、トランプ大統領はもちろん無効化に同意して
いる。
 石炭関連で最初にヤリ玉にあがったのは、湧き水保護法だった。33年前に策定された同法を内務省が昨年12月に改正し、炭鉱からの剝土処理に制限を設けることを決めたものだ。内務省によると、同法により今後20 年間で6000 マイルの小川、5 万2000エーカーの森林が保護される対象になるとのことだ。
 同法により石炭会社が湧き水保護に要する資金は、年間5200万ドル(約60億円)。うち半分はアパラチア炭田で必要とされ、同炭田で減少する職は590と議会に報告されている。2月に議会は同法を不認可とし、トランプ大統領も承認した。
 化石燃料関係では湧き水保護法よりも先に、石油・ガス、鉱山会社に海外政府への探鉱、開発に関する資金の支払額公表を義務づける証券取引委員会(SEC)の財務公開法が、議会評価法と大統領の署名により葬られた。共和党は、海外政府への支払いを公表すると競争力に問題が生じ、雇用に影響があると主張した。

石炭復活はあるのか

 石炭復活のため、これから大統領令を含めてさまざまな動きがあると予想されている。その最大のカギは、CPPの無効化をいかに図るかだろう。CPPでは、EPA が各州の火力発電所の構成比などを考慮のうえ、2012年を基準年に2030年に削減すべき割合を47州政府に割り当てた。全米では2030 年に発電関連のCO2 排出量は2005年比32%削減されることになる。
 各州政府は、2016~18 年にかけて具体策をEPAに提出することが要求されているが、訴訟を受け、最高裁で同法に基づく手続きを中断する仮処分が出され、現在、ワシントンDC地裁で裁判が行われている。裁判の結果、同法が葬り去られる可能性もある。
 裁判の結果、同法が有効となった場合、これを無効化するには、EPAは新たな法を定める必要があり、それには1 年以上の期間が必要とみられている。また、新たな法によらずとも、EPA が予算を削減のうえ今の人員1万5000人も大幅に削減し、実務的に対応不可能にすることにより法を実質的に無効にするのではないかとの見方もある。いずれにせよ、温暖化懐疑論のプルイットEPA 長官がCPPを実行に移すことはないだろう。
 CPPに加え、内務省が2015年12月から行っている連邦政府所有地の鉱業権貸与の一時中止見直し、環境関連法の緩和などの石炭生産増加の政策も予想されるが、その結果、石炭生産は増えるのだろうか。結論からいえば、生産数量の減少に歯止めはかかるが、大きな増産は期待できない。
 米国では石炭火力の廃止が相次ぎ、シェール革命直前の2007 年に600基以上あった石炭火力はいまや400基を超える程度まで減少している。1988 年に発電量の58%を占めていた石炭火力は図1の通り、2016年には31%にまでシェアを落とし、初めて天然ガス火力に発電量1位の座を譲った。

 これは、温暖化対策と関係なく天然ガス価格が下落し、前処理と灰処理にコストが必要な石炭火力より実質的に安くなったためだ。市場がもたらした結果であり、石炭と天然ガスの競争力に変化がない以上、政策により石炭の生産増を図っても効果は限定的だろう。米エネルギー情報管理局(EIA)が2月に出した予測でも、図2の通り石炭の生産は横ばいとみている。石炭復活の有効策は簡単には見当たらない。



山本隆三 ブログ「エネルギーの常識を疑う」の記事一覧