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経済成長とCO2排出量のデカップリングを考える

── 米国オバマ政権の「成果」を問う


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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世界全体でのデカップリング論を検証する

 オバマ大統領の主張だけでなく、近年、経済成長とCO2排出量のデカップリングは可能であり、世界はそれを実現しつつあるという論調がしばしば聞かれる注6)。IEAも本年3月17日に行った発表注7)において、CO2排出量は2016年までの3年間横ばいであるにもかかわらず経済成長は達成しており、両者のデカップリングが続いていることを示していると報告している(図3)。

図3/CO2排出量と世界経済の成長率 (出典:IEA News)図3/CO2排出量と世界経済の成長率
(出典:IEA News)
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 上述した通り、国ごとにGDPとCO2排出量を検証する際には、リーケージの問題に留意せねばならないが、世界全体でみればその問題は排除できる。
 RITEは上述の報告書で一つの章を割いて、世界の経済成長とCO2排出量のデカップリングについて分析を行っている。
 図4が示すように、世界のGDPとCO2排出量の関係は基本的に強い正の相関がみられるが、2013年から15年にかけて、排出量はほぼ横ばいになっている。これはIEAの報告も述べている通りだ。しかし気になるのはその前、2009年から13年にかけて排出が大きく膨らんでいることだ。ここ数年の排出量削減は2009年から13年の間の排出の伸びが大きかったものが調整されてきているに過ぎないとみることもできることが、RITEの報告書では指摘されている。

図4/世界の経済成長とCO2排出量の関係(1971~2015年)図4/CO2世界の経済成長とCO2排出量の関係(1971~2015年)
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 こうした疑問に立って、近年のより詳しい分析をみてみよう。2000年から15年の排出実績に限って線形回帰を行った結果の2015年基準排出量と、2015年での実績排出量との差は、1.09GtCO2(約11億tCO2)となっている(図5)。確かにこの1.09GtCO2はこれまでのGDPとCO2排出量の相関関係から考えれば「デカップリングがもたらした差分」と考えられそうだが、その差をもたらした要因の洗い出しとそれぞれの寄与度を分析する必要がある。

図5/世界の経済成長とCO2排出量の関係(2000~2015年)図5/CO2世界の経済成長とCO2排出量の関係(2000~2015年)
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 RITEによる要因ごとの削減効果分析は表1の通りである。

表1/世界の2015年時点のCO2排出削減効果

 銑鉄やセメント生産量の減少については、中国の生産活動縮小の影響が多いと分析されている。リーマンショック以降も中国では経済成長を支えるため、過剰生産を容認し続けていた。2010年から13年にかけて同国が過剰生産を続けたことで、世界の鉄鋼価格の下落を招き、昨年9月に中国浙江省杭州市で開催されたG20で「世界的課題」として大きく取り上げられたことは記憶に新しい注8)。2013年以降中国が景気減速の現実を受け入れ生産能力削減に取り組み始めたことが大きく影響して、世界の銑鉄生産量は約1億t減少、そのことによるCO2削減効果が約2.5億tあるとされる。同様のことがセメントにおいても起きており、生産量が1.7億t減少したことで、CO2排出量は約0.5億t減少したと試算されている。
 しかし例えば、インドは実績として年5%程度で粗鋼生産量を増加させており、生産能力の増強を図っている。世界全体の粗鋼生産量見通しには複数のシナリオが考えられるが、RITEの試算注9)によれば、2050年頃にはいずれの場合も20億t程度と、2013年実績16.5億tの約1.3倍近い生産が見込まれている。今後の見通しとして、世界の鉄やセメントの生産量が減少していくということは考え難いのである。GDPとCO2排出量の「鉄のリンク」を前提として考えれば、2015年の排出量は確かに約11億t削減されているが、そのうち約3億tは中国の景気減速と生産縮小によってもたらされたこの時期の特殊事情であり、今後もこのトレンドが続くとは考えづらい。
 再エネの発電電力量増加による削減量は約1.6億tであるとされる。この1.6億tのうち、各国の再エネ普及政策などや再エネのコストなどを踏まえて政策的支援による導入拡大と、既に経済的優位性を持つ導入拡大(「真のデカップリング要因」)との内訳を分析する必要があるが、米国に関する項で述べた通り、石炭火力発電よりも安価な再エネが出始めたのは最近の話であるので、2015年の削減効果の内、概ねは前者、すなわち政策的支援を受けた再エネの拡大による寄与度が大きいと考えるのが妥当であろう。CO2排出削減はもたらしたとしても、経済成長をもたらしているとまでは言い切れないのである。なお、この試算には、再エネの不安定性を吸収するために火力発電所の運転が非効率になり排出が増加することなどは反映せず、単に世界全電源平均CO2排出原単位を利用して削減効果を計算したとのことだ。
 実は日本の動向も影響を与えている。震災以降原子力発電が停止し、火力発電所の稼働によってしのいでいたため、2013年は過去最高レベルの排出を記録した。しかし自由化の流れもあって古い石油火力が停止したこと、2015年には鹿児島県川内原発も再稼働したため、2013年と比べれば0.4億tの削減に貢献したと試算される。これも経済成長とCO2排出量のデカップリングではなく、政策の変動による現象である。
 このように要因分析を進めると、現時点で確実な「デカップリング要因」は米国のシェールガス転換のみとなってしまう。これも長期的に考えれば、天然ガスという「化石燃料」の利用を固定化してしまうリスクともいえるが、石炭の代替が進む限りにおいては経済成長とCO2排出量削減の両立に寄与し得る。再エネは現在急激にコスト低下しており、今後はデカップリングの一つの要因となり得るだろうが、まだコスト競争力を高める努力が必要だ。
 筆者は、経済成長とCO2排出削減を両立させる、いわゆる「グリーン成長」の可能性を否定するものでは決してない。しかし、今の時点で経済成長とCO2排出量の相関関係を「過去のもの」としてしまうことは、かえって、グリーン成長を可能にする再エネや省エネのコスト競争力向上に向けた努力を阻害してしまうことになるのではないか。ここ数年のデカップリングに踊ることなく、その要因分析を冷静に行い、安価な再エネや省エネの技術開発という「王道」を進むべきであることを強く主張したい。

本稿の執筆にあたっては、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)による「平成28年度地球環境国際連携事業地球温暖化対策技術の分析・評価に関する国際連携事業成果報告書」を参考にさせていただいた。同機構システム研究グループグループリーダー秋元圭吾氏に多大なるご協力を頂いたことに御礼を申し上げたい。
注6)
報道の一例として。MIT Technology Review「二酸化炭素排出量の削減と経済成長は両立すると米中が証明」
https://www.technologyreview.jp/s/33188/carbon-dioxide-emissions-areflat-for-a-third-year-running-but-the-economy-continues-togrow/#_=_
注7)
http://www.iea.org/newsroom/news/2017/march/iea-finds-co2-emissions-flat-for-third-straight-year-even-as-global-economy-grew.html?utm_content=bufferde0ea
注8)
報道は各種あるが例えばWall Street Journalなど
http://jp.wsj.com/articles/SB11426422161025524901704582294281434004876
注9)
「脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略の研究、平成28年度報告書、(公財)地球環境産業技術研究機構、2017」

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