既存ダム活用の水力発電(その2)

既存ダムの最大活用


認定NPO法人 日本水フォーラム 代表理事

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※ 既存ダム活用の水力発電(その1)
グラハム・ベルの驚き ―エネルギーの宝庫・日本列島―

 既存ダムの活用で水力発電を増強していくことについて述べていく。

すべての多目的ダムでの発電

 国土交通省や都道府県が所管する各地の大きなダムは、治水と利水が目的の多目的ダムである。一般の人はそれらダムでは水力発電をしていると思っている。しかし、多くのダムでは発電していない。せっかくダムで水を貯めて、下流に放流するのだから、その力を使った水力発電をすべきだ。
 第1点は、すべての既存ダムに発電機をつけて、水力発電をすることである。既存のダムに穴をあける技術、水力発電放水管を設置する技術などは確立している。

多目的ダムの運用変更

 2点目は、ダムの運用変更である。1957(昭和32)年に出来た特定多目的ダム法では、治水と利水を目的にしたダム建設のルールを決めた。
 治水は洪水を防ぐために、ダムを空けて洪水を待ち受ける。利水は渇水に備えて、水を貯める。空にしておく治水、水を貯めたい利水、多目的ダムは矛盾した目的を併せ持つのだ。
 ダム建設地点は限られている。そのため、60年前にこのような二つの目的を持つ多目的ダム法を制定して、両方の目的をはたすダムの工夫をした。具体的には、6~9月の約4ヶ月は豪雨に備えて水位を下げている。これはもったいない。治水目的で空けておく空間の全部と言わないまでも、3分の1や半分くらい貯めても良いのではないか、という提案である。それだけでも発電のポテンシャルは急激に上がる。
 ダムの上部の10メートルは水を貯めるのに大きな効果がある。貯水池の上の空間は広がっているので、約100メートルの新しいダムを造るのと同じくらい効果がある。

ダムの上部は貯留量が大きい

ダムの上部は貯留量が大きい

見えない台風が見えるようになった

 特定多目的ダム法案の検討を始めた昭和30年ころには、台風がどこにいるのか? いつ襲って来るのか? それらが分からない状態であった。昭和29年に、日本最悪の水難事故の洞爺丸事件が発生したのもその点にあった。しかし、今は衛星などで気象観測が進み、1週間前から台風の進路が分かる。台風は可視化されたのだ。
 台風が向かってくることが予想されるときには、1週間かけて水量をゆっくり下げて、洪水に備なえれば良い。そのためにダム放流する時には、下流で遊んでいる人々に対しては、きちんとした警報装置をつけていけばよい。そのことに費用をかけても、新しいダムを造るよりもはるかに安くつき、大量の電気が得られるのだ。

予測できる台風進路

予測できる台風進路

※ 既存ダム活用の水力発電(その3)既存ダムの嵩上げとピーク発電へ続く

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