潮流発電


YSエネルギー・リサーチ 代表

印刷用ページ

 10年以上前になるかもしれないが、世界の再生可能エネルギーの潜在力を調べているリサーチャーが日本を訪れていたときに、筆者がインタビューされたことがある。その時に自分の考えとして、開発に少し時間がかかるかも知れないが「潮流発電」に大きな関心を持っていると述べたところ、日本では、太陽光、風力の他にバイオマスや地熱を挙げる人は多いが、潮流を挙げた人はこれまでなかったと言い、その理由はどこにあるかと問われた。「日本列島は南北に細長く、出入りのある海岸線が長い上に島の数が多い。しかも、瀬戸内海という巨大な貯水槽もあって、海の干満の受け皿として有効に機能するはずだから、日本全体で見れば利用できるエネルギー量は大きいのではないか。また、潮流の変動を予測するのは難しくないから、送電系統に与える影響も少ないと思う。」と述べたところ、なる程と肯いてくれた。なお、潮流発電は、海流そのものの力を利用するもので、フランスのランス川をはじめとしてカナダ、韓国など、世界各地で実用化されている河口に堰を作り干満による落差を作って発電する潮汐発電とは異なる。

 こう考えたきっかけは、淡路島と本土を結ぶ明石海峡大橋を見に行ったとき、音を立てんばかりの勢いで泡立ちながら流れる海流を見たことだった。橋の下の海底にタービンを幾つも設置すれば、意味のある規模の発電ができるだろうと思ったのだが、一方では、素人考えに過ぎないのかも知れないと考えたことも事実だ。ちょうどその頃、英国が海底に一基数百から数千キロワット規模のタービン発電機を設置する計画を発表したのを見て少し安心したこともある。その後2010年に、ベンチャー企業が明石海峡にマグロ型のタービン(一基5キロワット)を幾つか設置して2,000キロワット規模の発電をする計画に着手するという報道がなされた。環境省の補助金も出るとあって、良い結果を出すことを期待していたのだが、水中につり下げたタービンが水流で流されて行方不明になり、実用化には成功しなかった。

 だが、今年の7月、九州電力の関係会社である九電みらいエナジーが、長崎県五島市沖で潮流発電の本格実証に乗り出すと発表した。同海域に商用規模の潮流発電機を設置して実際に発電を行い、発電効率などのデータを収集するほか、海生生物などへの影響を検証するということだ。環境省の実証事業に採択されたもので、これから4年間データを集める。欧州から1基2,000キロワットの出力がある商用規模の潮流発電機を導入して海域に設置し、実証期間中に生物などへの影響を検証すると同時に、標準的な影響評価手法や、環境負荷を減らす設備のメンテナンス手法なども検討するということだ。この報道記事でも、潮流発電の実証は英国を中心として欧州が先行していると書かれていたが、やっと日本で実用化に向けた動きが出たことを嬉しく思っていた。

 https://www.q-mirai.co.jp/news/archives/60 
(九電みらいエナジーのプレス発表内容で、タービンの写真がある)

 これを追いかけるようにこの9月、東北大学などが行った研究で、「潮流発電」が日本で採算が合う可能性があるとの結果を得たと報じられた。研究では英メーカーのタービン型発電システム(多分1,000キロワット規模だろう)を日本の海峡に設置して25年間稼働する前提で、海峡の流速などからコストを独自に試算したものだが、システムの設置や運転、送電、保守管理などの費用も考慮している。鳴門海峡では1キロワット時の電気を6円、瀬戸内海の来島海峡ならば8円、本州と九州を隔てる関門海峡ならば10円で生み出せるが、東北の津軽海峡など流速が遅い海峡では費用がかかりすぎ、実現の可能性は低いという内容だった。今回のコストは設置企業の利益や漁業者への補償などの費用を含んでいないので、実際には試算値よりも少し高くなるようだ。

 ともあれ、潮流発電が実用化に向けて動き始めたということだ。インターネットで資料を探してみたら、鳴門海峡だけで100万キロワット以上の潜在量があるという専門家の試算を紹介するウエブサイトもあった。実用化への動きは加速されるかも知れない。

記事全文(PDF)