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ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第15回

日本のミッシングマネー問題対策をどうするか


Policy study group for electric power industry reform


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<comprehensiveな容量メカニズム導入の課題>

 comprehensiveな容量メカニズムの導入に向けての課題は、電力改革研究会(2014)で一旦整理しているので参照されたい。ここでは、適切なkW価値をどのように決めるかについて私見を述べる。

 これについては、将来必要なkW量を決めて入札を行う等、何らかの市場の仕組みを用いて決めることがまず考えられる。このような容量メカニズムを「容量市場(capacity market)」と呼ぶ。米国北東部で導入されている仕組み、英国やフランスで最近導入が決まった仕組みは、いずれも容量市場と呼ぶことができる。米国のPJMの容量市場におけるkW価格の経年推移を図32に示す。詳細は省略するが、kWを数種類に分類しかつ数回に分けて入札を行うので、各年度注60)に複数のkW価値(青又は緑の三角のマーカー)がプロットされている。赤い折れ線グラフは、kW価値の加重平均を年度ごとのトレンドで示している。PJMの場合、3年度先までの入札を常に行うので、2015/2016年度には、2018/2019年度までのkW価値が確定する。

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図32 PJMの容量市場におけるkW価値(容量価格)の推移(1999/2000~2018/2019年度)
(出所)PJM(2016)

 日本にPJMに倣って容量市場を導入する場合、課題が2点ある。第一に、PJMの実績を見ると、kW価値の変動がそれなりに大きいことである。すなわち、電源に投資しようとする投資家から見て、投資回収の予見性が高まると評価されるかどうかであるが、不十分であるならば、価値安定化のための何らかの工夫(下限価格の設定等)も考えられよう。第二に、日本の電源建設のリードタイムの長さである。日本の場合、3年よりも更に先のkW価値が必要と思われる。その場合、先の年度の需要想定が至近の年度より不確実であることをどう取り扱うかが論点となろう。

 なお、kW価値として、理論値を採用することも考えられる。第4回で説明したとおり、シンプルな前提のモデルであれば、適切なkW価値の理論値を定めることが可能である。すなわち;

「電力需要が完全に予見可能」であり、「すべての利用可能な発電技術(DRを含む)が無制限かつ瞬時に調達可能」である前提に立てば、固定費・可変費を含めて総コストが最小となる最適な電源ミックスが一義的に存在する。
当該電源ミックスは、以下を発電技術(DRを含む)の提供者全てに支払うことにより、ミッシングマネー問題は発生しない。
①kWh価値=メリットオーダーに基づく限界費用、
②kW価値=限界費用が最も高い発電技術の固定費相当額
つまり、適切なkW価値=限界費用が最も高い発電技術の固定費相当額である。

 現実の電力システムでは、勿論上記の前提は成立しない。現実の電源ミックスも、立地の制約等から経済最適から一定の乖離は避けられないので、もとより理論値にも限界がある。しかし、市場でkW価値を決める際の課題が克服しがたい場合は、選択肢たり得ると考える。

 なお、このように市場によらずにkW価値を決める容量メカニズムは、「容量支払い(capacity payment)」と呼ばれる。米国のカリフォルニア州、スペイン、1990年の電気事業民営化直後の英国に導入事例がある注61)

<ORDC導入の課題>

 次にORDCを導入する場合について考察する。ORDCは;
   電気の希少性(Scarcity)を反映した価値=VOLL×LOLP 
 をkWh価格に加算する仕組みであるので、VOLLとLOLPを適切に算定することが課題である。特にVOLL(強制的な停電に伴う機会損失)は、直接計測できるものではなく、先行事例を見ても、アンケート等を活用して推定しているケースが多い。このような制約がある中で、各ステークホルダーが納得する水準を定めることが課題である。

 なお、ORDCは、第12回で説明したとおり、コスト回収の確実性はcomprehensiveな容量メカニズムに比べて劣後する。他方、制度はcomprehensiveな容量メカニズムよりもシンプルである。

<3種類の併用も考えられる>

 さて、2016年4月、電力小売全面自由化とともに、当面のミッシングマネー問題対策として、広域機関による電源入札が導入された。この仕組みは、いわば対症療法であり、特定の電源にのみ経済的な補助を与える点で、公平性の問題がある。したがって、次のステップとして、より公平な、comprehensiveな容量メカニズム又はORDCの導入を検討するべきであろう。

 この2者は排他的ではなく、併用が可能である。comprehensiveな容量メカニズムは、kWに対して、kWh市場とは別の安定した収入源を確保する。ORDCは、需給がタイトな時間帯に利用可能な状態にないkWには報酬が支払われないので、kWに対して、これらの時間帯に備えるインセンティブを与える。両者の併用により、それぞれの特徴を活かすことも考えられる。また、両者を併用しても、十分なkWが確保されない事態は想定されるので、セーフティネットとして広域機関による電源入札も残置すればよい。つまり、ここで紹介した3者を全て併用することも選択肢である。

(了)

注60)
PJMの事業年度は毎年6月1日に開始される。1999/2000年度は1999年6月1日~2000年5月31日の期間を指す。
注61)
山内・澤(2015)
<参考文献>
 
PJM(2016), “2015 State of the Market Report for PJM
電力改革研究会(2014) , “ミッシングマネー問題と容量メカニズム 第1回第2回第3回
山内弘隆、澤昭裕 (編) (2015),“電力システム改革の検証: 開かれた議論と国民の選択のために”, 白桃書房

執筆:東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹

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