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ミッシングマネー問題と容量メカニズム(第3回)

容量メカニズムの制度設計に向けて


Policy study group for electric power industry reform


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 第2回では、電力システム改革が進行している日本における容量メカニズム導入の意義について説明した。今回は、想定される制度を前提に、制度設計にあたっての論点を整理・考察する。

3-1 日本における容量メカニズム検討の進め方

 日本における容量メカニズムの導入時期については、理論上は、法律上供給義務を担う主体がなくなる小売全面自由化(第2段階)と同時期が望ましい。しかし、海外においても発展途上の制度であるし、国内においても、ミッシングマネー問題の所在の認識が十分でなく、知見の蓄積も不十分と思われるので、検討にある程度時間がかかるのもやむを得ないと思われる。制度設計WGの議論においても、容量メカニズムについては、表3-1の2つの代表的手法を例示した段階である。

表3-1:容量メカニズムの手法

(出所)経済産業省(2013b)『第2回制度設計WG資料3-2事務局提出資料 新たな供給力確保策について』p.22

 比較的早期に容量メカニズムを導入した電力市場としては、アメリカ東部のPJMが知られているが、上記の2手法のうち、初期に導入された容量市場は手法1に相当し、その制度で顕在化した問題を踏まえた進化形である信頼度価格モデル(Reliability Pricing Model: 以下RPM)は手法2に相当する。こうした経過を考えると、日本における容量メカニズムの検討は、基本的に手法2を中心に進めることが適切と思われる。

 なお、容量メカニズムに対する批判として、電力供給コストが増えるのではないか、というものがあるが、容量メカニズムは、コスト負担の配分を変える仕組みであって、コストそのものを増やすものではない。少なくとも、今が日本全体で必要な供給力が確保されている状態であるなら、容量メカニズム導入の有無にかかわらず、日本全体で発生しているコストは変わらない。仮に導入の結果、ある需要家の負担が増えたとしたら、それは、それまでフリーライダーであった需要家の負担が適正化したことを意味する。

3-2 容量メカニズムの制度の流れと論点

 手法2採用を前提に、容量メカニズムの制度の流れの一例を以下に示す。制度の対象となる年度をNとする注1)

<N年度開始前注2)

(1) 
容量メカニズムの運営主体(以下、単に「運営主体」) 注3)は、N年度における日本全体で必要なkW総量(kW総義務量)を設定
(2) 
運営主体は、発電事業者等注4)による提供可能なkWを募集(発電事業者等が応募)、応募量とkW総義務量に基づきkW価格(クレジット価格)を決定
(3)
運営主体は、上記義務量を全小売事業者に配分(供給計画に基づき暫定的に配分)
(4)
小売事業者は、配分された義務量を履行(義務量相当のkW価値を確保)。

<N年度中>

(5)
発電事業者等は、kW提供者の義務を果たすべく、発電設備等を運用(「kWの実効性」の基準を満たすべく運用)

<N年度終了後>

(6)
運営主体は、提供されたkWの稼働実績に基づき、実効性を評価し、発電事業者等との間で精算を実施
(7)
運営主体は、N年度の需要実績等に基づいて、小売事業者のkW義務量及び履行状況を再評価し、小売事業者との間で精算を実施

 図3-1は、上記を図示したものである。

図3-1:手法2を前提とした容量メカニズムの制度の流れの一例

 (出所)筆者作成

容量メカニズムの制度は概して複雑であるが、その複雑さや難しさは温室効果ガス等の排出抑制策である排出権取引制度と似ているところがある。以下に容量メカニズムの制度設計にあたっての主な論点を列挙した。

a) kW総義務量をどのように決めるか。
b) kW総義務量を小売事業者にどのように配分するか
c) kW価格をどのように決めるか
d) kWの実効性をどう判断するか
 
以下、個々の論点について、排出権取引制度との類似点に触れながら説明していく。

3-3 kW義務総量をどのように決めるか

 容量メカニズムを導入するにあたっては、日本全体として、安定供給のために必要なkWの総量(kW総義務量)を定める必要がある。kW総義務量は、市場で決めることはない。これは、日本の温室効果ガス排出枠の総量を市場で決めることがないことと同様である。kW総義務量は、kWを売る側(発電事業者等)からも買う側(小売事業者)からも中立的であって、かつ安定供給に責任を持つ主体が決める必要がある。

 電力システム全体で確保すべきkW総義務量は;
 kW総義務量 = 最大需要想定値 × (1+適正予備率)

の式で表すことができる。この算出緒元である最大需要想定値と適正予備率は、いずれも容量メカニズムの運営主体が定める。最大需要想定の実際の作業は、各エリアの実情に通じている送配電会社が行い、運営主体がエンドースすることも考えられる。政府の電力システム改革案においては、小売事業者も需要想定を行い、広域機関に供給計画の形で提出するが、これは需要想定と言うより販売計画に近い性格のものであるので、kW総義務量を決める諸元とは基本的に別物である。

 適正予備率については、現在の日本では、8~10%が昔からの目安とされており、一般電気事業者が経済産業省に提出する供給計画でも基準となっているが、容量メカニズムを導入し、小売事業者に金銭負担を求めるに際しては、この基準では曖昧すぎるので、今後は、都度LOLP(Loss of Load Probability)計算を行って適正予備率を定めることが必要だろう注5)

注1)
容量メカニズムは、ある特定の時間を指定して、当該時間において安定供給のために必要な供給力の量を決定することが出発点である。この時間の単位は、ここでは年度を仮定したが、四半期でも月でも週でも日でも、設計は可能である。
注2)
N年度の直前ではなく、一定期間前との意味。どの程度前に(1)~(4)のことを行うかは論点である。
注3)
容量メカニズムの運営主体は、発電事業者、小売事業者から中立である必要がある。日本に照らすと、今後創設予定の広域系統運用機関が運営主体となることが自然であるが、それ以外の組織が運営主体となることも排除されない。
注4)
kWを提供する側を「発電事業者等」と表し、単に「発電事業者」としていないのは、デマンドレスポンス(DR)を供給力(kW)として評価する可能性を想定している。
注5)
適正予備率及びLOLPの算定方法については、第2回参照。LOLPを算定する要素である、電源毎のユニット容量・計画外停止率、地域間連系線の制約、出水による水力発電所の出力変動、需要レベルの時間変化、確率的な需要変動等の需給変動要因は、毎年変わり得るものなので、毎年LOLP計算をやり直せば、毎年結果は変わる。PJMでも毎年LOLPは算定し直している。


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