新電力にベース電源を分配する前になすべきこと


Policy study group for electric power industry reform

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地域独占と総括原価主義の特権?

 6月21日の第7回電力システム改革専門委員会で、卸電力市場の活性化をどう図るかが議論になった。その際複数の委員から、電力会社が長期相対契約で確保しているJパワー等卸電気事業者の供給力について、一部市場に放出すべきとの意見があった。「地域独占と総括原価主義の特権の中で、形成された設備であるから、競争活性化のために手放すべきだ」という理屈である。しかし、地域独占と総括原価主義は、供給責任と一体のものであるから、権利の面だけ捉える議論はフェアではない。

 日本と同様に、電気事業の担い手が民間事業者中心である米国で、自由化導入時に問題となったのは、むしろ、この供給責任による負の遺産である。つまり、「もともと供給責任を果たすために設備投資をしたのに・・、その結果、高コストの設備を抱え込んでしまったのに・・、総括原価主義でコスト回収が確保されることを期待して設備投資をしたのに・・、自由化で梯子を外されるのは困るから何とかしてほしい」という主張を既存電力会社がしたわけである。この理は受け入れられ、自由化をした米国のほぼすべての州で、移行措置として、自由化によって回収が難しくなると見込まれるコスト(ストランデッドコスト)を、全ての需要家の電気料金に上乗せすることによって回収する仕組みが導入された。ちょうど、この7月から日本でも導入される再生可能エネルギー買取制度(FIT)により、全ての需要家が割高な再生可能エネルギーの買取費用を負担するのと似たような仕組みである。

 日本の電力会社は、これまでの自由化議論の中で、こうした移行措置を主張していない(注1)。コストダウン努力で吸収することを選んだのであろう。日本で小売り自由化が始まった2000年当時は、石油・天然ガスの価格も安く、固定費負担の重い原子力や石炭火力等のベース電源を抱えた電力会社は不利な状況にあったにもかかわらず、である。

 (注1)従来の料金算定規則が不完全であったために、過去の電気料金に算入できなかった原子力バックエンドのコストを、制度が整備されると同時に、過去の電気料金から回収できなかった部分を回収する仕組みを導入したことはあった。これは、過去の規制の不備の是正であり性格が違う。

新電力がベース電源を求める理由

 ここ数年、新電力(PPS)はベース供給力の不足がハンディであるとの主張を繰り返している。日本で小売自由化が始まった当初は、このような主張はなかった。石油・天然ガスの価格が安かったため、ベース電源(原子力・石炭火力)よりも固定費負担の軽い、石油・天然ガス火力の強みがより活きたからである。この主張が始まったのは、石油・天然ガス価格が上昇してからである。つまり、石油・天然ガス価格が上昇して、相対的に競争力が低下したことに対する是正を求めている、とも言える。確かに石油・天然ガス価格の上昇は新電力の企業努力でどうにかなる問題とは言い難いが、「状況が変わったのでルールを変えてくれ」では、消費者に真にメリットのある自由化につながる議論にならないのではないかという懸念が生じる。

 ベース電源が欲しいとの新電力の主張に応えて、電力システム改革専門委員会事務局からは、各電力会社のベース電源比率に対応する形で、ベース供給力を新電力に分け与えることが提案された。つまり、ある電力会社のベース電源の比率が20%であったとすると、そのエリアで活動する新電力にはその需要の20%を上限にベース供給力を分けてもらえる、とのことである。つまり、ベース電源の部分で、新電力が電力会社と対等以上になることを確保する狙いである。